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多種族都市の混成種  作者: シズク
大体の日常
7/10

そして、フィーとのまともな勝負

「よーし皆、揃ってるな。…って、アルマーニはどうした?」


 シルフたちは闘技場を後にして(ブレンケルは放置で)本鈴が鳴る前に元の場所に戻って来ていた。チャイムが鳴ると同時にグローリアともう一人の若い先生が扉を開けて入ってきた。


「…まぁいい、遅刻なら後で来るだろう」


 などと教師としてはどうなのかという発言をグローリアが言った。


「いいのか?」


 と、言ったのはグローリアの隣に立っている猿人族のシフォン・イーチンだ。背が低く、茶色の髪を後ろで結んでおり、コンプレックスから厚底のブーツを履いている。本人は隠せていると思っているのだが、ほとんどの生徒が知っていた。だが、多くの武器を使いこなし、特に棒術の扱いに関しては学園一を誇る男性教師だ。


 この授業では、少なくても二人の教師が付くことになっている。


「大丈夫ですよ、来ても来なくても私が制裁するのは代わりありませんから」

「うーん、とても心配だ」

「さて、この授業は去年度と同様にほぼ自由だ。チーム対抗戦をするも良し、一対一の試合をするも良し、ひたすら一人で訓練するも良し、もちろんわたし達に指導もしくは試合を申し込んでも良い。というか来い。しかし、私たちがルールを決めた場合はそれに従ってもらう、いいな?」

「「「「はい」」」」

「では、シフォン先生から一言お願いします」

「え!?」


 何も言われていなかったであろうシフォンは、一度グローリアの方を向くと諦めたように前を向いた。


「え〜っと、いくら死なないからといって、死に慣れるのは絶対にダメです。くれぐれもそのことを念頭に置いて頑張ってください」

「「「「はい!」」」」

「それでは解散!」

「「「「イェーイ!」」」」


 生徒たちはそう言って色々な方向に散らばって行った。


「あぁ、どうしようかな」


 シルフは特に何をするでなくぼんやりと座りながらクラスメイトが訓練ている光景を眺めていた。


「シルフ」

「ん?…フィーとカムイかい?」

「おう、暇そうにしてんなシル坊」

「ん〜、さっき戦ったばっかりだからねぇ」

「あんなの体動かしたうちに入んねぇだろ。…てことで、お嬢と手合わせしてくんねぇか?」

「フィーとかい?別にいいけど…」


 シルフはフィーの方を向き上から下へと視線を落とす。


「えっと…その格好でやるのかい?」


 シルフとしては中にスパッツを履いてるとはいえ気にならないのかという気遣いだったのだが。


「?」


 フィーは分からないのか小首を傾げた。


「あぁ…お嬢、下だ下」


 フィーはカムイに言われシルフの見ていたのがスカートだと気づくと、おもむろにスカートを少しだけ捲り上げた。シルフが立ち上がっている状態なら見えなかっただろうが地面に座っていたおかげでぎりぎり見えてしまった。


「中にスパッツ履いてる」


 シルフは目の前で起きたことにフリーズし、とっさに言葉を返せなかった。


「…いや、フィーがいいならいいけど」

「…?」


 シルフは若干赤くなった顔を押さえてそっぽを向いた。そんなシルフにカムイは笑いをこらえながらこう言った。


「クックックッ、シル坊、こんなんで恥ずかしがってんのか?だらしねぇな」

「シルフ大丈夫?」

「だ、大丈夫、もう大丈夫。さぁ、どこで手合わせするんだい?」


 露骨に話をそらしシルフは地面から立ち上がった。


「じゃあ…あっち」

「ん?」


 フィーが指をさしたのはブレンケルと戦った(?)闘技場だ。


「分かった、じゃあ行こうか」

「うん」

「…そう言えば、ブレンケルってまだあそこにいるのかな?」


 そんなことを考えながらシルフたちは闘技場に向かって行った。



 闘技場に着くと、そこには三組の生徒が激しい戦闘を繰り広げており、その中にマルクがいた。


 額に汗を滲ませて槍を振り回す姿からはいつもの授業の時とは違い生き生きとしていた。だが、相手が女子生徒なだけに少し微妙な心境だ。


 そんなマルクにシルフは感心したように言った。


「おぉ、マルクも戦えるんだね」

「頭を使わなければマルクもそれなりに強い」

「あはは、辛辣なコメントですこと。そんじゃ、僕たちも始める?」

「うん」

「じゃあ、戦う前に握手しよっか」


 そう言ってシルフがフィーに手を差し出すと、フィーは躊躇なくシルフの手を握って握手を交わした。


「…僕が言うのもなんだけど、よく躊躇なく触れるね」

「?シルフがそういうことしないってわかってるから」

「…さぁて、始めよっか!フィーの武器はどこだい?」


 フィーの手を放すとシルフは照れ隠しのように露骨に話を変えた。フィーはきょとんと首を傾げていたが、シルフの疑問に答えるためにカムイのほうを向いた。


「カムイ」

「あるぜお嬢」


 そう言うとカムイは幅広のケースを投げた。


「…今どうやって投げたの?」

「シル坊…そこんとこは気にしちゃいけねぇんだ」


 カムイの謎の技術を言及している間にもフィーはケースを地面に置いて中から折りたたまれた鎌を取り出した。フィーが鎌の柄の部分を持ち一振りすると柄の部分が伸び刃が開いた。フィーの身長を楽々と超すほどの大鎌だ。フィーは大鎌を流麗に振り回すとシルフに刃先を向けた。


「私の武器はこれ」

「随分と大きな鎌だね。でも、さっきの動きを見るに使い慣れてるらしいし、それに刃もきれいに研がれてる。…なるほどねぇ」

「シルフはまた素手?」

「いや、今回は武器を使ったほうがよさそうだ…」


 シルフはしゃがみ込み裾の内側から二本のナイフを取り出す。真っ黒な両刃のナイフで鏡のように光を反射させている。


「これが一応、僕の武器だよ」

「一応?」

「うん、場合場合で変えるから、今回は一応これってこと」

「まさかほかの武器も服の中に隠してんのか?」

「当たり前でしょ」

「…おまえは何と戦ってるんだ…」

「そういえばカムイはフィーと一緒に戦わないの?」

「それはお嬢が決めることだからな」


 シルフはカムイからそう聞くとフィーのほうを向くが、フィーは首を横に振った。


「今回は私だけで戦う」

「あいよ、だがシル坊は曲者だ。どんなことをしてくんのか分らねぇ」

「分ってる、気は抜かない」

「…よし、話がまとまったようだし始めよう…って何回目だろうこれ言うの。じゃあ開始はカムイに頼むよ」

「オーケー。じゃあ二人とも、準備はいいか?」

「「大丈夫」」


 二人が声をそろえて言うとカムイは二人から距離を取った。


「では…始め!」


 カムイの号令に合わせて先に仕掛けたのはフィーだった、フィーは突進の勢いをそのままに縦に切り込む。シルフはフィーの攻撃を横に避け突きを放つが、フィーは切り込んだ大鎌を蹴り上げ刃の後ろ側をシルフの右手に当てバキッという嫌な音と同時にナイフを弾き飛ばした。


「くっ…」


 フィーの予想以上の反応速度に驚きながら左手のナイフで下段から追撃を仕掛ける。フィーはから体をひねり追撃をかわすと同時に大鎌を引き戻しシルフの体を両断しにかかるが、シルフは地面に伏せすれすれで刃から逃げる。シルフはバックステップをして距離を取り、弾き飛ばされたナイフを回収する。


「いてて、さすがに強いなぁ」

「シルフも、普通はかわせないのに」


 シルフの右手はあの時の一撃で紫色に鬱血しており腫れ上がっている。どうやら骨が折れているようだ。シルフは右手の具合を確認し、左手を右手にかざすと薄緑色の光が右手を包み腫れが引いていく。その光景にフィーとカムイは目を見張っていた。


 本来、治癒魔法というのは切り傷程度ならば一瞬で治るが、骨折などの複雑な症状は一瞬で治るものではない。魔法のイメージというのは目に見えるもの程治しやすいが肉体内ではイメージしづらいのだ。フィーもシルフの回復魔法に見惚れ追撃を忘れていた。


「…すごい」

「ほんとにシル坊は謎すぎるな…」

「よし、治った」


 シルフは手をプラプラと振り、治ったことを確認する。


「待ってもらったみたいで悪いね」

「あっ…」

「よし、今度は僕が行くよ」


 そういうと治ったばかりの右手で拾ったナイフを持ち、フィーに向かって駆ける。フィーは今度は飛び込まずに大鎌を構えてシルフを迎え撃つ体制をとっていた。


 シルフは左手に持ったナイフをフィーに向かって投擲する。飛来したナイフをフィーは難なく体を捻って躱し、迫ってくるシルフを見据えるとシルフは近くまで迫ってきていた。


 シルフはフリーになった左手をフィーの頭をつかむように突き出すと、フィーは打ち上げるように大鎌を振り上げる。距離的にフィーの大鎌のほうが先にシルフを切り裂くはずだ、そうフィーとカムイは確信してた。


 だが、フィーがそう確信したときにシルフが口を歪ませて笑った。同時にシルフの左手の袖からもう一本のナイフが飛び出してきた。


「!?」


 フィーは体をそらしてナイフをかわすと鼻先数ミリ先をナイフが通過していく。無理な体制のまま大鎌を振り上げるがシルフは右手のナイフで方向を反らされてしまう。フィーは追撃を断念し、柄で地面を突いて後ろへ飛んでシルフから離れようとするが、今度は右手のナイフを投げ、宙に浮かんだ状態のフィーの脇腹に突き刺さった。


「うっ…この!」


 フィーは地面に着地すると、後ろへ飛び同時に脇腹に刺さったナイフを抜き、シルフに投げ返す。だが、その追撃は難なくシルフに受け止められてしまった。運よくか、シルフからの追撃はなくフィーは脇腹を押さえながら離脱した。


「勝負中に慢心はいけないよ。痛い目を見ることになるからね」

「むっ…シルフ、ナイフ持ちすぎ」

「備えあればなんとやらってね。だけど後々回収が面倒なのが難点だよ」


 シルフは右手のナイフを左手に持ち替え、右手の袖から四本目のナイフを取り出す。


「…妖怪より面妖だな、シル坊は」

「やっぱりシルフは強い。でも…」


 フィーはそう呟くと大鎌を握り直す。するとフィーの周囲の大気が凍り、白い靄のように地面に落ちていく。


「私もまだやれる!」


 フィーはシルフを見据えてそう意気込んだ。

詳細な登場人物の紹介って必要ですかね?

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