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渇望者  作者: 類月
4/6

過去

少しくらくらとする頭を上げて、玄関へと歩を進める

靴を履き、ドアノブへと手を伸ばし、扉を開ける


はぁ


今日は雪だ...白くなる息と世界を眺めて言った


ざくっざくっと鳴らす足を進めていつもの日常へと向かう





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


たった1人で歩くその後ろ姿は、扉を開けた瞬間に雰囲気がガラッと変わっていた


昨日外に追い出した感情を...いや、仮面を被ったからかもしれない

扉という1枚の板、この扉は彼にとっての合図


偽の感情を持ち、普通の男子高校生としてなんの違和感も持たれることがないよう仮面を被り、演技を始める合図


彼はどんな気持ちで、無理やり演じているのか

すでに、無理やりという気持ちですら無いのかもしれない

ただの"慣れ"であり、日常なのだろう



そんな日常が始まったのは、10年ほど前の話

彼は7歳だった


小学生に上がり、今の彼からは想像ができない

それはそれは元気で、明るい男の子だった


ただ...彼の親は、たった7歳の息子に対して重いものを背負わせすぎた


親はとても優しく、彼もまた親が大好きだった

明るい家族だった、幸せ一家と周りから呼ばれるほど





その日は家族みんなでお出かけに行こうと前々から言っていた日


この前誕生日に貰ったショルダーバッグを首にかけて、るんるん気分で両親と手を繋ぎ、自分たちの車に乗った


運転席には父、後ろに母、そして運転席の隣という子供にとって特別感がある、助手席に僕は座っていた


ーしゅっぱーつ!


今日はいつもと違って遠出だから、周りの景色がころころと変わって、僕は大興奮していた


だから、前から迫ってくる車に気付かなかったのだろう


キキィーっっという音に気づいたときには、意識は無くなっていた


ピッ...ピッ....ピッ....ピッ....

意識が戻ったときには、僕は病院にいた

でもその時は何が起こったのか、病院だということも、何も分からなかった


頭を包帯で巻かれ、腕も、足も、動かないよう固定され、心臓の音と同時にピッ...ピッ....と機械の音が聞こえた


痛みはない...けれど、感覚もない


何があったのか、今日はお出かけに行こうとみんなで...お父さんとお母さんと一緒に...


なんで...体が固定されているの...?

ここはどこ....?

お父さんとお母さんは....?

体の...感覚がない...怖い....怖いよ...


そんな不安の中、視界の端からお医者さんみたいな格好をしてる人と看護師さんのような格好をした人が来て、


ーどこか痛いところはない?

とか

ー自分が誰か分かる?

とか


たくさんのことを聞かれて、うん、ううんと相槌を打った


ーお父さんとお母さんはどこ?


その質問をした瞬間、2人の顔は暗くなった


ー君のお母さんは無事だよ...ただ....


ーお父さんは...亡くなった...ごめん...


ーなくなる....?


その言葉の意味を本当に理解したのは、もう少し先のこと



そこから、お母さんは空っぽになった


お父さんがいなくなったから...

その姿を見ていた僕も、自然と空っぽになっていくのは必然とも言える


どんなに頑張っても、お母さんに見てもらおうと思っても、お母さんの心を満たせるのはお父さんだけだった


じゃあ...僕は...?

僕の心を満たしてくれるのは...だれ...?

分からない


今までは両親だった


だからお父さんがいなくなっても、お母さんが一緒に人生を歩んでくれるって思ってたのに


こんな...こんな気持ちになるくらいなら


感情なんて...心なんて....いらない






ここから、きっと彼は壊れていったのかもしれない


そして母は彼と一緒に父がいない人生を歩めるほど強くなかった


2人ともこの事故から、心を満たしてくれる人がいなくなった

この事故から、2人の幸せは消え去ってしまった


家族との繋がりは、家族を幸せにすることも、苦しませることもできる、だからこそ大事だ

彼がこうなったのは、母のせい

母がこうなったのは、父のせい

父がこうなったのは、名前も知らない他人のせい


母が空っぽになったから、彼も空っぽになった

父が死んだから、母は空っぽになった

どうでもいい理由で事故を起こした人のせいで、父は死んだ



空っぽになった小さな彼は、その小さく弱い体に重く辛いものを背負わされることになった


これが、彼の過去


彼の過去を知るものは少ない

だからこそ、本当の彼を知るものも少ない


演技をしてようがしてまいが、周りにとってはそれが本当の彼になってしまう


でも10年もの間演技をし続けた彼は、昔の感情が残っているのか

可能性はあるともないとも言えない

なぜなら、彼の感情を引き出すためには

心を満たせる、大きな存在が必要だから




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