蓮之大池
こんにちは、とおかです。
前回「次はわかりやすくなります」という旨の話をしたが、あれは嘘だ…。
蓮之大池
◇◇◇
風が蓮の花をゆらし、透き通った水面を波打たせる。
初夏には水面が蓮で賑わう、蓮の名所となっている湖。その湖に奇妙な噂が流れていた。
その湖に近づくと神隠しに遭うというのだ。
しかし火のないところに煙は立たない。
実際に神隠しを間近で見たという者の話では、水面を覗き込んでいた友人が湖に落ち、慌てて駆けつけたところ影も形もなかった、という。
神隠しと聞いて、私はどこにでも二三歩で行ける妖怪を思い出した。
しかしそいつの力は、私の知る限り、今回のように忽然と姿を消すようなものではない。
それに、聞こうにも何処にいるのか分かったものじゃない。異世界に出ていることもあるのだ。
ああ!何をずっと考えているのか、私は。実際に見に行った方が早いじゃないか!
◇◇◇
巨大な鏡となった湖が山や木々を映している。透き通った水が肌寒い気候をさらに寒く感じさせる。
「水に落ちた時、消えたんだよな…」
水底を覗き込んでみるが、やはり見えるのは透き通った水と泥だけだ。
この寒い中、落ちたら風邪をひくな。
「そ、そそそそこで何してる!」
声のした方を見ると、蓮の葉を傘のように持った小さな女の子が、水面に浮かぶ蓮の上に立っていた。
「ここ、ここはわたったちの場所!かかか帰って!」
女の子は見事に噛みまくりながら、頑張ってそう言った。下手をしたら聞こえなかっただろう。
見ていてかわいそうなほど怯えている。そうだ。少しいたずらをしてみよう。
ゆっくりと手を前に突きだし、魔法使いのまねをすると、案の定その子は「ひっ」と言って後ろに下がるとバランスを崩して変な声を上げながら湖に落ちた。
「えー…」
どんくさいというか、なんというか…。
水面と蓮の葉の間からこちらを見ている。本当に気の弱い子なのだろう。
それから普通に話ができるようになるまでかなりの時間を要した。
◇◇◇
「―というわけで、おまえたちに危害を加えに来たんじゃあない。」
蓮の花の妖精、蓮歌は、蓮の葉をぎゅっと握りしめて、ほっとしたように息をついた。
「ひ、人が消えたの…?」
蓮歌は控えめに(すごく控えめに)確認した。
すこし考え、やがて決心したように水面に手を伸ばし、少し波打たせた。
水が揺れて水面下の景色が歪み、よく見えなくなる。
やがて揺らぎはおさまるものの、底は見えなくなっていた。代わりに黒い背景に黄や赤の煌々とした炎が見えた。
「これは一体…なんだ?と言うより、どこだ?」
水際から離れ、抱くように蓮の葉を握りしめている蓮歌に問う。
水面の向こうに見えているのは明らかに湖の底ではなかった。燃え滾る炎の海。それはまるで…
「まるで地獄じゃないか…」
◇◇◇
蓮は極楽浄土の花。有名な話に天上の蓮の池から地獄に蜘蛛の糸を垂らした話がある。まさかこの蓮の湖も地獄と繋がっていたとは。
恐る恐る手を伸ばし、水面を揺すった。揺れがおさまったときには先ほどの景色は消え、泥の底だけが見える。
蓮歌は明らかに地獄に怯えていた。昔からあったならこんなに怯えることはないだろう。
これ以上蓮歌を怯えさせるのはかわいそうだと思い、私は一旦、蓮の湖を後にした。
地獄に神隠しに遭った者共がいるのはおそらく間違いない。
地獄と言えば…と、私は地獄に携わっている妖怪がいたことを思い出した。
訪ねて話を聞いてみると、もともと壁の監獄(地獄行きを待つ者を閉じ込めている場所)の池にあったらしいが、しばらく使わないうちに池の中からなくなっていたという。
私がこの話を広めると、話は一気に知れわたり、有志たちが集まって捜索隊が結成されることになった。
まあ、捜索隊とは名ばかりで、ただ地獄に興味がわいた連中が遊びたいだけだと私は予測しているが。
私は参加するつもりはない。そんな遊びに付き合っているほど暇ではない。
なんてったって、そいつらにこっそり付いて行く準備をしないといけないからな。
蓮之大池 おわり?
本当文章下手でごめんなさい。
今回も昔書いた話でしたー