第二話
胎児は赤子になった。目もパッチリと開いてさ。ただ、頭の真ん中がへこんでいるのがちょっとおっかない。触ったらタマシイそのものが壊れてしまいそう。
「ぶー」
「ん?」
赤子が見ていたのは、車の群れだった。時刻は十八時。終業後の地方都市の帰宅ラッシュだ。斜陽に照らされた循環交差点と青信号。それらをこの赤子が興味深そうに凝視しているものだから、俺は決めた。
「お前の名前、ぶーちゃんにしよっか」
俺は一人で、笑った。
ぶーちゃんは文字を覚えた。
俺がひらがなを教えてやったんだ。数字にも興味があるみたいで、指をつかって「いち、に、さん」とか数えてる。この子は頭がよくなる。それにエキゾチックな眉に光る唇。美人さんだ。大きくなれたら、たくさん告白されたんだろうな。
俺は飯を与えてやれなかったけど、服は自由に変えてやった。いちおう神だからな、そのくらいの権限はある。ぶーちゃんは都道府県に興味をもったらしい。
「しーちゃん、福井県の隣はどこでしょう」
「石川県だよ」
「ぶぶー、京都府でした」
「石川県でも合ってんだろ」
しーちゃんっていうのは、俺のことだ。それはまあいいだろ。
なんだかすぐに連れていくのが惜しくなって、こいつの成長を見てみることにした。