第57話 悪人
この作品は全三章で構成するつもりです。話の更新される日が不安定なことがあります。一応週一以上の頻度で更新するつもりですが、できなかった場合はどうかご容赦ください。
また、主人公を決めつけてこの作品を読み進めると、その主人公と決めつけたキャラに対して落胆の感情を抱く可能性があるので、この作品に主人公はいないと思いながら読むことをおすすめします。
桐生亜衣「愷くん…?」
桐生亜衣の視界の先にはゲーム開始当初から知り合っている仲間とその仲間に敵対心や警戒心を持っている謎の人物、そしてその二人の間に割って入るかのように信用と信頼はあまりなかったが、それでもともに協力しあってきた仲間と呼ぶにふさわしい男がいる。その男は二人に刺されている。その刺し傷は致命傷と化した。致命傷を受ければどうなるか?消滅する。その男は理解が追い付いていない、なぜ?どうして?と言いたげな表情を浮かべ黒い塵となり視界から消え去った。
榎宮愷「は、あ、あぁ!!」
そして榎宮愷は思い出した。自分はもう一人、協力関係を築いていた仲間を消したことを。
榎宮愷の心の中?精神世界?そこで榎宮愷の失われた記憶の象徴が自我を持ち、会話をしている。
カイリ「ねぇ、どうする気?榎宮愷少しだけあんたの記憶取り戻したみたいだけど。」
パート「みたいだな。」
この二人はどちらも榎宮愷の記憶。パートはロストイーブンの種性の反動により失われた記憶。カイリは榎宮愷が冥界に来る前に自ら切り離した記憶。そして、榎宮愷はそのパートの中にある記憶の片鱗を一部取り戻したのだ。
カイリ「というか失った記憶って戻るものなのか?」
青年未満の声がそんな疑問を口にする。その疑問に青年の声が回答した。
パート「どうやら脳に強いショックを与えると一部の記憶は戻っていくらしいな。だが、それだとロストイーブンの代償を支払っていない。だから記憶が戻った場合は、代わりに他の体の機能が失われるようだ。」
山田雅人「何だあの男…?」
榎宮愷という人間の異質さに驚きと困惑をを隠せない。自分を助けにきた仲間を彼は刺し消した。その事実にどうしても脳が理解を拒む。山田雅人は不可解な恐怖を抱きながらも、目の前にいる対象に集中することにした。だが、それに意識を向けようとしていたときには状況が変化していた。
桐生亜衣「サードデバイド!!」
自身の身体に武召喚を施す。三つの武召喚数値のうち、二つは才原清一や榎宮愷に与えられたダメージの修復を促進させることに使用する。その力で無理やり自身の体を立ち起こす。残りの一つは武器の生成。桐生亜衣の右手に大きな槍が投影される。その槍の先端は山田雅人の足に向いている。
桐生亜衣「…ごめんね。」
一瞬だけ迷う。その一瞬の脳内審議に基づき、ひきつった顔を浮かべながら槍の先端を山田雅人の足に突き刺す。
山田雅人「あぁぁぁ!!」
突き刺された槍はすぐに引き抜かれ、それと同時に彼は痛みに悶絶しながら体を沈める。
桐生亜衣「才原!!止まって。」
発言からしても、表情からしても、彼女は明らかに激怒している様子だった。その激怒の矛先がまるで自分に向けられていると感じ取った才原清一は不満に近い疑問を口にする。
才原清一「止まれと命令する人が違うんじゃないか?この暴走してる…」
桐生亜衣「いいや!!止まるのはお前だよ!戦いたいなら私が相手になる。」
才原清一「…何か勘違いしているな。俺は別に無駄な戦いはしたくない。俺の目的の邪魔をするなら消す、しないなら放っておく。それだけだ。」
桐生亜衣「じゃあ話してよ。あなたと愷くんの関係性を。今、愷くんは私たちに危害を与える様子ではなさそうだし。」
正気に戻ったのか、憔悴したのか、榎宮愷は膝をつきただ黙りこんでいるだけだった。力を込めることを忘れた右手からは剣がこぼれ頭もまた地を向いている。明らかに戦う人間の姿勢ではない。
才原清一「…いいだろう。今回だけは引いてやる。だが、その代わりに明日またここに来る。そのときは容赦はしない。互いに詮索し合うのもなしだ。」
榎宮愷に何の恨みがあるのか、その理由は話さない。代わりに今回は見逃してやる。これが才原清一の最大の譲歩らしい。
桐生亜衣「…わかった。明日また相手をしてあげる。」
才原清一「逃げられると思うなよ。この幸奪戦争、時間が経つごとにどんどん行動エリアが狭くなっているらしい。今は半径5キロぐらいだろうな。」
そう言い残し、山田雅人を連れて屋上から姿を消した。
桐生亜衣「愷くん、聞こえる?」
榎宮愷の目の前まで歩み寄り、しゃがみこむ。彼に近づいたときもうさっきの暴走した状態ではないとすぐにわかった。もう正気に戻っている。少し安心した矢先、榎宮愷が口を開いた。
榎宮愷「もう、ダメだ。」
桐生亜衣「……」
榎宮愷「俺は、何人消した?何で、あんなことを?」
桐生亜衣「私もそうだよ。現界では友達の腕を切って、この戦争からは一緒にあの四条債賀という男を倒した。」
榎宮愷「違う、そうじゃない。見てただろ。俺はさがのを、協力してくれる仲間も消した。さがのだけじゃない。口数が少なくて臆病なやつだったけど、我殺たちにはすごく協力的で俺らのことも迎え入れてくれたあいつも俺が消しちまった。
榎宮愷(くっそ!もうあいつの名前すら思い出せない。ロストイーブンの代償か。)
榎宮愷「理由なんかわからない。でも、俺がやったんだ。だから、、頼む。俺を消してくれ。」
手放した剣を桐生亜衣に差し出す。だが、彼女はそれをまだ受け取らない。彼女はまだ黙って聞いているだけだった。
榎宮愷「俺は、、どこか勘違いしてたんだよ!何で自分が地獄にきたのかわからなくて、そんな中冥界であんなクソみたいな生活して、心のどこかで思ったんだよ。【自分は何も悪くない】って。」
桐生亜衣「……」
榎宮愷「俺は地獄にいるような人間じゃない、極楽で幸せな生活をするべきなんだって、そんな、思い上がりをしてたんだ。もう、夢から覚めるべきなんだ。頼む、俺を【終わらせてくれ」。」
桐生亜衣「嫌だよ。だって、まず愷くんの発言から気にくわないもん。」
榎宮愷「…え?」
まさかの即答に驚きつつ、自身の心からの発言に対する指摘をうけ、思わず情けない声を漏らす。
桐生亜衣「今の言葉からは愷くんが消えたい理由って、仲間を倒した罪悪感というより、自分が実は悪人だったていう事実に対する絶望感によるものなんじゃないの?」
榎宮愷「!?」
図星だった。仲間を手にかけた罪悪感は少なからず存在する。その罪悪感も自身が消えたい理由の一部ではある。だが、それよりも自分は本当は悪人だった。罪を犯してしまったという事実に対しての受け入れられない感情の方が大きいのである。それを指摘された榎宮愷に否定することはできなかった。
桐生亜衣「そうだね、愷くんは仲間を手にかけた。私も目の前で見たし。それに対する罪悪感とか辛さは今も感じているはずでしょ。それと同じ気持ちを私に与える気?ふざけないでくれる?」
話していくうちにどんどん怒りが強まっていく。いつの間にか桐生亜衣の両手はグーの形に変化し、その手に伝わる力も強くなっていく。
桐生亜衣「ねぇ、愷くん。君は何しにここに来たの?自分は極楽にいるべきで他のやつらとは違うとかそんな上から目線な気持ちだけで来たの?」
榎宮愷「ち、違う!!」
桐生亜衣「じゃあ何?いってみて!!」
もうキレていた。さっきの才原清一との会話はギリギリ怒りを隠している、包み込んでいるような声色だった。例えるなら、【少しでもいらんこといったらキレる。それまでは平静を保つ努力はしよう。】みたいな感じだった。今は違う。純度100%の怒りを榎宮愷にぶつける。
榎宮愷「確かに、最初はそうだった。俺は地獄にいるような人間じゃないって、そう思ってた。でも、お前や坂縞と出会って、他の参加者と戦って少しずつ考えが変わった。自分の無能さに吐き気がして、お前らに迷惑かけて【本当に俺は極楽にいく価値があるのか?】って段々不安になってきた。桐生や坂縞の方がよっぽと幸せになる権利があるんじゃないかって思えた。でも、一緒に幸せになりたいと思った。こんな俺でも、極楽に行きたい。仲間と一緒に幸せになりたい。そう思ったんだよ!」
桐生亜衣「…そっか。」
その言葉をきいて安心した、ほっとした、そんな優しい声になり、榎宮愷の目を見つめる。彼の目にもまた自分が映っている。
桐生亜衣「私もそうだよ。悪人なんだよ。この戦争に参加している人は全員。地獄行きの烙印を押されている。でも、それでも、幸せになりたいの。罰を受けるべき人間でも幸せを求めちゃうものなの。」
榎宮愷の顔に手を差し伸べる。指先が頬に触れる。
桐生亜衣「私はあなたと幸せになりたい。だから、悪人であることを受け入れて。それを承知で目指すの。あなたがまた暴走したら私が止める。私が何かやらかしそうだったらあなたが止める。前に進むの。罪も罰も全部背負って。たくさん責められて、怒られて。最後に幸せになろう。」
榎宮愷「…あぁ、ありがとう。」
堪えていたものがこぼれだした。それにつられて彼女もまた少しずつ堪えられなくなってきた。互いに笑いながら泣いて、気づいたときにはもう屋内へと戻っていた。戻ったあとは二人で備蓄されていた非常食を適当に使って料理し、それをともに試食していた。そのあともストーブを探し、暖を取り、たわいもない会話をして、笑いあって、気づいたら二人で寝ていた。
ゲーム開始から五日と二十時間
残り参加者12人
~榎宮愷や才原清一が屋上で揉めているときのこと~
ソイーブルを行った福山幸多、それに対抗する我殺狂助と飯島聡。この三人の勝負は互角だった。スピードやパワーも大幅に強化されている福山に対し、我殺狂助は持ち前の観察力や洞察力で次の動きを読み対策を講じる。飯島もまた、積極的な攻撃はできなくとも福山の攻撃をかわす、受け止める、それのカウンターを試みるくらいのことはできている。少なくとも足手まといにはなっていない。かわすのも防御するのも福山の動きについていくことができるからのものだからだ。この拮抗状態が続けば、数値の消費が激しい福山の方が不利となる。そう我殺が考えたときに、状況は一変した。
桂唯賀「随分手こずっているじゃないですか。福山さん。」
我殺・飯島「!?」
後ろから現れた青年に視線を向ける。
桂唯賀「手伝ってあげましょうか?」
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。初の投稿作品ですので、まだ粗削りで不出来なところもあるでしょうが温かい目でこれからこの作品を見守って頂ければ幸いです。作品を読む際に【ハッピーエンドとはどういうものなのか】このことを念頭に置きながら読んで頂ければ、より一層深くまでこの作品を楽しめると思います。これからもこの作品を皆さまに楽しんでいただけるよう、精進して参ります。




