第69話 ハッピィエンド
この作品は全三章で構成するつもりです。話の更新される日が不安定なことがあります。一応週一以上の頻度で更新するつもりですが、できなかった場合はどうかご容赦ください。
また、主人公を決めつけてこの作品を読み進めると、その主人公と決めつけたキャラに対して落胆の感情を抱く可能性があるので、この作品に主人公はいないと思いながら読むことをおすすめします。
未だに自覚がない。我殺の言葉をどこかで信じたくない自分がまだそこにいる。なぜだ。なぜ思い出せない?
カイリ「君が自分で手放したからだよ。」
自身の精神の中で声が聞こえる。
カイリ「君が望んで自身の罪の記憶を抹消したんだ。人間、嫌な記憶は脳に存在してほしくないからね。」
榎宮愷「そうまでして俺は自分の心を善人として偽っていたかったのか?」
カイリ「いや、どうだろう。正直、この話がややこしくなっているのはパートのせいでもある。」
カイリ「これ以上は振り返らないほうがいい。これ以上自分を知ろうとするな。」
榎宮愷「なんだよ…それ。」
我殺狂助「黙ってないで何とか言ったらどうだ?」
我殺からの声で現実の世界へ意識を帰した。うずくまった榎宮の首にわずかに我殺の剣が触れている。
我殺狂助「まだ思い出せないか?」
榎宮愷「思い出せない。」
榎宮愷(たぶん、記憶の種類が違うんだ。俺は我殺の仲間を二人消した。もう二人ともロストイーブンの種性のせいで忘れちゃったけど。そのうち一人はエスケープを探すときに消した。理由は覚えてないけど、俺が手にかけたことは覚えている。そしてその記憶は一度忘れられてまた思い出した。その記憶を思い出すことができて、現界のことは思い出せない。つまり、パートが取り立てた記憶は取り返すことができるけど、カイリの持つ記憶は現時点では取り戻すことができない。)
我殺狂助「では質問を変える。自分の罪を話されてどう思った?」
榎宮愷「俺は、、」
我殺狂助「さっさと答えろ!!」
その叫びに思わず体が震える。恐る恐る見た我殺の表情は今までに見たことがないほどの怒りと悲しみを表現していた。
我殺狂助「何が正しいのか、お前を消すべきなのか、何をしたらあいつらのためになるのか、いろんなことを散々考えたんだよ。あいつらの前では平然を装って。俺にはもう時間がないんだ。せめて、、あいつらだけは幸せにしてやりたかった。」
榎宮愷「……」
我殺の言葉にずっと心が傷つけられていく。全部本心だとわかるからだ。最初にいたあの三人だけじゃない。我殺は桐生や坂縞のことも仲間だと思ってくれたんだ。そして俺のそとも…なんて自惚れるつもりはないが、我殺の温情は十分に享受させてもらった。
榎宮愷「俺はお前の人生を、、すべてを狂わせた。そのことには謝罪も後悔も贖いもしてもし足りない。俺に、幸せになる資格どころか、罪を背負う資格も俺にはない。だから、ごめん。【ファースト】」
うずくまっていた姿勢から正座の姿勢まで体を起こし、ファーストとの言葉とともに、右側の首に触れている剣とは真逆の方向に体を半円を描くように回転させ、その回転が完了したと同時に体は直立する。
榎宮愷「自分にこんな資格がないことはわかっている。でも、どうしても諦められないんだ。俺は、、人の人生を狂わせてでも幸せになりたい。桐生と一緒に、仲間と一緒に、極楽に行きたい。」
我殺狂助「それが、お前の答えなんだな。」
榎宮愷「…あぁ!!」
我殺狂助「ならば来い。全力で苦しめてやる。」
このときの言葉だけ、榎宮には少し言い方が軟らかく聞こえた。気のせいだったのかもしれない。その表情に羨みが隠れているように見えたのは。
榎宮愷「フッ!!」
覚悟を決めた榎宮は、右手に剣を持ち我殺のもとへ真正面から走り寄る。近づいてくる榎宮の剣振りを軽く右に移動しかわす。隙ができたその状態を我殺は巨剣を捨て、左足を榎宮のからだに押し当て蹴り飛ばす。武召喚はされてないが、その中々の威力に剣は手からこぼれ榎宮の足や尻は地面へと接触する。
我殺狂助「立て。」
尻もちをついた状態の榎宮の胸ぐらを左手で掴み、無理やり起立させる。
我殺狂助「ファースト」
一つだけ数値を消費し、右手の力が増幅される。力が増した瞬間、榎宮のほほに拳の形にした自身の右手を激突させる。
榎宮愷「うっ!!」
蹴られたときより威力が増したことによって、吐血しながら殴り飛ばされ、床に手をつき全身が地面へと接触する。
我殺狂助「極楽に行きたいんだろ?なら、俺を倒してみろ。」
榎宮愷「くっ、、」
我殺狂助「幸せになる価値はお前にない。そのことをわかって、それでも諦めることができないんなら、力で無理やり押し通すしかないんだよ。」
榎宮愷「……」
我殺狂助「立て!!榎宮愷!!俺の怒りを全てぶつけてやる!!」
榎宮愷「うぅぅ!!」
唸り声に近い雄叫びをあげ、ようやく立ち上がる。ようやく立ち上がったと思えば、彼はすぐさま丸腰で我殺のもとに走り出す。
榎宮愷「うぁぁぁぁ!!」
何の武召喚も施されていないその右手を固く握り我殺の顔へ近づける。その右手はいとも簡単に我殺の右手に掴まれ止められる。
榎宮愷「ファースト」
武召喚を行い、自身の左手に剣が投影される。投影されるや否や、その剣を我殺に突き刺そうとする。だが、それも我殺の左手が剣を掴み動きを制止させられる。
我殺狂助「ふざけるな。」
そう呟いた瞬間、我殺の左手が榎宮の剣をへし折る。また、掴んでいた榎宮の右手も振りほどく。
我殺狂助「ツインサモン」
またも丸腰になった榎宮を、我殺は自身の右足に二つ分の数値を込めてその右足を榎宮の腹部に押し当てる。押し当てられた榎宮は吹き飛ばされる。
榎宮愷「うぅぅ!」
突き飛ばされ、床に手をつき倒れても、即座に立ち上がる。懲りずにまたも真正面から近づき拳を我殺へ近づける。丸腰のままで。結果、榎宮は自身の拳を我殺に避けられることも防がれることもなく、拳が我殺に当たる前にさっきと同じように蹴飛ばされる。体が地面を転がり、制服も身体も心もボロボロになる。
榎宮愷「くっ、、」
今の榎宮は数値に余裕がなかった。というより、ほとんど残っていないのだ。リアータホテルの襲撃者との戦いで、数十もの数値を獲得できたとはいえ、その後の才原清一やアンティワームの男との戦いで半分以上数値を消耗した。そして、我殺狂助と丸一日戦闘を繰り広げている。かわす、防ぐ、反撃する、それらの行動に数値を消費し、気づいたら榎宮の武召喚数値は残り2にまで追い詰められていた。時計にある数値が0にあると消滅するため、使える数値は残り一つ。対して我殺狂助の数値は残り10。戦況は絶望的以上の凄惨さだった。
我殺狂助「ただ俺にボコられるだけか?それで俺の怒りが収まるわけでもねぇのに。」
地に付した榎宮に少しずつ歩み寄る。榎宮の前まで近づき終え、そっとしゃがみこむ。
我殺狂助「これでも勝てないなら、お前は幸せになりたいと言う資格すらない。」
榎宮の時計と我殺の時計が触れあう。そのときに榎宮は我殺のしようとしていることを理解し、戸惑う。
榎宮愷「我殺、、何で…」
我殺狂助は榎宮愷に自身の持つ10の数値のうち9つの数値を榎宮に振り込んだのだ。呆然としている榎宮をよそにしゃがみこんだ状態から立ち上がる。
我殺狂助「極楽に行きたいんだろ?なら、全力でかかってこい。そのときのお前を潰して初めて俺の心は復調へ向かっていく。」
榎宮愷「なぁ、我殺。」
少しの間が空いたあとにゆっくり立ち上がり、一言彼の名前を呼ぶ。
我殺狂助「何だ?」
榎宮愷「あのとき、、俺のことを助けてくれて、ありがとう。桐生と坂縞を守ってくれて、あの二人が傷つかないために俺を残してくれて、、ありがとう。テンスデバイド!」
10の武召喚数値を消費する。両手に剣が投影される。その剣の生成に二つ、強化に四つの数値が割り当てられ、身体強化にも四つの数値を使用する。
榎宮愷「許さなくていい。憎んでいい。俺は、恩人であるお前を消して幸せになる。」
榎宮愷(自分のクズさに反吐が出る。自分はなにも悪くないと思って、極楽に行こうとして、無意識に周りを見下すわ、参加者を消すわ、恩を仇で返そうとするわ、どうしようもねぇ。消えるべき人間は間違いなく自分なのだろう。間違っているのは明らかに自分なのだろう。でも、どうしても、幸せの欲求に抗えない。)
榎宮愷「ハァ!!」
再び戦闘が開始される。真正面からさっきより早く、鋭く、俊敏な動きで我殺の消滅を促そうとする。強化された身体能力で急速に我殺との間合いを詰め、我殺の攻撃をかわす。投影し、強化した武器で我殺に傷、あわよくば致命傷を与えようとする。我殺狂助は武召喚ができず、まだ強化状態が続いている右手右足で榎宮の攻撃をいなしていく。隙ができたときには拳や足蹴を喰らわせ、榎宮をよろつかせる。だが、その一発一発は致命傷へとなり得ない。我殺が榎宮を倒そうとするなら、ダメージを累積させていくしかない。
やがて一時間が経過した。榎宮の攻撃は武召喚を施してもなお当たらず、我殺は何発か榎宮に武術的な攻撃を浴びせる。すでに榎宮や体はボロボロだったが、それでも尚立ち上がる。二時間が経過した。榎宮はまだ立ち上がる。攻撃をやめない。三時間が経過した。まだ戦闘は続く。四時間、五時間、互いに一歩も譲らず攻防を繰り広げる。そうして六時間が経過した後、ついに決着のときが訪れた。
榎宮愷「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
我殺狂助「ハァ、ハァ、フゥー。」
ここまで長期戦となると互いにしゃべる余裕はない。お互いの体力ももう0に等しい。二人とも腕や足から切り傷が見られ、体の器官は悲鳴を上げている。これで最後。次の一発が最後。二人ともそれを肌で感じていた。互いに見つめあい、相手がひどい状態であるのを再確認する。そして覚悟を決める。武召喚はとっくのとうに枯れ果てた。強化された肉体も武器も二人にはない。そこにあるのは本当の自分の存在のみである。互いに走り出す。二人の距離は瞬く間に縮まる。右手の拳をぶつけようと右腕を後ろへと控える。限界まで近づいたとき、二人の控えていた右腕が相手の方へ押し出し合う。
榎宮愷「うぉぉぉぉぉ!!!」
我殺狂助「うぁぁぁぁぁ!!!」
二人の間に何秒かの沈黙があった。どっちの拳が当たったのか、どっちがやられたのか、それを知るのにしばらく時間を要した。しばらくするとお互い、見つめあっていた目線を下に送ることに成功した。そして確認できた。我殺の拳が榎宮の腹を衝突させていて、榎宮の拳は我殺のもとに届いていないことを。
榎宮愷「はっ、」
そのことを確認した榎宮は小さく苦笑してなにも言わず我殺の目の前で倒れた。
榎宮愷(ごめん、、桐生。坂縞。我殺、メイド服が似合いそうな我殺のパートナーも。リアータホテルで気絶していた俺と桐生を助けたあいつも。我殺たちのために時計や武器の改造をしてくれたあいつも。)
榎宮愷「ごめん、なさい。」
榎宮愷 失格
彼の顔には涙を浮かべていたように見えたが、恐らく気のせいだろう。榎宮愷が白い粒子となって消滅した後、我殺狂助も張り詰めていた糸がポツンと切れ、豪快に大の字で仰向けに倒れ出した。バタン!!という音だけが森の中を包む。
我殺狂助「残り三人か。もう、無理だな。」
そう言い残し、彼は目を瞑る。森のなかは静寂に包まれる。そして、ついにそのときがきた。
ゲーム終了
その言葉がアナウンスで流れた瞬間、場内に残った三人のもとにそれぞれ監視者が現れ、無事に保護された。
中島芽衣「久しぶりですね。我殺さん。といっても、寝てるから聞こえないですよね。」
ゲーム開始から8日 第七次幸奪戦争終了
勝者 才原清一 佐藤要
かくして、第七次幸奪戦争の幕は閉じた。
「がいくん!がいくん、起きて。」
何か声が聞こえる。うっすらと聞き覚えのある声だ。その声に反応するようにゆっくりと目を開ける。その目を開けた先に知っている女性がいた。
桐生亜衣「あ!よかったー。いや、これはよくないのか?」
榎宮愷「桐生?」
桐生亜衣「亜衣って呼んでって言ってるでしょ。全く。」
榎宮愷「ここは?」
頬を膨らまし、不満そうにする桐生をよそに問いを投げかけてみる。
桐生亜衣「んー、何て言うんだろう。失格者が集まる場所って言うのかな?」
どうやら桐生も大して分かっていないらしい。
榎宮愷「その口振りからするに、」
桐生亜衣「うん、才原くんに負けちゃった。愷くんも我殺さんに負けたんでしょ?」
榎宮愷「あぁ、、」
榎宮愷「そういえば、、俺たち以外にも誰かここにいないのか?」
桐生亜衣「あー、木崎くんはいたよ。あとは、」
坂縞樹「俺もいる。」
知ってる声が再び。そして今度は男で4日会っていなかったものだった。
桐生亜衣「樹くん?」
榎宮愷「坂縞?」
坂縞樹「そうだよ。」
桐生亜衣「うわーーん、よかったよー。まだ生きてて。」
抱きついてくる桐生を軽く一避けしたのちに坂縞は口を開いた。
坂縞樹「一つだけ、お前らに聞きたいことがある。」
その突然の質問はひどく深刻さを帯びたものに聞こえた。桐生も榎宮もきく姿勢が変わる。
坂縞樹「この幸奪戦争で会った参加者、どこまで覚えている?」
榎宮愷「え?あー、えっと、ごめん。俺の種性核がロストイーブンだから、記憶が曖昧だ。今ここにいる三人と、我殺、あとは才原清一と俺と坂縞をさらってきた男、くらいかな。」
本当は我殺の仲間や、リアータホテルの襲撃者、同じ種性核者だった女性もいたが、もういまいち覚えてない。
桐生亜衣「えっとーー、あのさ。」
榎宮愷「?」
桐生亜衣「私もそれくらいしか覚えてない。」
榎宮愷「……え?」
幸奪戦争のルール
この戦争は8日間残れば勝利となる。
この戦争は脱落すれば敗北となる。
敗北したものは存在を抹消される。
この戦争には初期、間期、終期の三つに分けられる。
初期はゲーム開始から4日以内
間期はゲーム開始から4日~7日までの間
終期はゲーム開始から7日から終了までを指す
初期、終期に致命傷を負い、消滅したものは失格となる。
間期に致命傷を負ったものは即脱落となる。
幸奪戦争の参加者は勝利、または敗北するまで辞退を認められない。
ハッピーエンドを求めて第1章 完結
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。ハッピーエンドを求めて第1章はこれで完結となります。ここまでご愛読頂いた皆様に心から感謝の意を申し上げます。今後とも、ハッピーエンドを求めて第2章、初期に倒された失格者たちの戦いを描いたハッピーエンドを求めてドロップイグジストをよろしくお願いいたします。




