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ドラゴン・イェーガー ~狩竜人賛歌~  作者: 井藤 きく
2章 少年と少女は貧する
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2-4

 

 狩竜人が近くにいて助かった。そう思いながら竜に出くわし悲鳴をあげた人々が、ハルドブルとそれに向かう2人の狩竜人から距離を取る。中には野次馬根性で見える位置に陣取ろうとする馬鹿もいるが、良識ある人の手により連れて行かれる。狩竜人の邪魔はイリシアでは罪になる。


 今回は草食竜種相手なのでまだいい。もし肉食竜種相手に見物しようなどと考え食われようものなら、食われた奴が馬鹿だったでは済まず強力な人食い竜を生み出すことになる。それは周囲の人々を巻き込む最悪の事態になりかねない。


 エルですら難しいという竜種、石皮竜ハルドブル。ソフィアも緊張感を持つ。相変わらずサルティスの実に夢中のハルドブルはまだ動き出す気配はないが、ソフィアもどう動いていいかわからなかった。


「どうしたらいい?」


「うん、ソフィアなら問題ないはず。僕がおとりになるからあいつの動きを確認して。それからどこか切り落としてほしい」


「私ならって、あんたと変わらないわよ」


 自分の腕には相当の自信があるが、エルのこともまた相当強いと思っていた。エルが難しい竜相手に自分なら問題ないとは思えなかった。


「えっと、硬いんだこいつ。僕だと武器の問題で自信なくて」


 その言葉でソフィアは納得した。


「あ、なるほど。じゃあまかせて」


 体内の理力を高めて自慢のハルバードに流し込む。エルも手に持つ長剣に理力を流し込むが、ソフィアに比べればその量はかなり少ない。ソフィアのハルバードとエルの持つ長剣では素材の質が違いすぎる。エルの剣ではあまり理力を流しすぎると限界を超えて元より脆くなりかねない。エルは加減して剣を使うしかないのだ。


 走り出すエルについ続こうとするが、ぐっと我慢するソフィア。さすがに初めての相手に下手な動きは取りたくない。エルの言ったとおりまずは様子見に徹する。


 エルは無警戒なハルドブルの後ろから剣を突き立てる。普段は一気に切り落としを狙うので、あまり突きを繰り出すことのないエル。しかし綺麗に突く、抜く、離れる、と狩竜人の基本的な一撃離脱の動きを見せる。草食とはいえ竜は竜。尻尾の付け根辺りに空いた穴から血が若干出るが、すぐに修復が始まり穴が塞がる。そしてエルのほうを向くと大きな体で体当たりをかましてくる。草食にしては気が荒く縄張り意識もあるハルドブルなので、食べる気はなくても食事の邪魔をする敵と見れば排除にかかる。体当たりを軽く避けると、エルは自分の武器を気にかけるように持ち直す。そして突く、ハルドブルを避ける、を繰り返す。


「よっしゃあっ、私もいくわっ」


 確かに足は速いが、まっすぐ突っ込んで体当たりというだけなら問題なしと判断したソフィア。エルに突っ込むハルドブルの後ろから豪快に飛びかかり、ハルバードをその太く硬そうな尻尾に振り下ろす。一撃で切り落とすつもりで放った斬撃だったが、ソフィアの想像以上にハルドブルは硬かった。尻尾の半ばで骨に当たり止まったハルバード。しかしソフィアはすぐさま強引に引き抜くと、今度は素早く下から振り上げて尻尾をはね飛ばした。


「よしっ」


 一瞬で尻尾を切られたハルドブルは、飛び上がるように驚いて地面に転がる。そしてすぐに立ち上がり、2人には目もくれずに街道から外れて走り出す。


「えっうそ、待ちなさいよっ」


 竜種は闘争本能が高く、体の一部を切り落とされようが反撃に出るものが多い。ただ人を食べない草食竜は、危険と思えばすぐに逃げることを選択する。草食の狩竜経験がないソフィアはまさか一目散に逃げ出すとは思っておらず、反撃に備えてしまっていた。一旦走り出して加速がついた竜種に、人の足で追いつくのはまず無理だ。。速度が上がる前になんとかしなければと、2人が追いかける。先に追いついたのは転がったハルドブルの近くにいたエルだった。エルはハルドブルの右後肢を狙い、今度はいつものように切り落としを狙った一刀を繰り出す。そして真っ二つになり飛んでいく。折れた剣が。


「なああっ」


 エルの声が陽の沈みかけた大街道に響き渡った。ソフィアはこいつのこんな大声初めて聞いたわ、などと思いつつハルドブルを追った。


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