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アルサードの乙女達 CODE:AW SIDE EPISODE Ⅰ  作者: 黒咲鮎花
第四章 光という名の呪縛

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19/23

霧に包まれた朝

 2026年8月27日。木曜日。7時10分。

 温泉旅館 星嶺閣 私室。

 


「鮎香ちゃん、鮎香ちゃん!」


 結衣花ちゃんの声がする…… なんだか頭も、そして身体も酷く重い……。


「そろそろ起きないと朝食に遅れるよ!」


 重いまぶたを開けると、そこには私の顔をにっこりと覗き込む結衣花ちゃんの姿があった……。


「あれ…… おはよう……」


 記憶が混濁している…… 確か私は先日の夜、蒼依さんをみんなで探しに行って…… そこで……。


「どうしたの? 鮎香ちゃん――寝ぼけてない?」


「えっと…… いや…… 結衣花ちゃん、昨日みんなで蒼依さんを探しに行って……」


 周りを見渡すと、私が泊まっていた旅館の個室だ。この畳の匂いは間違いない。


「え? 鮎香ちゃん大丈夫? 昨日はみんなで夕食を食べて、そのまま各自部屋に帰ったよ? まあ、松雪さん達の修羅場はあったけどね……」


「そんな……」


「多分、夢と現実が混じってるんじゃないかな? 暖かいティーを入れるからね」


 私は覚えてる…… 暗い山の中、蒼依さんを探しに行って、そこで私達は現代の魔女である羽磨那と対峙した……。


 そして、結衣花ちゃんは蒼依さんと離脱し、残ったAMGE4人で羽磨那と戦い……。


 そう…… 歯が立たなかったのだ…… 松雪さんも、千里さんも、千鶴さんも重傷を負い……。


『私達の元へ来なさい。共に――この歪んだ世界を正すために』


 最後に羽磨那が言った言葉…… それを私は覚えている。幼さの残る顔立ち…… 少しか弱い声…… 今思えばとても魔女とは思えない大人しそうな女性だった……。


『そして忠告するわ。アルサード教会を信じてはいけない。()()()()()()()()()()を知りたいのなら……』


 最も驚いたのはこの言葉だ…… 何故、羽磨那は()()()を知っているのだろう……?


 いや、本当に羽磨那と遭遇したことは現実だったのだろうか……? もしかしたら本当に夢だった可能性も捨てきれない……。


 ただ、みんなが無事なのなら――あれは夢で良かった…… そうも思えたのだった……。


 

 朝食を済ませ、一通りの身支度を調えると、私はロビーでガラス越しに外の景色を眺めていた。深い霧が出ているようで、あまり視界も効かない…… まるで昨日体験した事が現実であるかのように、風景が物語っている気がした。


 夢見の魔女…… 私が所属するチェス部で、その噂話を聞いたことがある。


 ユメミサマ。その魔女のことを皆がそう呼ぶ。願い事が叶うとされるアクセサリーを授けられた者は、2週間以内にそのアクセサリーへ願い事を唱えると、それが成就するという。ただ、願いが叶って幸せになった者もいれば、不幸になる者もいるという。そしてこの噂話で最も怖いのは、身の丈に合わない願い事をすると、その魂を奪われる…… という点だ。


 昨夜のことが夢であったとしても、そうとは思えないほどリアルな感覚を今でも感じている…… 現に霊力や精神力を使い果たしたような酷い倦怠感を感じているし、左右の手がかなり痛みを感じている……。


『チェックメイトです! 今、闇を引き裂き――光の裁きで全てを貫け! 光の聖弓撃ライトニングスタンエッジ!』


 持てる力を全て振り絞って放った聖弓。高位魔法は自然粒子の制御を誤れば術者自身にも危険が及ぶ。霊力を込めすぎれば自然粒子の制御が狂い魔法決壊を起こす危険性が高い。


 思い起こせば、あれを放てたのは奇跡だったのかもしれない…… 今でも、聖弓を放った感覚が手に残っている……。


「北條――朝から浮かない顔をしているわね……」


 気がつくと、松雪さんが横に立っていた。


「……昨日は取り乱して申し訳なかったわ。それにしても、貴女みたいな大人しそうな子がそんな格好でしょんぼりしていると、疚しい男どもが寄ってくるわよ」


 麻由美がコーディネートしてくれた格好も、今となってはそんなに意識すること無く着こなせている感じがする。実際に動きやすく、暑い夏場では快適に思える。もっとも、周りに女性しかいないから。と言うこともあるのだが……。


「松雪さん――昨夜はよく眠れましたか?」


「まあ…… たまりにたまっていた事を蒼依に吐き出した後だったからね…… 布団の中で色々と考えていたわ…… おかげであまり眠れなかった。手を挙げたことは、申し訳なかったと素直に反省しているの……」


『私はね…… 蒼依のことを本当にパートナーだと思ってる。だから遠慮もしないし思ったことは言わせてもらう! 貴女はそうやって自分を卑下して身を引いて、そうするしか無いと勝手に思い込んでるだけ! 悲劇のヒロインを気取ってる只の臆病者よ!』


 あの時の言葉…… 手を挙げたことを反省している…… つまりそこまでは現実に起きた事象……。


「蒼依さん…… 心配ですね……」


「蒼依の代わりが務まる人間なんていない…… だけど、本当に辛いのなら、引き留めることは出来ないわ。只でさえ私達AMGEの職務は――死と隣り合わせの危険に満ちている。強い心を持っていないと、いずれ命を落とすわ……」


 蒼依さんがAMGEを抜ける…… その事も現実に起きた事象…… あの後、部屋に戻り私達はロビーで話し合った…… だけど結衣花ちゃんの話だと、それは無かったように思う……。


 つまり部屋に戻ってからが、現実と夢の境界線…… 夢見の魔女が私達の夢幻退魔のような術を遠隔で使えるのだとしたら……。


 そこで私は、魔女の幻影に墜ちた……?


『北條鮎香…… 今回は()()よ。貴女をこのまま連れ去りたい所だけど、()()が入ってしまったわ……』


 邪魔が入った…… つまりは誰かが助けてくれた……? 女神アルサード様のお助けか、それとも真由様が何かを察知して……?


 いずれにせよ…… 私は間一髪で助かった…… でもその助けが無かったのだとしたら……。


 わたしは…… 今どうなっていたのだろう……?


 それを思うと、背筋に寒気が走り、まるで心臓が何者かに掴まれたように、息苦しくなる……。


「北條――顔が真っ青よ? どうしたの貴女?」


「いえ…… ひょっとしたら風邪をひいてしまったのかも知れません……」


 よく思えば前日から風邪気味のようだった気がする…… 先日の朝は葛根湯を飲み、身体をいたわっていたのは事実だった。


「誰かの風邪がうつったみたいね…… 昨日の事もあってか、蒼依はまた熱を出しているみたい……」


 蒼依さんも…… もしかしたら、彼女も私と同じ魔女の作り出した幻影に墜ちていた可能性がある……。


 元々の狙いは蒼依さんだ。そう考えると彼女もきっとあの幻影に取り込まれていた筈…… あの場では結衣花ちゃんと一緒に離脱できたとはいえ、羽磨那からの攻撃でかなりのダメージを負っていた……。


 大丈夫だろうか…… あの場で羽磨那の攻撃を直接受けていないのは私だけ…… 蒼依さんの身体の具合がすごく気になる……。


「北條――かなり具合が悪そうね……」


 松雪さんが私の側に身を寄せる。先日感じた心が落ち着くような甘い匂い……。


「……大丈夫です。すみません、最近体調を崩し気味で」


「いいのよ。元々北條はそんなに身体が丈夫なわけでもないでしょう? 貴女は助司祭としても立派に頑張っているわ」


 そんなことを話していると、身支度を終えたみんながロビーに集まってくる。千里さんと千鶴さん、結衣花ちゃんも特に変わった様子はない。


(蒼依さん……)


 只彼女だけはその表情が重く、辛そうだった…… 彼女の性格からして、もしも私と同じ体験をしていたのなら、それを周囲には話さないだろう……。


 そして私達は迎えに来たバスへと乗り込んだ。


 教会への招集は16時。バスの窓から流れる霧に包まれた森を漠然と見つめながら、楽しいはずだった長野旅行は今、終わろうとしていたのだった……。

 

 

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