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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
1章 少年と少女は出会う
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1-3

「ぜぇ……はぁはぁ……すごい、びっくりしました。本当に速い……はぁはぁ」


 目的のフェズの村の近くまで来てようやく進みを緩める2人の狩竜人。息も絶え絶えになっているエルに対し、ソフィアは多少息が上がっていただけですぐに呼吸を整える。そして彼女は驚きの目でエルを見つめる。びっくりしましたってこっちがびっくりしたわよ、という思いで。


 初っ端からあらぬ方向に走り出して赤面するほどに恥ずかしい思いをした。別にエルに馬鹿にされたわけでもないのに、私は只者じゃないということを見せておかなければ、などと今度は思考があらぬ方向へ走り出す。見よこの速さを体力を誰も着いては来られまい、とばかりに確かに普通ならば誰も着いていけないし、着いてはいかないような走りを見せるソフィア。まともな者なら止めただろうがエルはそれに馬鹿正直に着いていく。


 道中、なぜこんな3段のひよっこ狩竜人が引き離せないのかと、自分も同じ3段で狩竜人1年生であることは棚に上げて悔しがり、ソフィアは一切速度を緩めることなく街道をひた走った。それに必死に喰らいつくエル。


 大街道は多くの人々が行き来している。武器を背負い爆走する2人の狩竜人とすれ違った人々は当然なにごとかと思う。近くで大型竜でも出たかと怯える人々。2人を見て緊急事態かと思って良識のある人は狩竜人協会まで走り状況確認までする始末だった。


「ソ、ソフィアさん本当にすごい。ちょっと走るのは、あの、僕も結構自信あったんですけど、着いていくのが精一杯で、しかも全然息も切れてなくて」


 息はすでに整っているのに相変わらずしどろもどろなエル。しかし彼なりに苦手ながらも対話をしようとしている。それはソフィアに伝わった。話したくないわけではないのだと分かってソフィアは少し安心した心持ちだった。今度はゆっくり歩いてフェズの村に向かう。既に村の家々と羊の囲われた柵、その外に広がる畑が遠目にだが2人の視界に入っていた。


「ちょっとね、特異体質なのよ私。だから息切れしないでずっと走れるのは反則みたいなもんなのよ」


「特異体質……ですか?」


「うんとね、詳しく説明すると長くなるというか面倒くさいというか。簡単に言うとね、理力が全然出せない代わりに全然漏れない、だから息切れしないけどボウガンとか苦手、って感じ」


 これで分かったら逆にすごいわ、と彼女は自分の言葉の足りなさを自覚する。しかし言葉を足して説明するのも気が重かった。


 別に隠すようなことではないし、秘密にしたいお年頃でも乙女心でもない。誰かに説明するたびに最初は理解してもらえず、何言ってんだという顔をされるのに嫌気が差していたのだ。相手の理解力が乏しい場合もあるにはあったが、大体が彼女の説明下手が原因である。ソフィアは話し好きだが話し上手ではなかった。これこれこういう体質なんで悪しからずって分かりやすく書いた紙でも持ってようか。そんなふうに真剣に悩んだことまである。エルがうつむいて考え込んでいる姿を見てやっぱり駄目かと思っていると、急に納得するようにうなずいた。


「なるほど」


「嘘っ、分かるのっ?」


「えっと、付加理力と放出理力が使えずに、その代わりに体内を巡る内燃理力の効率が良くて、いや一切漏れないってことは効率がいいって程度じゃなくて、通常の何倍もの内燃理力効果が得られるってこと……ってあれ違うんですか……ご、ごめんなさい」


 目を見開いて口を半開きにして驚く。その瞬間の顔だけ見たら、自他共に認める美少女だとは誰も思わないだろう。あまりに酷い顔をされたエルは自分が見当外れな答えを出して呆れられてる、と思い謝ってしまう。


「いや、多分合ってるわ」


 エルがわずかな言葉で理解してくれたことに嬉しくなり、ソフィアは魅力的な笑顔に戻った。自分のことなのに多分とついてしまうのが残念なところだが。


「いっつも説明するのに繰り返したり時間かかったり面倒くさいなぁって思ってたのよ。今日は一発で終わったわね。ちょっとあんた、やるじゃない」


「それは……前に師匠から、そういう体質の人がいるって聞いたことがあって、その、たまたま知ってただけで」


「ほぉ、あんたの師匠って物知りねえ、珍しすぎて全然知られてないのに。で、そういうわけだから私ボウガンが一切使えないのよ。そりゃ撃つには撃てるけど当てる練習もしてないし持ってもないわ。だから足止めが必要なとき、あんたに頼むことになるけど大丈夫?」


「た、多分はい、一応練習してますから……」


「まあボウガンなんて使う間もなくこいつでぶった切るから、安心して私に任せて」


 そう言って自信満々な顔で背中のハルバードに手を添える。彼女は女性のわりには長身だが図抜けて高いというほどではない。その彼女が背負ったハルバードは、長身の男性が持ってもおかしくないような長さだ。大きさのわりに持ち手が細めで、彼女の手に合うように打たれたのだと分かる。太陽の光に当てると乳白色に少し紅を差したような色に輝く。武器に使われる素材や作りの良し悪しがほとんど分からないエルが見ても、とても価値のありそうな立派な得物だということは感じ取れた。


 一方エルの背負った長剣とボウガンは一見すると両方ともに安物。しかしよく見てみればそれが唯の安物ではないことが分かる。ボウガンの弦を掛ける掛け金がかなり磨り減っていて本体の木製部分もヒビが入っている。次射で真っ二つに割れても驚かない。長剣は新しいのだが、柄に施されている装飾はいかにも、安物です、と自己主張するような酷い意匠だ。滑り止めにもなっておらず握った際に邪魔になりそうなほど実用性は皆無。使用者のことを一切省みていない作りだ。つまり両方ともにいくら新人とはいえ、狩竜人が持っていいような質の武器ではない。唯の安物どころではなく酷すぎる安物だった。ソフィアに武器を見る目が多少でもあったなら間違いなくエルに不信感を持っただろう。幸か不幸かソフィアもエルと同程度しか武器の知識しか無かったので、なんか格好悪い剣ね、くらいにしか彼女は思っていなかったが。


「さっ、着いたわよ。村の人に話聞いて狩竜を始めましょ」


 フェズの村に到着した2人は初めての共同作業に取り掛かった。


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