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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
7章 少年と少女は競う
53/94

7-2

 

 早朝、まだ陽は昇りきっておらず外は薄暗い。この季節のこの時間、山から冷たい空気が流れてくるレズレンの村は肌寒い。人が寒さを感じるということは人里に近づく竜が減ってくる季節の到来を意味していた。


 白緋の女神が常宿としている宿は3階建て。1階の客室は1部屋だけでその部屋はソフィアが使っていた。他の泊まり客は皆男の狩竜人なのでネイファが気を利かせてソフィアだけは離れた部屋を用意したのだ。朝食の支度が整い、宿の女将が狩竜人たちを起こしにまずはその1階の部屋に向かう。すると部屋の前で転がっている怪しい人影を発見した。


「ちょっとエルっ、なんでこんなところで寝てるの?」


「あ、おはようございますネイファさん」


 薄い毛布にくるまったエルは眠い目をこすりながら体を起こす。


「おはようはいいけど……なに、ソフィアちゃんに夜這いでもかけようとしたの?」


「ち、違いますからっ」


 エルは慌てて昨日ドルブンに絡まれたことを説明する。エルは大男の捨て台詞が気になって寝付けずにいた。いくらなんでも宿まで調べて襲ってくるとは思わなかったが、自分の部屋にいても落ち着かないので結局ソフィアの部屋の前で夜を明かしたのだ。


「また厄介な男に絡まれたわね」


 ネイファはドルブンという名前を聞いて嫌な顔をする。


「知ってるんですか?」


「ええ、元でも現役でもあいつのことを知らない娼婦はいないわ。今日はあなたたち狩竜には行かないんでしょ? 朝ごはん食べたら話してあげるから」


 白緋の女神は協会から呼び出しがないかぎり狩竜はしばらく休むことにしていた。ガイツが金銭管理をするようになって戦団の財布はかなり充実している。懐に余裕はあるのだから一旦休んででも、これまでの狩竜を見直しながら実力の向上を図るべきだというガイツの提案だった。


 これまで朝食は主に保存食か狩竜人相手に商売をする露店の冷めた食事だった。しかし今の宿に来てからはネイファの夫が作った温かい食事を朝から取れるようになった。それもあって毎朝エルの食欲はすさまじい。


 無口で無表情な宿屋の主人は妻とは親子ほど離れている元中堅の狩竜人。毎朝無言で狩竜人たちに美味い食事を提供する。3人にはそうは見えなかったがネイファはあれでも夫は白緋の女神の3人をとても歓迎していると言う。愛想の良いネイファがいなかったら客商売は無理そうなほど無愛想な元狩竜人は、自分の作った食事をこれ以上なく美味そうにむさぼる若者の姿を柱の陰から毎朝じっと見つめている。


「ネイファさん、ドルブンって男のことを聞かせてもらえませんか?」


 他の泊まり客が狩竜に出かけて宿も落ち着いたところでネイファと3人は同じ卓について話し始めた。ドルブンという名前を耳にしてぴくりと反応した宿の主人も、珍しく客の前に姿を出して同じ卓につく。その手には自家製の甘い焼き菓子。朝食を呆れるほど取ったあとだが、エルは感謝の言葉を口にして笑顔で菓子にかぶりつく。


「あいつは娼婦たちの間じゃ有名な狩竜人ね、性格が悪すぎて。私は運良くあいつと関わる前に旦那が拾ってくれたけどね。普通は狩竜人なんて娼婦にとっちゃ上客しかいないんだけど、ドルブンはいくらなんでも傲慢すぎて避ける娘も多かったわね」


 夫の目の前で自分が娼婦だったという言葉を口にしたことが、ソフィアは気になった。元々夫は客だったのだからネイファはそんなの気にしなくていいと笑う。夫も不機嫌になるわけでもなく、無言でうなずくだけだった。


「でも金払いはいいし捕まえにいく娼婦も多いの。村の普通の女の子に無理やり手を出されちゃ娼婦の名折れだしね。確かに強い狩竜人だし娼婦じゃなくても自分から寄っていく女も多かったのよ。それがまずかったわね……どんどんつけあがっちゃって」


 娼婦にだって矜持というものはある。力を誇示して女性にに乱暴を働くような者が出ないよう、村の若い娘たちの盾になるのも役目だと考える娼婦も少なからずいる。


「それでもなんとか娼婦たちが頑張ってたから、今まで大問題になるってことはなかったの」


「しかし俺たちに絡んできたやり方は酷かった。あれはいくらなんでも協会が放置しておくとは思えませんでしたよ」


 ガイツは思い出しただけで腹が立った。


 狩竜人協会はその役割を鑑みて人々の信用をとても大事にする。もし信用を失うようなことがあればどうなるか。狩竜人と協会が信用できないとなれば力のない者が勝手に狩竜をし始めるかもしれない。それは無駄に人食い竜を生み出す危険が増すだけで良いことは1つもなかった。人と竜との生存競争に勝つために無駄な犠牲は絶対に出せないのだ。


「あいつは8年前の竜災でかなり活躍したの。エルは知ってると思うけど、人食いレイダークが一斉に現れちゃったからレズレンの狩竜人でもほとんど手が出なかったのよ。それをドルブン1人で相当数のレイダークを狩ったって話だわ。どうせすでに人食いになってるからって、仲間の狩竜人を餌にするような真似もしたみたいだけど。ただ確かにドルブンの働きがなければ大竜際の被害はレズレンだけじゃ済まなかったそうよ。飛び抜けて強いから村でも英雄視されてた時期があったくらい。その手前もあって協会も扱いに困ってるのよね。今じゃすっかり性格が知れ渡って普通の人は男でも女でも近づきたがらないけど」


 最弱の竜と言われる白爪竜リグトンですら人食いになると危険度は格段に増す。レイダークの人食いともなると対応できる狩竜人はレズレンでも数が少ない。そんな中ドルブンは人食いでもあっさりと狩ってみせる。そんな強い狩竜人を大勢抱えるのは南のハイウェスラルだけであり、レズレンの協会が無碍にできないのは仕方なかった。


「嬢ちゃんは珍しすぎる。30年近く狩竜人をやってきたが、嬢ちゃんみたい美人は見たことがない」


 珍しく無口な宿の主人が口を開く。ああ、とか、おお、など相槌を打つ以外に喋らない男がそれなりに長い言葉を口にしたことでソフィアとガイツは驚いた。エルだけは実は結構話したことがあり驚きはしなかった。常に腹を空かせている若い狩竜人に気づいた宿の主人は、時折餌付けするように食べ物を与えていたのだ。


「そうね、こう言っちゃなんだけど女の狩竜人さんで美人ってのは珍しいから、余計にドルブンの目に止まったんでしょう。あいつは珍しい女が好きだから。ユニスさんもかなりの美人だけど、あの人は旦那さんも狩竜人だし銀の鍵所属の有名な人だものね。さすがにドルブンも手は出しづらいだろうし」


「えへへ」


 美人と褒められたことに照れ笑いするソフィアは意外と呑気だ。確かに傲慢な大男に腹は立っていたが、自分の身が危ないとは思っていなかった。


「あのな、お前が1番危ないんだぞ。ちょっとは危機感を持て危機感を」


 ガイツは気楽そうなソフィアに顔をしかめる。狩竜人同士のいざこざはないわけではない。ただいきなり暴力に訴えるような狩竜人はガイツは見たことがなかった。力が強いだけにその力の使い方を知っているのも狩竜人なのだ。ドルブンは例外中の例外だった。


「大丈夫ですよガイツさん。確かに狩竜人としては強いんでしょうけど、昨日のエルとの取っ組み合いを見て確信しましたから」


「なにを?」


「狩竜の腕は知りませんけど喧嘩ならエルは当然、多分私でも勝てちゃいますよ。襲ってきたって返り討ちですよあんなの」


 ソフィアは自分が以前人を殴って殺しかけたことを思い出す。自分の身を守るためとはいえ人を傷つけたのは嫌な気分だったので、あの男とは絶対に関わりたくないと思った。しかしもし襲ってくるようだったら容赦はしないとも考えていた。


「お前らが強いのは知ってるが相手は35段だぞ。しかも1人で人食いを相手にできるような。いくらなんでもそれは……」


「だってあの男、全然喧嘩慣れしてないですよ。まあ当然ですよね、狩人が喧嘩なんか仕掛けて怪我でもさせたら牢屋行きは確実だから」


 自信満々のソフィアにエル以外の3人は呆れる。しかし決して根拠のない自信ではない。ソフィアも、そしてエルもドルブンを厄介だとは思ったが恐れてはいなかった。なぜなら喧嘩ではないが普段から強い相手と2人とも戦っているからだ。


 狩竜人はあくまで竜を相手に戦うのが仕事で人を相手に戦う鍛錬はしない。対人と対竜では戦い方がまるで違うので普通の狩竜人はそんな鍛錬はしないし、それはドルブンも例外ではない。しかしエルとソフィアは鍛錬と称して常に木の枝で打ち合っている。狩竜の腕なら経験の差で負けるかもしれないが、対人なら身近に競える相手のいるソフィアとエルは負ける気がしなかった。


 2人の努力は完全に間違った方向に行っていたが思わぬところで役に立った。


「だからエルも私の部屋の前で寝るようなことは止めてよね。風邪でも引いたらどうすんのよ」


 怒った表情を見せるソフィアにエルは慌てて謝る。怒っているのは表情だけなのだが、さすがにソフィアの本心まででエルは気づけない。


「体を休めることも狩竜人の大事な仕事だ。客に手を出すような真似はさせん。お前らは気にせず宿ではしっかり寝ろ」


 ぶっきらぼうな口調で宿の主人はそんな優しいことを言う。


「確かにあまり気にしてても仕方ないな。ここはご主人の言葉に甘えよう。よし、じゃあ今日からは予定通りに行動するぞ」


 ガイツはいつもより多くの武器を抱えている。普段は片手の突剣とバックラーそれにボウガンを装備しているが、それに長剣に長槍まで持っていた。狩竜を休んでなにをするかといえば、やはり狩竜のための鍛錬だ。色々と力の使い方を知らない2人にきちんと技術を伝えるためにとガイツが計画したのだ。基礎能力が違いすぎて2人とガイツでは戦闘能力に差があるかもしれないが、それでも知識と経験値が格段に違う。ガイツは自分にできる役割をしっかりと理解していた。





「さて、まずはお前らに聞きたい。2人はどっちが強いと思ってる?」


 ガイツはわざと煽るような言い方をする。村に近い人気のない森に白緋の女神は来ていた。


 その言葉にエルは困ったような顔をしてソフィアは少し悔しそうな表情を見せる。


「その様子だと2人とも考えてることは同じようだな」


「最初は私のほうがいけると思ってたんですけどね……なんか剣が黒藍鉱になったら急に逆転された気がしちゃって」


 出会った頃と2人の役割は入れ替わっていた。エルが足止めをしてソフィアが止めの一撃を刺していたのが、ガイツが加わったのもあっていつの間にか逆になっていた。ソフィアとガイツが引き付けて足止めをして、エルが一刀で止めを刺すのが最近の形だ。それに加えて2人の勝負もいつしか勝敗数が逆転してしまった。ソフィアは悔しさ半分頼もしさ半分でエルに負けを認め始めていた。


「まあ武器の差はあったんだろうな。エルの理力に鉄剣じゃ無理があるから相当加減してただろうし」


 エルは常に鉄剣が折れはしないかと心配しながらの狩竜だった。それが黒藍鉱という武器を手に入れて大きく変わった。


「いや、でもソフィアと僕じゃ変わらないと思うけど……」


 ソフィアはその言葉にむっとする。


「そういうこと言われると気を遣われてるみたいで腹が立つわ。あんただって私のが弱いって最近は思ってるでしょ」


「いや、充分強いと思ってるって」


「でも自分よりは弱いと思ってるのよねっ。最近負けっぱなしだし」


 ますます不機嫌になるソフィアにエルは困った顔をする。


 エルはソフィアのことを弱いと思ったことはない。しかし今は正直なところ自分のが上だとは思っていた。過度な自信も卑下も、一瞬の判断が命取りになる竜相手には許されないことだ。大人しい性格のエルでも狩竜に関することは正直に判断しているつもりだった。


 2人はガイツの指示に従い狩竜に臨むようになってからはっきりとその差を感じ始める。ガイツの指示だと小型竜以外が相手ではソフィアはおとり役ばかり。しかも指示通りにするだけで今までよりずっと効率的に狩竜が進む。指示が実に正しく文句もないだけにソフィアは実力差を思い知らされた気分だった。


「まあまあ落ち着け。お前らと組んで1ヶ月以上、色々と狩竜に関して言いたいことが出てきた。俺はお前らの力の差はないと感じている。いや、むしろソフィアのが上だと感じた」


「そんな、ガイツさんまで気を遣わなくてもいいのに……」


 すねるソフィアにガイツは苦笑いだった。悔しい顔をするほど負けたくないと思える相手がいる。それはとても良いことだとガイツは思う。せっかくこんな2人が出会ったのだから競わなければもったいないと。


「別にお前らに気を遣ったりはせん。差があるように感じてるのは俺が決める役割とお前らの性格の問題だな。ようやく問題点も分かってきたから狩竜を休んで鍛錬に時間を割くんだ」


「問題、ですか?」


「ああ、問題だらけだ。まずエルのほうだな。お前は我慢できなさすぎ。自分が切り込んだほうが早いと感じるからそうなるんだろうが、あれもこれも全部自分がやろうとすれば危険が増える。もっと俺たちのことを信頼しろ」


 そう言われてエルは反省する。腕に自信があるだけに身に覚えのある言葉だった。


「ソフィアもだな。お前も早く仕留めたがって焦るくせがある。付加理力も放出理力も使えないとしても、疲れを知らないってのはそれを補って余りある絶好の体質だ。ただ疲れを知らないくせにお前も我慢せずに突っ込む。その理由が最近ようやく分かったよ」


「いや、最近はちゃんとガイツさんの指示通りに我慢してますって」


「まあそうだな。しかし俺の指示なんてなくてもそうしろって話だ。お前が我慢しないのは他人の気持ちが分からないからだろ」


 なにかとても酷いことを言われたような気がしてソフィアは悲しい顔をする。


「ガ、ガイツさんっ。ちょっとそれは酷いですよっ」


 エルが批難の声を上げる。


「ああいや、すまん……言い方がまずかったな。他人の気持ちが分からんてのは優しくないとか気を遣えないとかじゃなくてな……分からんから逆に気を遣いすぎなんだ。ソフィア、疲れるってのがよく分からないんだろ? だから俺らの息が上がってくると我慢できなくなるんだ。疲れない自分がやらなければって焦りだすんだろ」


 そう言われてこくこくとソフィアはうなずく。ガイツがちゃんと理解してくれていることに気づいた。


「ごめんなさい、昔から息が切れるってのがよく分からなくて。エルみたいに走ってついてこれちゃう人も初めてで……だからつい」


 ソフィアはその体質のせいで息切れということを知らない。理力が外に出ないおかげで常に内燃理力を全開にして動けてしまう。そのために疲労で動きが鈍るという他人の感覚がほとんど分からないのだ。一瞬で理力を高めて一瞬で下げるということをしないと素の理力量が多いエルでもすぐに理力が尽きて動きは鈍る。ソフィアも1日中動き回れば疲労で動きは悪くなるが、それは他の人では半日も持たない動きを1日中続けての話だった。


「疲れて動きが落ちたり集中が切れたりしないのがソフィアの最大の長所なんだ。周りを気にして焦るようじゃ意味がない。ただ解決しようにも疲れたという感覚を他人に伝えるってのは難しいな。ところでお前ら、たまに木の枝で打ち合って遊んでるそうだが、それは1日だと何回くらいやってるんだ?」


「勝負は1日1回までって決めてます」


「なんで1回までなんだ?」


「だって繰り返せば疲れない私が有利ですもん。勝負をつけるんだったらちゃんと公平な条件でやらないと」


 遊び半分でも2人の間には譲れない約束事があるらしかった。


「しかし竜相手だとお互い疲れてるだのは関係ないだろ。こっちが疲れてようが竜は関係なく襲ってくるし、逆に竜が弱ってればこっちは容赦なく狩るだけだ。だったら疲れないってのも実力のうちじゃないか?」


 言われてみればそうだと2人とも感じた。


「それにエルがどれくらいで動けなくなるのか、疲れ果てるまで追い込んでやればソフィアだって分かってくるはずだ。仲間の持続力が分かればソフィアも狩竜でも焦らなくてすむだろ。結局お前らはまだお互い信頼しきれてないんだよ。それで相手をかばいあうようなことをして無駄に危険を冒すはめになる」


 2人は真剣な表情でガイツの言葉に聞き入っていた。理力も体力も自分たちのが上かもしれないが、ガイツの経験と知識がなければこんなに早く昇段はできていなかったことを理解していた。


「そろそろ寒くなってきて依頼数もぐっと減ってくる。しばらくは鍛錬に時間を割いて緊急の依頼でもないかぎり狩竜に出るのは5日に1回程度にするぞ。余裕の依頼を受けてこなすよりも鍛錬のがずっときついはずだ、覚悟しとけよ」


 20段への到達も視野に入ってきた。南方遠征団の夢が現実的な目標として見えてきたのだ。臨むところだと2人の顔は引き締まる。


「じゃあまずは普段どんな鍛錬を積んでいたのかを見てみたい。いつも通りにその打ち合いをやってみろ。ただし勝敗がついても俺がいいというまで連戦だ」


 2人は適当な木の枝を拾う。ここ1ヶ月はほぼ休みなく狩竜に出ていたので久しぶりの対戦だった。ガイツは冷静な目で2人の動きをしっかりと見る。確かに竜しか相手にしていない狩竜人では2人に勝てる奴はいないかもしれないとガイツは思う。ドルブンを恐れないのも納得した。


 この日、ソフィアとエルの勝負は3勝4敗。3つエルが勝ったあとに4つ続けてソフィアが勝った。疲れてからはソフィアが圧倒的だった。途中から負け続けたエルの悔しそうな表情を見て、ガイツはこれが狙いだとほくそ笑む。最近は随分と仲の良い2人だが、競ってこそ2人でいる意味は大きいと思っていた。


「よし、準備運動はこんなもんだな。じゃあ俺も混ざってやるぞ。といっても俺らは人を相手に戦うわけじゃないからな。今度はちゃんと竜を想定しながらの鍛錬だ」


 ハイウェスラルにいたガイツは、南に行くためには生半可な実力と体力ではやっていけないことを知っている。軽い依頼を日々こなすだけでは足りないことを充分理解していた。竜の少ない季節を迎えたのでぎりぎりまで体を追い込む鍛錬が積んでいく。





 夕方、依頼をこなすよりもはるかに疲れきった顔で3人は宿へと帰る。ソフィアも常に理力と筋力を目一杯使い続け、ぐったりするまで自分を追い込むことができた。


 実際に戦えばエルもソフィアもガイツには負けようがないが、きちんとした技術を理屈立てて教えてくれる存在はありがたかった。ここまで力任せでなんとかなっていた2人だが、まだまだ未熟なことを思い知る。それは同時にまだまだ強くなれることを意味していた。


 そして宿に帰りついたガイツは、早くも後悔していた。2人を相手に自分の体力が持つわけがなかった。なぜ狩竜は5日に1回などと、馬鹿なことを言ってしまったのか。4日続けての鍛錬なのに、1日目でこの調子だと死ぬかもしれない。そんなことを考えながら、ガイツはベッドに倒れこむ。


 それでも年長者として偉そうなことを言った意地があった。初日で自分が音を上げるわけにはいかない。次の日もその次の日も、膝が笑っていても顔だけは冷静な表情を作ってガイツと2人は鍛錬を積んでいく。2人を鍛えるという名目でガイツ自身が誰より鍛えられていった。


「やっぱりガイツさんってすごいよね」


「うん、やっぱり段位が上の人って違う。僕も結構つらいのに平気そうな顔してる」


「そうよね。ガイツさんのこと、最近ちょっと見くびってたかも。20段最速到達者ってのは伊達じゃないわ」


 連日、残りかすのような理力をかき集めて自分の体に治癒をかけているガイツに2人は気づいていない。


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