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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
3章 少年と少女は学ぶ
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3-6

 

「ぶわぁっはっはっはっ、駄目っぽい剣だとは思ったが詐欺師の売ってた剣かよ。お前らどんだけ駄目なもん引き当てたんだ」


 大街道に豪快なダンビスの笑い声が響き渡る。引き当てたどころか選んだ末に手にした剣が、最低最悪の代物だと知ってしょげ返る2人。さらにクライオンがとどめを刺しにかかる。


「これ、何年か前にここらで出回った剣でな。くず鉄にリグトンの白爪を無理やり混ぜて打った剣なんだ。そうすると見た目だけは、こいつみたいにやたら白っぽく綺麗に光る。普段武器を使わない狩竜人以外の人が、何人も騙されて高値で買わされたんだ。くず鉄に竜の爪なんか混ぜりゃあ余計に質も悪くなる。詐欺用に作ったとしか思えない剣なんだよ」


「狩竜人以外しか騙されてないのかよ。ぐわははっ、お前ら全然駄目じゃねえか」


 普段武器を使わない、狩竜人以外の人。エルとソフィアは普段武器を使う、狩竜人に間違いなかった。


「いや団長、笑いごとじゃないですって。鍛冶屋の息子としてはこんなもん見逃せない、立派な詐欺ですよ。俺はまだ子どもだったからあんまり覚えてないけど、近隣の街の鍛冶屋とも連絡取り合って犯人捜したり、大変だったらしいですよ」


 悪い悪いと言いつつも、ダンビスの顔はまだ引きつって笑っている。落ち込んで肩を落とし荷車を引くソフィアと、落ち込んで肩を落とし荷車に乗ったエル。傍から見たら、嫌々出荷する飼い主と出荷される家畜。なんとも哀愁漂う2人の絵になってしまっていた。


「いやあ笑った笑った、腹いてえ」


 腕が立つくせに他は全然駄目そうな若い2人が余程おかしかったらしく、ダンビスは立派な腹筋が引きつるまで笑っていた。


「エル、この剣譲ってくれないか? 親父たちに話して、これ売った武器屋ってのを問い詰めないと。場合によっちゃ役人に突き出すから、証拠として持っときたいんだ。もちろん、金は払うから」


「どうせ使い物にならないし、金はいいよ。今後、他の人が騙されないにお願いするよ」


「狩竜人は誰も騙されてないけどな、お前たち以外。ぶわっははははっ」


 2人をからかってまた笑うダンビスを、いい加減にしないと可哀想だとクライオンがたしなめる。私たちは可哀想だったのかと、余計にへこむソフィア。しかしそんなことも言ってられなかった。自分たちの無知さが招いた失敗なのだから、このままだとまた同じ失敗を繰り返さないとも限らない。


「あの、クライオン。こんなこと頼むのは図々しいかもしれないけど、私たちに武器の選び方を教えてもらえないかな?」


 もちろんだと気軽に引き受けるクライオン。そして明らかに2人を馬鹿にして笑っているダンビスも、ちゃんと若い狩竜人に手を差し伸べてくれる優しさは持っていた。


「クライオン。お前明日休みやるから、こいつらゴディオンのとこ連れていってやれや」


「いいんですか?」


「ああ、ウィクラスには俺から言っとくから。その剣のこともあるしついでだ。俺の街であくどい商売する奴は放っておけんしな」


 高段位の狩竜人を揃える戦団には、需要に応じて街を渡り歩き名を挙げるところもある。しかし鋼の扉はダンビスとウィクラスが中心となって結成されて以来、フェネラルの街とその近隣の村々を守ってきた。フェネラルを守るためにという信念の元に立ち上げられた戦団なので、団員もフェネラル出身者が多い。軽い口調でちゃかしながら話すダンビスも当然、愛する街で詐欺を働くような輩は許せんといった思いはあった。


「そのゴディオンさん? ってのは」


「俺の親父の弟、叔父さんだ。親父はボウガンとか防具とか作ってて、鍛冶屋ってより細工物や加工物の工房だな。で、叔父さんが剣とか槍を打つ金属鍛冶なんだ。どうせエルは怪我してて狩竜は無理だろうから、明日は俺に付き合え」


 2人には願ったり叶ったりの話だった。色々な人に世話になりっぱなしだと思いながらも、ありがたくその厚意に甘えることにする。


 ずば抜けた動きと酷い武器から繰り出される、なんとも危なっかしい攻撃。さすがにダンビスも、2人におせっかいを焼きたくなった。短い帰りの道中で、狩竜についてのあれこれを笑ったり叱ったりしながら教える。自分では副団長のウィクラスを説教臭い奴だと言っているが、ダンビスもなんだかんだ若い狩竜人は放っておけない性格だった。


 フェネラルの街に着き、金がもったいないと嫌がるエルをソフィアが治癒理力の使える医者まで引っ張っていく。治療費は高いが、狩竜に何日も出られなくなることを考えれば元は充分に取れる。実は金の問題ではなく、エルは医者嫌いなだけだとソフィアは知った。


「あははっ、まさかただの医者嫌いだとは思わなかったわよ。子どもかあんたは」


「何回やられても慣れないんだ……他人の理力が体を流れるのって気持ち悪くて」


 それなりに深い傷もあったので全て完治とはいかなかったが、ダンビスが紹介してくれた医者は腕が良かった。明日1日だけは激しく動くな、つまり狩竜は厳禁と言われただけで済んだ。


「そういや、あんた医者にはかかったことあるのね。人のいないとこにずっと住んでたのに。狩竜人になってから?」


「いや、師匠が使えたから。師匠と暮らすようになってから、よく治癒理力を流されて。それがね、なんかすごい嫌だっったんだよ。とにかく気持ち悪いというか」


「ふーん、本当に分からない人ね、エルの師匠って。狩竜人だって使える人はいるけど。あんまり強くなかったのなら狩竜人じゃなくて医者だったのかもね、理力学にも詳しそうってことだし」


「言われてみればそうかも。でも今日の医者よりも明らかに下手だったような。あんなに気持ち悪くない治癒理力って初めてだったよ」


「治癒も下手だったのか、なんだか色々半端な人ねえ。まあいいわ、そんなことより剣よ剣。えっと、今使えるお金は24,000エニィね。さすがに緊急依頼って報酬高いわね」


「待った、なんで全額突っ込もうとするの。しかもそれ、ソフィアの取り分も含まれてる金額じゃない。僕の手元に残してた金と今日の報酬で14,000はあるから、それで買える範囲で……」


「だめっ、もうこれは譲れないわ。無駄遣いはしないけど、必要なところにはちゃんとお金かける。今日だって剣さえまともなら、エルもそんな怪我しなかったはずだもん。命を預ける武器なのに私が……いい加減に選んだせいで、ごめん」


 ソフィアは自分が悪いと思えば、素直に謝る。それでもこんなに肩を落として悔しそうに謝る姿は、エルは初めて目にした。この日の狩竜は2人にとって反省点も多かった。これまでのように力任せの強引なやり方では駄目だと、それぞれに感じていた。


「うん、ありがとう。無駄遣いは駄目だけど、必要なところまで削っちゃ意味ないね。分かった。明日はクライオンもいるし、今度はちゃんとした剣を選ぼう」


「そう、明日は心強い味方がいるしね。じゃあそうと決まったらご飯よご飯。あんた怪我したし体が資本の狩竜人なんだから、美味しいもの食べなきゃ」


「さっき通った酒場にハルドブル有りますって書かれてて、それが食べたいかなと思ったり」


「ハルドブルか、高いけど美味しいのよね。じゃあそこ、行くわよっ。ああ、そういえば石鹸買わなきゃ。高いけどあれじゃないと、髪傷んじゃうのよね」

 

 無駄に高い食事と無駄に高い石鹸は、無駄遣いではないという判断だった。


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