第56話 ぼう
この作品は全三章で構成するつもりです。話の更新される日が不安定なことがあります。一応週一以上の頻度で更新するつもりですが、できなかった場合はどうかご容赦ください。
また、主人公を決めつけてこの作品を読み進めると、その主人公と決めつけたキャラに対して落胆の感情を抱く可能性があるので、この作品に主人公はいないと思いながら読むことをおすすめします。
桐生亜衣「だ、誰?」
突然現れた男、榎宮愷という名前を知っている、この二点の異質さから桐生亜衣は才原清一に対しての警戒と動揺を隠しきれない。
才原清一「才原清一だ。この榎宮愷には俺の兄の居場所を吐いてもらわないといけなくてな。」
桐生亜衣「…ん?うーんと、、うん?え、ん、あーあ、うん。」
桐生は才原清一の言動について考えた末、諦めた。兄の居場所を探している……?最初は現界でこの二人は何か絡みがあったと考えたが、そうすると俺の兄の居場所を吐いてもらうという言葉に説明がつかない。榎宮愷も才原清一も冥界の住人であるから、才原清一の兄も冥界の住人のはすだ。そして、冥界で何らかのトラブルがあり突然行方不明になった。その原因が榎宮愷にある。こう考えると辻褄は合う。
ただ、地獄で行方不明になることは不可能に近い。地獄行きとなった者は獄人と呼ばれている。獄人は奴隷のように働かせられるが、そこには武装した監視員が何百人もいる。過去に三回ほど暴動を起こしたらしいが、三回とも失敗。武装した監視員を一人だって倒すことはできなかった。背後からの奇襲や隠密作戦などがなぜか一切通用しなかったらしい。つまり、獄人は監視員から逃げ出すことができないのだ。どこかへ行ってしまうということが起こるとは考えにくい。考えに考え、結局、どういうわけかわからなくなってしまった。
桐生亜衣「えっとー、、そのお兄さんは獄人なのかな?」
才原清一「違う!!兄さんは極楽にいるはずなんだ!!」
これまた意外な回答が返される。その発言に拍子抜けしつつも、もう少し問いを出す。
桐生亜衣「んーと、答えたくなかったらいいんだけど、お兄さんとは冥界で会ったことある?」
才原清一「……ない。」
桐生亜衣「……」
桐生亜衣(どういうこと?弟さんは知らないのに、何で愷くんは知っているの?今の愷くんの状況に何か関係が?)
そんなことを頭に並べているうちに、榎宮愷は既に桐生亜衣を消そうとする動きを始めていた。桐生亜衣に近づき剣を突きさそうとしてくる。
榎宮愷「うわぁぁぁぁ!!!」
桐生亜衣「!?」
才原清一「セカンド!!」
それを才原清一が割って入り、武召喚を行い、武器を投影する。才原清一のハサミがたの双剣と榎宮愷の一般的な剣、それらが交ざり合う。そして、才原清一は憤怒に近い表情と声で口を開く。
才原清一「半殺しにすれば、少しは黙ってくれるのかなー!!」
桐生亜衣「やめて!!」
才原清一「は?こいつはお前を殺そうとしたんだぞ。」
桐生亜衣「だから何?それが庇ってはいけない理由になるの?」
才原清一「ちっ、話が通じねえな。」
榎宮愷「あ、が、うぅぅぅ!!」
生産性のない口喧嘩を何ターンか繰り返していると、猛獣のようなうなり声を響かせ、新たな動きに出るものがいる。一度剣を手放し、才原清一を横に蹴ることで目の前にいる邪魔な対象は榎宮愷の視界から大きく外れた場所に強制移動される。そして榎宮愷の目の前には桐生亜衣が立っていた。
榎宮愷「に、げ、ろ…」
桐生亜衣「愷くん。」
榎宮愷「う、あぁぁぁ!!」
桐生亜衣に向かって襲いかかる。右手に持つ剣で彼女を切り裂こうとする。本人の意思とは関係なしに。
榎宮愷「うぁぁぁ!!!」
そして榎宮愷は桐生亜衣の腹部を切り裂いた。
桐生亜衣「ん、くっ、、」
彼女の服には亀裂が生じ、その割れ目から血がにじみ滴る。
才原清一「なぜ、武召喚をしなかった…?」
避けるなり、武召喚で武器を投影し、それで剣を受け止めるなど防御や回避の方法はあった。彼女もそれは分かっている。だが、あえてそれを行うことはなかった。桐生亜衣は榎宮愷の両肩に手を置く。
桐生亜衣「愷くん!!君はこんなことしたいわけじゃないでしょ!逃げろだって?笑わせないで。私が君から逃げるわけないじゃん。だから君も逃げないで。こんなことしたくないならやらなくていいんだよ!自分の意思とは無関係に体が動いていたとしても、今それをやっているのは榎宮愷自身の体。君がやったことに変わりはない。」
榎宮愷「でき、ないんだ。」
桐生亜衣「……どうして?」
榎宮愷「体が勝手に反応するんだ…いけないことだって分かっているのに、脳が支配されているかのように、抗えない。」
桐生亜衣「……」
榎宮愷「だから、逃げてくれ。また失いたくないんだ…」
その言葉を最後に、榎宮愷は攻撃の姿勢を見せる。持っている剣をまたも桐生亜衣にむかって斬りかかろうとする。桐生亜衣は榎宮愷の両肩から手を離し、彼の剣振りをかわす。
桐生亜衣「…わかった。もう説得はしない。ファースト。」
桐生亜衣(リアータホテルで愷くんが泣きながら暴走していたときは気絶させることでその暴走は止まった。なら今回も…)
才原清一「いやいや、俺の獲物って言っただろうが。」
背後から声がする。それに驚き、すぐさま振り向く。振り向いた先には一人の男が双剣を持ちたたずんでいる。
才原清一「サードサモン」
武召喚を行う。三つの武召喚数値は才原清一の片腕に込められる。そしてその力が込められた腕で桐生亜衣の顔に衝突させる。その衝撃で桐生亜衣は吹っ飛ばされる。
桐生亜衣「ぐ、うぐ、」
才原清一「そこで見てろよ。この機は逃さない。」
桐生亜衣「だめ、、やめて、」
立ち上がれない。榎宮愷に付けられた傷、才原清一の攻撃、その影響で思うように体が動かない。
そんな中、またも屋上にある扉が開いた。
山田雅人「どうですか?見つかりまし…」
途中で言葉を止める。質問を投げうる前に、その質問の答えは視覚的に理解できたからだ。もう目当ての対象は見つかったらしい。
山田雅人「聞くまでもないようですね。じゃ、そっちはそっちでどうぞ。」
そう言い残し、山田雅人の足は桐生亜衣の方へ近づいてゆく。
山田雅人「僕はこっちをやっておくので。」
桐生亜衣「まずい、このままだと私も愷くんも。」
桐生亜衣の焦りの火にさらに油が追加される。開けっ放しだった扉からまた一人進入する。
夏倉位翔子「ねぇ、これって私はどっちの援護をしたらいいの?」
山田雅人「僕は一人で楽しみたい派ですので、才原さんの方行ってあげてください。」
夏倉位翔子「はいはーい。じゃあもうめんどくさいからやっちゃうね。【ソイーブル」。」
桐生亜衣「!?」
夏倉位翔子は武召喚数値を10消費し、大幅な身体強化を施す。確実に榎宮愷を倒そうとしているのだ。
夏倉位翔子「じゃあ始めようか。清一さん。」
才原清一「確実に倒すぞ。いいな。」
夏倉位翔子「はいはい。」
桐生亜衣「ま、まって。」
山田雅人「待つも何も相手が違うでしょ。こっちに集中してください。ツインサモン。」
桐生亜衣は今立ち上がれる状況にはない。仲間を助けようと思っても目の前には敵。それをかいくぐったとしてもまだ二人いる。はっきりいって絶望的状況にあった。そして、榎宮愷もまた、夏倉位翔子と才原清一の攻撃に次第に劣勢になっていく。ソイーブルした夏倉位翔子の火力のごり押し、才原清一の双剣を使った武器の技術、ただある支配に囚われているだけの戦闘の意思があまりない榎宮愷に勝ち目などないだろう。段々と榎宮愷の体にダメージが蓄積され、徐々に脱落へと近づいていた。
榎宮愷「あ、がぁぁぁ、」
だが、突如として榎宮愷の動きが変化する。
夏倉位翔子の持つハンマー型の武器を榎宮愷の持つ剣によって弾き飛ばされる。
夏倉位翔子「!?」
その驚きにかられている間に夏倉位翔子の胸に傷ができる。それは榎宮愷が剣で切り裂いたものだった。当然、そこから血は吹き出る。その事実に才原清一も勘づき出す。
才原清一(急に動きが変わりやがった。やはり、こいつは読めない。)
夏倉位翔子「くっ、クソガキがぁぁ!!」
ソイーブルの効果で傷の修復はかなり早く行われる。そのおかげですぐに次の攻撃へと移ることができる。夏倉位翔子もまた手に持っている武器を榎宮愷に向けて叩きつけようとする。才原清一、榎宮愷もまた、同じように自身の持つ剣を狙う対象に向ける。その光景に桐生亜衣は気が気でならなかった。
桐生亜衣「お願い、もうやめて。」
三人の攻撃が誰かしらに当たる、その少し前にある男が動き出していた。開けっ放しにされていた扉からまたまた一人進入する。今回は全速力で。そしてその男が向かった先は榎宮愷らが戦っている場所だった。三人の真上に赴き、右手には水鉄砲のような銃口が無数にあるものが握られている。そしてその引き金が押され、銃口から無数の針のようなものが放たれる。
才原清一「!?」
才原清一はそれにいち早く気づき、近くにいた夏倉位翔子を盾にすることでその被爆を免れる。
夏倉位翔子「あぁ!!ぐっ、痛い!!」
そんな中、榎宮愷はそれを気にもせず、才原清一にむかって斬りかかる。無数の針の雨に意識がそれたせいで榎宮愷への攻撃をもろに食らう。
才原清一「ぐぁっ!!」
そのせいで少しだけ彼の体が吹っ飛ぶ形で転移される。
夏倉位翔子「痛い!!痛い!!ふざけんなまじで!!」
無数の針が全身の至るところに突きささり、ストレスと怒りを増幅させる。
嵯峨野健児「ふざけんなはこっちのセリフです。ツインサモン!!」
嵯峨野健児の右手にサーベルのようなものが投影される。そしてそのサーベルは夏倉位翔子の腹部を貫通する。貫通した後、それを引き抜く。
夏倉位翔子「あ、が、がはっ、、」
口と腹部から大量の吐血が行われる。
少しずつ彼女の全身は黒くなり、やがて完全にその場から消滅する。
脱落
嵯峨野健児「榎宮さん、だいじょ、」
嵯峨野健児は榎宮愷が暴走していることなど知らない。彼が屋上へ駆けつけたのは、侵入者の存在を感ずいたのと、榎宮愷と桐生亜衣の救援に向かうためだった。さっきの針の雨は榎宮愷に当たらないように工夫している。
だが、彼は気づいたときには自身の体に二つの剣が突きさっていた。ひとつは才原清一によるもの。もうひとつは榎宮愷によるものだった。
嵯峨野健児「愷、さん。どう、して。」
榎宮愷「は、あ、あぁ!!」
そして嵯峨野健児を突き刺した後、榎宮愷は思い出した。自分はもう一人、我殺狂助の仲間へ消していたことを。
脱落
ゲーム開始から五日と七時間
残り参加者13人
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。初の投稿作品ですので、まだ粗削りで不出来なところもあるでしょうが温かい目でこれからこの作品を見守って頂ければ幸いです。作品を読む際に【ハッピーエンドとはどういうものなのか】このことを念頭に置きながら読んで頂ければ、より一層深くまでこの作品を楽しめると思います。これからもこの作品を皆さまに楽しんでいただけるよう、精進して参ります。




