失楽園
「約束、破ったでしょ?」
休暇明けの月曜日。
楽園の管理者たる神は、早々にアダムとイヴを呼び出しました。
「いや、あのですね神様、これはその違うんです。喋る蛇が——」
しどろもどろになりながらアダムが説明しようとするも、神はすかさず言葉をはさみます。
「おやめなさい。そこから先はあなた方の子供が背負う業です」
神は知らないのです。喋る蛇など。
そんなもの創造していないのですから。
全知全能の神でも知り得ないこと。
それは最上位に君臨する母神、つまり女神の行動だけは他の神々でも知りようがないのです。故に、彼らは決して嘘など吐いてなどいないのです。ですが、神はそれを知りません。
「どんな事情があったにせよ、約束を破ったことは事実。ごめんだけどこの楽園から退去してください」
二人は泣く泣くエデンの園を離れることになりました。
神にとっても断腸の想いではありました。
まさか、自分が目を離したとはいえ彼らが約束を違えるなど。
(うん? これは休んでた間に起こった出来事。その間は母さんが見てくれていたはず……ちょっと聞いてみるか)
神は女神に今回の件を伝えました。
「あぁ、その蛇なら私よ」
意外な一言に神は絶句。ようやく絞り出した言葉は「な、何故そんなことを」という極々自然な質問だった。何か理由があったに違いない。そう信じたい。そう信じなければやりきれない。
なにせ、他責でアダムとイヴに楽園追放の沙汰を下してしまったのだから。
そんな複雑な心境などお構いなしに、女神は答えた。
「なんかヤッくんが得意気にしてたのがムカついたから」
神とは常に気まぐれで、時として残酷なものである。




