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多種族都市の混成種  作者: シズク
大体の日常
8/10

そして、決着!?

「まだやれる!」


 フィーの周囲の地面が凍り付いていき、シルフの足元まで氷が侵食してきた。


「これがフィーの魔法かぁ…きれいな魔法だね」

「ありがとう…でも手加減はしない!」


 大鎌を両手で強く握りしめ、強い意志を込めた瞳でシルフを見据える。シルフは相変わらずつかみどころのない笑みでナイフを弄んでいた。


 フィーはナイフが刺さっていた脇腹に左手を添えるとシルフが魔法を使った時とは違く、フィーの手が水色に光る。すると、地面が凍結したときのようにフィーの脇腹…出血している個所が凍り付いていく。


「…止血かい?確かに重要だけど、直接凍らせるのは体に悪いよ?」

「なら、早く終わらせる!」


 フィーは大鎌を持ち直すとシルフに向かって突貫する。足元の氷がないかのようにスムーズに走り、氷の範囲がますます広がっていく。


 シルフはナイフを逆手に持ちフィーを迎え撃つ体制をとる。だが、突如に背後に違和感を感じ横へと転がる。すると、シルフの立っていたところに分厚い針の形をした氷が突き抜けた。


「あっぶなっ!」

「そこっ!」


 転がった先にフィーが大鎌を振り下ろす。シルフは転がったまま逆手に持ったナイフで大鎌の軌道を逸らした。しかし、頭の近くに落ちた大鎌の刺さった地面から波紋状に氷の棘が広がっていく。


「ちょっ!ちょっ!危ない危ない!」


 地面を転がりながら棘を避けていきナイフを地面に突きたてて飛び上がった。


「まだ!」


 しかし、起き上がると同時にフィーが畳み掛けてくる。さらに、追撃と同時に左右からも氷の礫が飛び出してきた。


「くっ!」


 咄嗟の判断で両手のナイフを左右から飛来する氷に投げつけた。狙い違わず氷に直撃すると氷は砕け散った。だが、大鎌への対応は遅れてしまった。


 左腕を盾にして柄の部分を受け止めるが、メキッという音とともに骨が砕け、大鎌に刃が肩に食い込んでいく。


「あぐっ…こっの!」


 シルフは折れた左腕で大鎌の勢いを殺すと、残った右手で大鎌に向かって掌底を打ち込み宙へと浮かす。すかさずフィーから飛び退き左肩を治療にかかる。


「…傷口が、凍ってる?」


 大鎌の刃が触れた部分が凍り付き氷が邪魔しているのか治療ができなかった。


「無駄、その氷は普通の氷と違う。魔力も熱も通さない」

「そんな氷を魔法で作るなんて…」


 フィーの魔法のセンスの高さに舌を巻きながら、シルフは肩の治療を諦めると腕を治療し肩の具合を確かめた。


「これは…ダメだね。腕が上がらない…」


 フィーの斬撃はシルフの肩の筋肉を切断し、左腕の自由が利かなくなっていた。ここまでの深手を負いながらも汗ひとつたらさないのは、氷によって感覚が無くなってきているからだろう。


「あぁ…書き直すの大変だからあんまり使いたくないのに」


 そういうと懐から幾枚もの紙を取り出した。術式だ、ギアスを呼び出したときほどではないが多くの文字が書かれている。


「さぁて、反撃開始だよフィー♪」


 危機的状況にもかかわらずにシルフは笑みを浮かべてその紙を地面にばら撒いた。フィーはシルフのばら撒いた術式が気がかりで身動きが取れなかった。


 ばら撒かれた術式は周囲の地面を赤熱させて氷を凍解していく。


 パチン


 シルフが指を鳴らすと呼応したように術式の熱量が増していき、そして、火柱が天高く燃え上がった。


「なっ!?」


 間髪入れずに一本、また一本と火柱が上がっていき氷は固形から液体、そして気体へと変わっていく。術式のすべてが発動するころには。シルフとフィーを取り囲むように炎の壁が出来上がる。フィーはその光景を呆然と眺めていた。シルフは懐に手を入れナイフを取り出し右手で握りしめる。


「これで地面の氷は使えなくなったね。そろそろ決着をつけようか」

「…」


 フィーは熱気によって流れる汗を拭い、大鎌を構え直す。シルフは懐からさらに一本、ナイフを取り出し右手に握る。


「…そうだね、今なら誰にも見られないし、さすがに片手じゃあ分が悪いから、フィーにだけ特別に僕の秘密…見せてあげる」


 シルフがそう言うと、シルフの体から赤黒い魔力が立ち込める。魔力の量が多くなるごとに周囲の空気が重くのしかかってくる。


「えっ?」


 フィーが異変に気付いたのはその時だ。


「耳?」


 そう、シルフから犬のような耳が生えているのだ。それだけではない、空のように透き通っていた碧い瞳は赤黒く染まり、髪と同色の黒いオオカミのような尻尾も生えていた。シルフの肉体の変化が止まると、赤黒い魔力が霧散していく。


「さぁ…瞬きしちゃダメだよ」

「!?」


 瞬間、シルフの姿がフィーの目の前から消え去った。どこに!…と、フィーが思うよりも速く…


「だから言ったのに…」


 そう聞こえた時に胸に熱いものが走った、下へと視線を落としていくと…ナイフが心臓に突き刺さっていた。


「え…」


 刺された痛みはなく、体から熱が抜けていく感覚だけが感じられた。フィーは何一つ状況が掴めずにフィーは意識を手放した。




 炎の壁の外ではカムイは舌を巻いて唸っていた。


「また、規格外な術式使うなぁシル坊…。にしても、これじゃあ中が見えん」


 そんなカムイに女子生徒と戦闘中だったはずのマルクが近づいてきた。


「うわぁ…また、すごいことになってるな。二人はこの中か?」

「マル坊か、そっちの試合は終わったのか?」

「あぁ、少し前にな。さっき休憩所に相手を運んで来たらこんなことになってるじゃねえか。なんで闘技場で氷とか炎一色になるのか教えてもらいたいね」


 マルクが皮肉気にそういうと周りの空気が重くなっていく。


「なんだ?」

「これは…お嬢たちのほうからか」

「おいおいおいおい、どっちの魔力だよ」

「少なくともお嬢のじゃねえな」

「一体どうなってんだ…」


 魔力の重圧は消えていき二人は固唾を飲んで炎の壁を凝視していた。やがて、炎の勢いが弱まり始め、中にはフィーを背負ったシルフが立っていた。シルフはカムイたちの視線に気が付くと手を振ってきた。


「あれ?マルクもいる?」

「…その様子を見るとシル坊が勝ったみたいだな…。てことは、さっきの魔力もやっぱりシル坊か?」

「うん、ちょっと奥の手をね。にしても、随分と苦労したよ」

「その割には傷一つ無い様に見えるが?」

「フィーがしん…倒れてから氷の魔法も解けてね、治しておいた。にしても、本当にすごいねこの魔法は、フィーが倒れた後すぐに傷口が塞がっていってさ。度肝を抜かれた気分だよ」

「まぁ、最初は驚くよな」

「そういえば、マルクも勝ったの?」

「ん?あぁ…なぜかいきなりナイフが飛んで来てな…相手に刺さったんだよ…」


 マルクはどこか遠い目をしてそう言った。シルフは気まずさに笑顔が固まってしまい、微妙な雰囲気に汗を垂らしていた。


「そっ、それは不運だったね」


 結局、知らぬ存ぜぬを突き通すようだ。


「ほんとだよ、これがそのナイフなんだけどよ。誰のか知らないか?」


 そういってマルクは右手に持っていたナイフを見せてきた。真っ黒な両刃のナイフで非常によく手入れをされており鏡のように光を反射している。どこかで見たことのあるナイフだ…。


「…あぁ、うん」

「なんだその微妙な反応は?」

「くっくっく」


 事情を知っているカムイは忍び笑いをしていた。シルフはどうしたら怒られずに、かつナイフを返してもらえるかを必死に考えていた。


「いやぁ…その、ね。見たことある…ていうか。知ってるっていうか…」

「本当か!?」

「え…っと。実は僕のなんだ」

「…えっ?」

「周り見ないで投げてたから偶然当たっちゃみたい」


 そういってシルフは頭に手を当てていた。擬音をつけるのならテヘッ、といった感じだろう。


「男がやっても可愛くないわっ!」

「うおっと!」


 シルフの言葉を聞いてから固まっていたマルクがシルフの仕草を見るや否やナイフを投げてきた。シルフは器用にフィーを片手で背負い、ナイフを受け止めた。


「ごめんごめん。今度何かお詫びするからさ」

「なら、今から俺と勝負しろ。こちとら不完全燃焼なんだよ」

「あっ、ねぇねぇカムイ。フィー寝かせておくところどこかない?」

「おい!無視するな!」

「あぁ、それならあっちに休憩所があるぞ」

「ねぇ、ちょっと…」

「じゃあそこに寝かせてくるよ。カムイも来る?」

「おう」

「お~い、聞こえてますか?」


 マルクの声が聞こえていないかのように二人は闘技場にある休憩所までフィーを運んで行った。


「…俺も行こ」


 取り残されたマルクは寂しげに歩いて行った。


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