第一話
Opening theme: “Ave Maria” by KOKIA
Listen here:https://www.youtube.com/watch?v=YUx2zu7H0_I
小さないのちだった。
小さな小さないのちだった。
それは、赤黒くて目を閉じたままで。
呼吸もしていなくて、丸まっているだけの胎児。
心音が消失していた。
原因は、風疹の感染症によるものだと医者は説明していた。
「おい」
俺は女の子の胎児の頬をつつく。押すと、へっこんだまま。触ったのか触っていないのかも判別がつかないくらいに感触がない。
「おーい。天国に行くぞ」
俺は死神。しかもなりたて。大人が死んだ時には、自分が死んだことがわからなかったり、認めたくなくて暴れたりするらしい。だから新人の俺の初仕事は、この胎児を天国に導くという役目だった。
……だけど。
「反応ねえな……。あれやってみっか」
俺はなにもない紫色の空間に体育座りをし、指で弧を描く。そこだけがすっぽりと抜きとられ、現世の映像が映し出された。
「ほら、あれがお前の死んだ病院。隣にあるのがコンビニ」
説明をしながら、俺は胎児の顔を見た。
すると、彼女の指がピクピクと動いたのだ。
「おろろ。成長してんのか、こいつ」
胎児はやがて瞼を開けた。でもすぐに閉じた。けたたましい泣き言を上げた。うるせえ。死んだら腹は減らねえ。胎児はぐっすりと眠った。俺も隣で眠った。ゆっくりやろうや。ワークライフバランスってやつよ。