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アルサードの乙女達 CODE:AW SIDE EPISODE Ⅰ  作者: 黒咲鮎花
第一章 姉妹の光影

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すれ違う気持ち

 2026年8月13日。木曜日。6時20分。

 品川区 北條宅。


「ただいま……」


 家に帰る。時間はすでに朝の6時を過ぎている。最近は今回のように急な退魔業の要請が多い。退魔業があった翌日の授業は基本的に出なくて良いものの、そうなると学校生活にも支障が出てしまう。回復施設のおかげか疲労はかなり取れているものの、睡魔に襲われているのは事実だ。


 教会には出来る限り尽くす気持ちだけど、学生としても精一杯頑張りたい。それが素直な気持ちだ。それに私は聖アルサード女学院高等学校チェス部の部長でもある。なるべく部には顔を出したいのだ。


(麻由美…… まだ寝てるのかな……)


 もうじき6時半だが、妹の麻由美が起きてくる気配が無い……。


 麻由美は私と同じ女学院高等学部の1年生。eスポーツ特待生として入学したものの、最近何かと反抗期なのか言うことを聞いてくれず、校内でも何かと問題行動を起こしている。その度に私が職員室に呼び出され、先生方からお説教を受ける事が最近は多いのだ。


(起こしたいけど…… 朝ごはんも作ってあげないと……)


 私は麻由美が起きてくれると信じて朝食を作る事にする。トーストを焼いて、目玉焼きとサラダ、それを素早く調理する。魔法で目玉焼きを作れば早いのだろうが、日常生活での魔術使用はご法度だ。火の女神ブレアシルス様の裁きを受けそうな気もする。


 朝食をテーブルに並べ、時計に目をやる。もうじき7時だ。さすがにもう起こさないと学校に遅刻する。


「――麻由美。もう朝だよ。そろそろ起きないと遅刻しちゃうよ」


 ベットにうずくまったままの妹。


「麻由美、起きなさい! もう朝ご飯も出来てるよ」


 私がそう言うと、麻由美がゆっくりとベットから起き上がる。窓から差し込む光を浴びながら、大きなあくびをしている。艶のある長いストレートヘア。明るく染めている髪色が、差し込む朝日で一段と綺麗に見える。


「うるさいなぁ…… 朝からそんなに大声出さないでよ……」


 ベットから出てきた麻由美はキャミソールに下はパンツだけだった。羨ましく思える程の大きな胸。ピンク色の先端が透けて見える。


「麻由美、そんな格好で寝ちゃダメだよ。ちゃんとパジャマくらい着ないと……」


 ため息をつきながら部屋を出て行く麻由美……。


 その後、二人で朝食を取る。ものの会話が無い…… 沈黙に耐えきれなくなった私は、会話を切り出してみる。


「最近、戦績の方は――どう?」


 戦績と言うのは麻由美が主戦場にしている格闘ゲーム、ギルティエグゼクスの戦績だ。妹はこのゲームでかなりの有名人。ネット配信の視聴者もかなり多い。


「――分かんないわよ。勝ったり負けたり激しいし。トップグループ維持するだけでも大変なんだから」


 ぶっきらぼうな言い方。妹は下着姿のままパンを食べ、目玉焼きを平らげる。食べてくれるだけでも嬉しいのだけど、その物言いに少し悲しくなる。


「あの、麻由美。最近たまに授業出てないって先生から聞いたんだけど……」


 つい先日、その事で職員室に呼び出されお説教を受けた私。


「――オフラインの対戦会も大事なの。そこでしか聞けない情報もあるし。()()()()()のお姉ちゃんに私の苦労は分からないわよ」


 吐き捨てるように言ったその言葉に、私はカチンときた。


「麻由美! 私達がこうやって生活出来ているのは女神アルサード様のおかげなの。教会が私達を保護してくれなかったら私達は――」


「もうさ! 朝からそんな話しないでよ! 私は女神に助けてくださいなんて言ってない! 恩着せがましいこと言わないで!」


 私の言葉を遮るように言ったその後で、妹は部屋に引っ込んでいった……。


 私達がまだ小学生だった頃、その幸せは突如崩壊した……。


 大好きだったパパとママ……。


 忘れもしない、あのクリスマスの夜……。


(パパ…… ママ……)


 私達の両親は――何者かに殺された…… 犯人は未だに捕まっておらず、事件は未解決のままで迷宮入り……。


 私達姉妹は親戚の家に預けられたものの、そこで待っていた生活は、幼き私達には辛い日々だったように思う。もう今では記憶が混濁してよく思い出せない……。


 そして、私は妹の手を取り、夜の暗闇を逃げるように走った……。


 聖アルサード教会…… そこには様々な理由で帰る場所を失ってしまった人々を保護する制度があるという。それを知った私は、夜遅くに教会の施設を訪れたのだ。


『そのか弱い姉妹に暖かい食事と寝室を用意しなさい』


 奥から現れた司祭の一言で、私達は教会に保護され、救われた。その後、親戚が私達を連れ戻しにきたものの、児童虐待防止を理由に弁護士を立て親権を剥奪。


 以後、教会への奉仕を約束に、私達姉妹は教会の庇護の元、平穏な暮らしを手に入れる事が出来たのだ……。


(麻由美…… お姉ちゃんは…… 麻由美の為に、一生懸命頑張ってるんだよ……)


 教会への奉仕。中学生になった頃から、私は教会のシスター見習いとして活動を始めた。アルサード教会の教えや古き神話等を学び、オルガン演奏等も学ぶよう指導される。


 そして1年半が過ぎた頃、それがシスター見習いの奉仕ではない事を知った……。


『北條鮎香さん。貴女はアルサード教会にとって重要な人材であり、女神様より選ばれし子です。これからの奉仕活動は時に辛く、苦しいものとなるでしょう。ここから先は茨の道。それでも貴女は女神に仕える者として、新たな一歩を踏み出しますか?』


 司祭様より頂いた言葉。今でもよく覚えている。


『私はこの教会に拾われ、女神様の愛と慈悲を受けました。女神アルサード様に仕える者として、新たなる一歩を踏み出したく思います』


 その時の私は、その本当の意味を知らなかった。


 そして次の日から、本当の試練とも言える日々が始まったのだ……。


 全ては麻由美のために。そう思えばどんなに苦しい事も乗り越えられた。霊力という概念を知り、自然粒子(マナ)の存在を教えられた時、私は何か運命的なものをこの教会に感じた。


 幼き頃から感じていた七色の光。それこそが自然粒子(マナ)だったのだ。


 そして今では聖女神官直属の高位退魔師(ハイエクソシスト)AMGEの一人として、この教会に奉仕している。


 もともと中学三年生の時に退魔師として職務に就いた頃から、教会からの報酬等は手厚いものがあった。今住んでいるこの立派な平屋建て住宅も、この地区なら7000万円はする筈だ。間取りは広々とした3LDKで、正直二人で住むには広すぎる。それが水道光熱費無料で私達姉妹に貸し出されている。

 

 教会の様々な行事参加、そして退魔等の報酬としても、十分すぎるくらいの金額を頂いている。もっとも今後のことを考えれば贅沢は出来ないのだが、教会には感謝しかない。


 ただ…… 麻由美との時間が取れなくなったのも事実だった。


 思えば女学院高等学部に入学し、AMGEとして職務に就いた辺りから麻由美との関係が少しずつおかしくなっていったように思う。昼は勉学に励み、それが終われば教会での職務、退魔師としての訓練や実務もあり、最近は夜間に召集されることも多々ある……。


(ごめんね…… お姉ちゃん、麻由美からそう言われても仕方ないよね……)


 麻由美はeスポーツの特待生。昔からゲームが大好きで、プロゲーマーになるのが子供の頃からの夢。だから私は精一杯応援したいし、そのための出費も惜しまない。


 だけど最近それも、麻由美から拒否されているように思う…… 麻由美の為に作ったお小遣い用の口座から金額がほとんど減っておらず、毎月私が振り込む金額だけが虚しく加算され続けている……。


 制服に着替え登校の準備をした私は、麻由美の部屋の前で声をかける。


「じゃあ、行ってくるね。麻由美も遅刻しないようにね」


 返事はない……。少しだけ潤んだ瞳のまま、私は家を出たのだった……。

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