そして、貴族と平民
貴族っていうと金髪っていうイメージしかないな…
シルフたちは突然の訪問者…ブレンケル・アルマーニの方を見ていた。マルクとフィーは突然のことに呆然と見つめ、カムイとシルフはせっかくの時間を邪魔されて恨めしそうに見つめていた。
ブレンケルは鬱陶しいほどの長髪を靡かせながら優雅な足取りでシルフたちに近づいてくる。
「貴様、どこにいるかと思えばこんなところにいたとは」
いちいち身振り手振りを加えてシルフに話しかけてきた。しかし、シルフはブレンケルの顔を見たあとにマルクに視線を向けると。
「…マルクに用事かい?」
「いや、お前の顔見て喋んてんじゃねぇか。髪の色が同じだからってこっちにふるな」
「バレたか。でも、こんな人とお近づきになった覚えもないし、なりたくもないよ」
「ひどい言いようだなおい」
シルフとマルクとの会話にカムイが油揚げを咀嚼しながらツッコミを入れてくる。話を聞いていたブレンケルは肩をワナワナと震わせていた。
「貴様は俺を馬鹿にしているのか」
「してないよ。めんどそうなのには極力関わりたくないだけ」
「めんどっ…ふん、相手が俺じゃなく、なおかつここが学園ではなかったら不敬罪でその首を跳ねていたところだ。このアルマーニ家長男のこの俺がな」
髪を指輪だらけの手で後ろに払いながらブレンケルはそう言った。
「で?僕にご用事ですか?貴族様」
「この俺を貴族の生まれだど知ってもなおその態度か、よほどの馬鹿か…馬鹿だろうな」
「もう馬鹿でいいから、それで?何の用なのブ…なんとかさん」
「なんだその適当な返し方は!それに俺の名前はブレンケルだ!ブレンケル!不本意ながら同じクラスだろう!」
少しイライラとしながらシルフはブレンケルの話を返していた。その間にマルクはフィーたちの方に近づいてシルフたちに聞こえないように耳打ちをした。
(なぁ、シルフってあんなに起こりやすかったか?)
(あの坊主がウザイってのもわかるが、いつもならのほほんと返してるよな)
(シルフ、私たちが屋上に来た時から変だった)
(こりゃ俺たちが来る前に何かあったな)
(…ブレンケル、どんまい)
ブレンケルはフンと鼻を鳴らして話を戻した。
「まあいい、要件というのは今日の模擬試合のことだ」
「模擬試合?」
「貴様知らんのか?…そうか、貴様は授業を受けたことがなかったのだな。ならばこの俺が直々に教えてやろう」
「…別にいいよ」
「模擬試合というのはだな」
「聞いてないし…」
シルフの発言など気にもかけづに得意げに説明していく。
「対人戦・対魔物戦を模擬的、とはいうが実質実戦として行うことだ。体育館の結界については分かるよな?」
「聞いたよ、君話したがりだねぇ」
「聞いたのであれば話は早い、つまりは命の取り合いと言う形の試合が執り行われるのだ」
皮肉を込めたシルフの言葉は聞こえていないのか説明だけを大仰な身振りで話していく。
結界の効果は死ねなくなるもの、補足するならばペナルティはあるものの死傷を受けても死ねば治るというものだ。
「その試合、俺と戦ってもらおうか!」
「は?なんで?」
「俺は貴様が気に入らない…いや、2-Aの生徒だと認めていない!」
「あんたが認めようと認めまいと、僕が2-Aの生徒だというのはのは学園長が決めたこと、批判なら僕にじゃなくて学園長に言ってよ」
「そんな恐れ多い事できるはずが無いだろう」
「なら学園長の決定に従ってください。はい、お話終了です。帰って帰って」
シルフは追い払うように手を動かした。
「ぐぅ…第一!平民がAクラスにいること自体が変なのだ!」
「そんなの僕以外にも居るでしょう」
「…貴様知らないのか?あのクラスでは貴様以外に平民はいない」
上位クラスに貴族が多い理由はひとえに教育の質の差だ。平民ならばせいぜい親などに教えられる程度だが、貴族であれば子供の頃から高い教育を受けられのだ。
「え?それじゃあマルクとフィーも?」
「無論、マルク・ヴィルシーナ公もフィリナス・リュウセン公も名誉ある貴族の生まれだ」
「へぇ、僕も公とか様付した方がいいかな?」
シルフはおどけた様にマルクとフィーに言うが。
「やめい気色悪い!」
「…」
「ですよね〜」
身震いをするほどに気持ち悪がられていた(フィーはマルクに同意するように首を振っていた)。
「ていうか、知らなかったのか」
「…あっ、そう言えば初めて会った時言ってたような…」
「言ったよ!言いましたよ!覚えててくれよ」
「シルフ…ひどい」
「シル坊…」
「ごめんごめん、人の名前覚えるの苦手だからさ」
シルフは頭を掻きながらそう弁解するが、三人が揃ってシルフをここぞとばかりに弄ってくる。いつも通りのじゃれ合いに四人がホッコリとしていたのだが、置いてきぼりにされたブレンケルが声を上げた。
「コホン!話を続けてもいいかね」
「あ、どうぞ」
「この学園では1にも2にも武力が重視されている。魔物や他国の兵士と戦うこともあるだろうからね。ゆえに俺は貴様に決闘を申し入れる!」
「だ〜か〜ら!ぼくが試合をするメリットが無いって言ってるんだよ!」
「金か?金が欲しいのか?」
「金ねぇ…別にいいかな」
「じゃあ何が欲しいというんだ」
「うぅん、と…」
シルフは腕を組んで考え出すがお金でも武器でも欲しいものは浮かばず、なんとなく周りを見渡したところでフィーのところで動きが止まった。
「じゃあ、フィーがお菓子を作って来てくれるんだったら受けてあげるよ」
「私?」
「待て、関係ない人を巻き込むのはどうかとおも…」
「分かった、いいよ」
「「え!?」」
見事にシルフとブレンケルの声がかぶってしまった。シルフは関係のないフィーを巻き込めばブレンケルが引っ込むと思ったのだが、予想外にフィーの方から話に乗ってきた。
「私のでよかったらいいよ」
「…え、マジで?」
「うん」
「カ、カムイ、まさかの返答が返ってきたんだが…」
「…シル坊には一生分からんだろうな」
「なんだって?」
「いや、なんでもない。しかし、これでシル坊は試合を受ける理由もできたわけだな」
確かに、試合を受けることで対価は得られるし、勝てばブレンケルを黙らせることもできる。どちらにしてもプラスになるのだ。
「…まぁそうだね。仕方ないから受けてあげるよブランケット様」
「ブレンケルだ!しかし、本当に良いのですか?」
「いい」
「…分かりました。それでは詳しい内容は午後の授業の時に話す。尻尾を巻いて逃げるなよ!」
そう捨て台詞を吐いてブレンケルは下の階へと降りていった。
(やったなお嬢、渡す口実ができて)
(うん、でもシルフに悪いことした)
(そんなの気にする事ねぇさ、お嬢のお菓子を条件に出したのはシル坊だしな)
カムイとフィーはこそこそとそんな話をしていた。シルフはやっとブレンケルから解放されて伸びをしていたところでマルクから声が掛かった。
「なぁシルフ、今更だけど大丈夫か?」
「ん?なんのこと?」
「いや、ブレンケルとの試合のことだよ」
「うん?ただ試合するだけだよ?」
「いや、ここの試合っていったら殺し合いと同じだぜ?」
「まぁ、それなら気兼ねなく攻撃できるからいいんじゃない?」
シルフは臆するでも興奮するでもなくただただ平坦な声でそう言った。
「その自信はどこからくるんだよ…言っておくが、ああ見えてブレンケルはクラストップクラスの実力者だぞ」
「へぇ〜」
「興味無さそうだなお前」
シルフは気のない返事で返すが、ひとつだけ聞き忘れていたことがあった。
「そういえば武器と魔法は自由なの?」
「指定がない限りは自由だな。武器だけ、魔法だけってのもあるからな。武器は学園側が貸出してるのもあるけど、大体の人は持ち込んでるよ」
「それは生徒手帳に書いてあったから僕も持ってきてるよ」
「おまえ、ちゃんと生徒手帳とか読んでんだな。ところで、シルフの魔法ってなんなんだ?あんまり武器で戦いそうなイメージねぇし」
「僕の魔法かい?」
その話題には興味があったのかヒソヒソと話をしていたフィーとカムイもシルフ達のほうにやってきた。シルフは困ったように頭をかいた。
「そんなに期待されても困るんだけどなぁ…」
「シルフなら風魔法っぽい感じがするな」
「そうか?俺は水かと思ったがな」
「…土っぽい」
「まぁ、溜めても仕方ないから言うけど。僕の魔法は…」
「「「魔法は?」」」
「回復魔法だよ」
「「「…え」」」