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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
4章 少年と少女は進む
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4-8

 

「シロノさん、今日は会議ですか?」


「ええ。今日は特例昇段の議題が中心になるはずだから、私も気合入ってるわ。ガイツ君がわざわざ出してくれた報告書もあるし、きっと良い結果が出るはずよ」


「正直度肝を抜かれましたからね、あの2人には。昇段なんて急ぐもんじゃないとは思ってますが、いくらなんでも1桁段位は低すぎる」


「本当にね。でもあの子たち物を知らなすぎるから、心配になっちゃうのよね。例えばガイツ君みたいな狩竜人が、一緒に組んでくれると安心するんだけど」


 シロノはガイツの顔色をうかがうように覗き見る。自分の心の奥にある思いを見抜かれた気がして、ガイツは少し焦る。自分のことを狩竜人1年目から知っているシロノには、ガイツは自分ことなど大概知られてしまっている。


「協会付きやってる俺に言われましても……まあできる限り俺も、必要なことは教えますよ。どうもあいつら、孤児院に居つくつもりらしいので」


 大きな商団が滞在してるうちは他に宿も取れないので、エルとソフィアはしばらく竜災孤児院に客兼労働力として世話になることになっていた。

 

「ええ、今朝聞いたわ。宿追い出されたんですってね。レイダーク狩竜のことを伝えれば、そんなことにはならないのに」


 レイダークが狩れるほどの実力。それを伝えれば宿の主人にも、金払いは間違いないと分かってもらえた。ただエルもソフィアもそんなことには頭が回らず、ただ金は用意できるから泊めてくれとしか言わなかった。結果信用を得られず、目先の金に目が眩んだ宿の主人に追い出されたのだ。シロノもガイツも2人の駄目さに呆れて笑うしかなかった。


 普段はさして面白くもない職員会議。しかしこの日に限っては、シロノは浮き浮きで3階にある会議室に向かっていく。そして会議が終わって出てきたシロノの顔には笑顔はなかった。シロノだけではない、他の職員も暗い顔をしている。


 フェネラルに突如現れたレイダークすら狩れる若手狩竜人2人。シロノだけではなく他の職員も当然、大きな期待を寄せている。その2人の馬鹿っぷりが会議で明るみに出て、フェネラルの職員一同、大きな溜め息をついていた。この日は協会待機していたガイツは、会議が終わったことに気づきシロノの元へ向かった。


「シロノさん、どうでした?」


 期待して尋ねるガイツに、シロノは悲痛な表情で答える。


「9……9段」


「きゅ……19段じゃなくて9段ですか? いや、おかしいでしょ。レイダークですよっ。最低でも15段までは……」


「それがあの2人受けてないのよ……狩竜人認可講習を。ああ、私の責任だわっ」


 シロノは頭を抱えて、自分を責める。

 

「認可講習……そんな、そんな馬鹿な。いやありえんでしょ? だって最初に説明を受けるはずだっ。それを受けないと10段以上にはなれないって……だから……9段。そんな、馬鹿だったんですか」


 シロノもガイツも呆れて笑うことすらできなかった。




 エルとソフィアは夕刻、浮かれ気分で依頼を終えて帰ってきた。この日の朝にシロノからレイダークの報酬と昇段結果が出ると聞いていたからだ。そして窓口に行くと、普段は入らない協会の3階にある会議室で待てと言われる。


「ねえこれって特別って感じじゃない? やっぱレイダークを倒すって凄いことみたいね」


「うん、どれくらい上がるかな。10段とかだったら嬉しいけど、それは無理なのかな」


 エルもソフィアもわくわくしながら待っていると、シロノとガイツ、そして普段は見かけない白髪の小柄な男性が入ってくる。


「2人とも顔を合わせるのは初めてじゃな。わしはザイマルトじゃ、ここフェネラルの協会支部長をしとる。先日はレイダークの狩竜、お見事じゃった。その件で色々報告があってな、わしも同席させてもらうよ」


 エルとソフィアは挨拶をして気づく、入ってきた3人に笑顔がないことに。シロノは泣きそうな表情、ザイマルトも沈痛な表情、ガイツは怒りの表情。いつも笑顔のシロノが、そんな顔であることに2人はなにかまずいと悟る。そしてシロノがいつもとは違う表情で、いつもと同じように丁寧な報酬説明を始める。


「じゃあまずは先日の緊急依頼の報酬の説明ね。まずレイダーク狩竜が120,000エニィ。それからレイダークの買取が68,000エニィね。あと緊急依頼の受注報酬として10,000エニィ。あとは拘束日数が2人の2日分で1,200エニィ。全部で199,200エニィね。拘束日数が2日なのは、夜中のうちの召集だったからそうなるの」


 思わず2人は歓声を上げる。しかしシロノの浮かない顔を見て、歓声も小さくとどめた。重たい空気に耐えかねて、ソフィアが口を開く。


「あ、あの……皆さんどうしてそんなに、表情暗い感じなんですかね。なんかまずいことでも?」


 協会付きとはいえ、職員ではないガイツがいるのも気になった。


「ああ、ある。お前らが前代未聞の馬鹿だということが判明してな。おかげで協会の職員は皆、行き場のない怒りを抱えてるとこだ」


「ガイツ君……これは私が、私の責任が大きいのよ。もっと気をつけていれば、ああ……」


「いや、シロノさんは優しすぎる。どう考えてもこいつら自身の責任だ」


 嘆くシロノに怒るガイツ。エルとソフィアは不安になる。


「まあまあ、取り返しのつかないことでもないから。シロノもガイツもどうか抑えて」


 ザイマルトは苦笑いでたしなめる。


「あのう僕たち……やっぱりまずいことをしちゃったんですか?」


「ふむ。まずいことをしたというか、しなかったじゃな。わしから説明しよう。2人は狩竜人認可証を受けた際に計10回、講習があるのを知ってるはずじゃな」


「ああ、なんか聞いたような気がします。あれ、そういえば私まだ受けてない」


「あれ、そういえば。僕も受けてない」


 エルとソフィアが軽い口調で言うので、ガイツは怒りを覚える。こいつら適当にもほどがあると。


「それがな、あれを受けてないと昇段に関わるんじゃ。狩竜人として基本的な知識や協会規則、そういったことを知ってもらうための講習。認可証を渡された街で、1回目だけは皆集まって受けたはずじゃ」


「はい、受けました。2回目からは自分で協会に言って、都合の良い日でいいって言われたような」


「うむ。常識的な内容もあるが狩竜人には必須の、例えば犬笛の合図や普段知っていないと損する協会の規則など、覚えておいてほしいことも多い。まあ実践して覚えることも多いから、そこまでうるさくは言わないがな。それで普通はな、皆さっさと終わらせるんじゃ。受けてないと10段になれないからの」


 エルもソフィアも思い出す。そんなことを最初に言われたような気がする、と。

 

「えっと、もしかして私たち……やっちゃいましたか?」


「わしらも驚いたんじゃ。別に試験があるわけでもない、ただ受ければよい講習。協会もまさかこれを怠る狩竜人がおるとは想定外じゃった。それも2人同時に」


 ザイマルトは大きな溜め息をつく。


「ちなみに2人はなぜ講習を受けなかったんじゃ。理由はあるのかな?」


「えっとお、座って勉強するの嫌いだし面倒くさいから、後回しにしてるうちに忘れちゃって」


「僕は、やらなきゃとは思ってたんですが……誰にお願いしていいか分からなくて、そのうち忘れちゃってて」


 3人は揃って大きな溜め息をつく。なんの理由にもなっていない。


「おかしいとは思ったの。いくらなんでも知識がなさすぎるって……私がちゃんと気をつけていれば」


 10段の昇進までは早い狩竜人でも1年。それまでに講習を受けなかった狩竜人など存在しなかったので、シロノも他の職員もまったくこんなことは想定していなかった。この日の会議で2人の資料を見て、初めて職員たちは未受講なことに気づいたのだ。


 エルやソフィアのような異例の速さでの昇段は、今までなかったわけではない。ただそういう狩竜人は、10段になるまでに早めに講習は受ける。そもそも狩竜人になって半年以上経って、講習を受けていない者はいない。


 職員の中には、規則違反になるが昇段させてもいいのではという声まで上がった。特例昇段するような狩竜人の登場は、誰しもが胸躍ることなのだ。しかし全ての人々に対して公明正大を謳う狩竜人協会が、おおっぴらに規則を破るわけにはいかなかった。


「というわけでだな、お前ら2人は9段だ9段。レイダーク狩竜実績持ちの9段なんて存在しないぞ、喜べ」


 ガイツは皮肉を込めて言うが、残念ながら2人には伝わらなかった。


「はい、10段には届かなかったけど一気に3段も上がっちゃいました」


「違う、違うのよソフィアちゃん。2人ともレイダークは関係なく、8段までは上がる予定だったの。だから1段だけなの……レイダーク狩ったのに」


「えっ、そうなんですか? それじゃもったいなかったですかね」


 ちゃんと講習受けておけばよかったね、とエルも呑気に言う。


「シロノさん、駄目だこいつら。分かってない。俺がきっちりみっちり指導しますから、それまでこいつら依頼から除外して下さい。講習内容を完璧に覚えるまでは狩竜には出しませんから」


「えっ、依頼から除外って……」


「そうね、私が甘かったわ。まさかここまで馬……知識がないとは思ってなかった。他の職員にも明日伝えておくから、悪いけどガイツ君にお願いするわ」


 ザイマルトもうなずいて、ガイツの仕事はしばらく2人の指導中心にという決定をする。協会としては特定の狩竜人に対して異例の措置だが、本来15段以上に昇段するはずの2人を9段のままにしなければならないことも異例だった。


 この日の夜、エルとソフィアはいかに自分たちが駄目かを、こんこんとガイツに説教を喰らう。夜中までかかったそれは1日では終わらず、次の日も、またその次の日も続けられることになった。


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