そして、やってきた転校生
遅筆ですが楽しんでもらえたら幸いです。
澄み切った青い空、そんな空と同じ碧色の目をした一人の少年がいた、身長は平均的な男性よりは少し低く、女の子と間違われるような童顔だ。そんな少年がとある学校の前にたたずんでいた。
ルミナス学園…ここルミナス国にある貴族、庶民、種族、年齢を問わずに入学できる学校だ。言語に算術、武術や魔法術などの教育、育成を受けられる場所だ。貴族、庶民関係なく学園内では生徒の立場は平等になるそんな場所だ。
少年が学園の校門をくぐり玄関口に行くと、そこに人が佇んでいた。真っ白な髭を蓄え、優しそうな雰囲気の長身の老人だ。脇に封筒を抱えている。
「君がシルフ君かね?」
自分の髭を撫でながら老人は言った。シルフと呼ばれた少年は老人を見据えると口を開いた。
「はい、申請書は送られているはずですが」
「もちろん、届いておるよ」
老人は封筒から一枚の紙を取り出し、シルフに見せた。
「これがおぬしの申請書じゃな。それでこっちが…」
「いえ、届いているなら大丈夫です」
シルフは老人が封筒からもう一枚の小さめの紙を取り出そうとしたところで老人を止めて話を促した。
「それもそうじゃな。ここで話すことでもあるまい。そろそろ生徒も教室に戻っているじゃろ。早めに教室に行くか」
「わかりました…そう言えば名前を伺っていませんでした」
「おぉ、すまんすまん。つい先走りすぎてしまって、わしの名はグードゥ・サイケトリス。この学園の理事長じゃよ」
「…僕はシルフィードです。よろしくお願いします」
グードゥはシルフの落ち着いた反応を見て少し残念そうにしながシルフに向かって手を出した。シルフもグードゥと同じく手を出して握手を交わす。
数度、握手を繰り返しとードゥは胸ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認していた。
時間が迫っているのか無言で校内へと歩き出すと、グードゥを光が包んだ。シルフはまぶしそうに目を細め光の中からの声を聞く。
「さてと…そろそろ行きましょうかシルフ君」
グードゥが発しているはずの声は女性のように高い声になっていた。やがて光が消えるとそこには黒髪のロングヘアの20代くらいの女性がいた。眼鏡をかけた長身の女性だ。
「…は?」
流石に理解が及ばず呆然と口を開いているシルフに女性はいたずらが成功した時の子供のような顔でシルフに言った。
「改めて自己紹介しようか。私の名前はグローリア、魔法学の担当であなたの担任です。どうぞよろしく」
「…理事長には女装癖がおありで?」
「違うから!私の魔法だから!」
魔法というのはこの世の知的生物…人、亜人、ドラゴン、高位の魔物といった生物が使うことのできる力のこと。
しかし、人や亜人はドラゴンなどと違って例外はいるものの原則として一個体にひとつの属性の魔法が使える。使える魔法は先天的に決まり、その人に合った魔法を使うことができる。
であるから、このグードゥの女装もグードゥの特殊な嗜好ではなく、魔法による変身と言った感じなのだろう。
「つまり、生徒たちのことを知るためにも担任や教師の立場から見たかったんだよ。分かってくれる?」
「はぁ…ですけど、女性になる必要は無いのでは?」
「うぐっ…あっ、時間がそろそろ危ないかな~。早く行かないとシルフ君を紹介する時間がなくなっちゃうな。うん、そうと決まれば早く行きましょう!」
グローリアはシルフの腕を引いて担当の教室まで走って行った。
-廊下は走っちゃダメでしょう。
シルフは内心でそんなことを考えていた。
ルミナス学園は1〜5学年まであり、それをA~Eのクラスに分けられている。もちろん、年齢は高くて20代、低くて10代近くになる。クラスには優劣がありAが優秀生、Eは劣等生という格付けにされており、進級・昇級も可能であるが、先輩からと教師からの申請が必要で、そのあとに進級テストを受けられることになる。
そんな多くあるクラスの中でシルフはグローリアに2-Aの教室の前まで連れられていた。教室の中からはクラスの生徒たちの声が聞こえてきている。シルフは首を傾げてグローリアに聞いた。
「学園…グローリア先生」
「なにかな?」
「ここってAクラスですよね。しかも、2学年の…」
「他にどう見えるんだい?」
「僕、この学校に来たばっかりなんですけど…1学年からではないんですか?」
「そんなことをしたら私の監視下に置けないじゃないか!」
「監視下って、僕は囚人か何かですか…」
「…あながち間違ってもいないかな」
「え?」
「さぁ、行こうか」
グローリアはさっさと教室の中に入って行ってしまう。シルフは仕方なく、グローリアに呼ばれるまで待つことにした。
「ほらー、みんな席に着け…て、もう座ってるのか。ホームルームの前に今日はお前らに大事な知らせがある…入ってこい」
グローリアに呼ばれて、シルフは教室に入り教室内をを見渡す。人族、犬人族、鳥人族、竜人族、鬼神族、そして妖精族、多種多様な亜人種が一様にシルフのことを不思議そうに見つめていた。
「このクラスに転入することになった新しい生徒だ。ほら、つっ立ってないで自己紹介しろ」
グローリアに挨拶をするように促され、シルフは頷き黒板に名前を書き込んだ。
「シルフィードです。シルフと呼んで下さい。これからよろしくお願いします」
「…え?終わりか?」
「はい、そうですが?」
「…まぁいい、どうせこいつらに質問攻めにあうだろうしな。お前の席は…あそこだ。ホームルームを始めるから早く座れ」
淡白に終わってしまった紹介とは裏腹に生徒たちの目は好奇心に満ち溢れていた。
それもその筈だ、この学園では一学年以外の転入生というものはほとんどありえないのだ。
都市ルミナスにはこの学園しか学校はない。よって、ほかの都市から来るか、飛び入りで一年生から転入するしかない。そんなことで、2学年に転入してきたシルフにはそれ相応の視線が注がれていた。
シルフが席に座るとグローリアはホームルームを始めた。出欠確認や今日の予定を淡々と話しただけですぐに終わった。
「こんなもんかな、じゃあ日直」
「起立…礼」
終了の号令を日直がかけ、ホームルームが終わった。それと同時にシルフのもとに数人の生徒が集まってきた。
「ねぇ、ねぇ、シルフ君。どこから転校してきたの?」
「もしかして違う都市から?」
「なんでいきなりAクラスに来れたの?」
などなど、似たような質問がいくつも上がってきた。シルフは一つ一つの質問をわかる範囲で答えていった。
「僕はこの都市の出身だよ」
「いきなりグローリア先生に連れてこられたから分からないんだ」
「そうだね、一応人族だよ」
そう質問を返していると、別の方からの嫌な視線をシルフは気が付いていなかった。
見切り発車のため設定がグダグダになることがあります。