表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/35

第10話「何かあったときに手を差し伸べてくれるのが、乙女ゲームにおける攻略キャラクター

「落ち着くんだ、まだ中にいると決まったわけじゃない」


 確かにジェフリーが言う通り、カレンが大図書館の中にいる証拠なんてどこにもない。

 だからこそ私は数の力を利用して、カレンがシャロットの自死に巻き込まれたと思い込ませていく。


「きっとカレン様は、自死されるお嬢様を説得しようとしたのかも……」


 悲劇の侍女を演じ切ることで、状況は打開できると信じていく。

 肩を落とし、背中を丸め、泣いている素振りを見せながら、可哀想な侍女を表現していく。


「そうかも……カレンなら、きっと」

「ジェフリー様! お願いします! カレンを救ってください!」


 邪魔なシャロットとカレンを焼き殺したいというのなら、少しでも長く二人を大図書館に閉じ込めておく必要がある。

 魔法学園の首席争いの二人が、そう簡単に焼け死ぬわけがないとジェフリーも理解している。

 自分が加わることで、鎮火が早まることを危惧しているジェフリーを見かねて次の動きが始まる。


「カレンっ! カレンっ!」

「カレンを助けに行こう」


 消火活動に参加していなかった力なき生徒たちは、学園の人気者であるカレンの救出に向かう。

 もちろん全員がカレンの救出に向かったわけではないけど、何人かの生徒は居ても立っても居られずに場を離れていった。


「ジェフリー様」


 少しよろめきながら、消火活動に加わることのできないジェフリーへとゆっくりと近づいていく。


「どうして、カレン様を見殺しになさるのですか」

「っ、だから、彼女が中にいるとは限らな……」

「カレン様がどこにいるのか分からないからこそ、皆様は消火に向かったのです」


 大図書館にカレンがいる可能性もあれば、いない可能性もある。

 どちらも否定できないからこそ、生徒たちは図書館の消火に手を貸すことを決めた。


「ジェフリー様が、恋人を見殺しにされるなんて……」


 胸に手を当てて、胸が締め付けられる様子を表現してみる。

 すると、この場に残った生徒たちの疑惑の目がジェフリーに突き刺さるようになる。


「なんで力を貸してくれないのかしら……」

「俺たちのような無力な人間ならともかく……」


 ジェフリーは冷静さを保ちながらも、次々に聴覚に届けられる疑念の声に焦りつつあると信じたい。


「ここで魔力を使い切ったら、次に何かが起きたとき対処が……」

「何が起きるというのですか」

「っ」

「魔力を温存している場合ではないはずですが」


 魔法と呼ばれる不思議な力を題材にしたゲームだけど、戦争が起きたり、モンスターに襲撃されるような殺伐とした世界観は用意されていない。

 あくまで魔法学園で巻き起こる事件を解決しながら、攻略キャラとの関係性を深めていくゲーム。

 何かに襲撃される恐怖を感じない平和な世界観は、より一層の不信感を煽ってくれる。


「まだ、息があるかもしれないのに……」


 泣き崩れるフリをして、言葉を止めた。

 ここまで生徒を誘導できれば、あとはもう勝手に盛り上がってくれると期待を込める。


「カレンのこと、大切じゃないのかしら……」

「庶民が珍しくて、手を出しただけ……?」


 最初は悪役令嬢に向いていたはずの悪意だったけど、肝心の悪意をぶつけるシャロットはこの場にいない。

 生徒たちの意識が完全にジェフリーへ向けられ、勝手な妄想を繰り広げられる環境を用意することができた。


「カレン、頑張ってたのにな」

「ああ、凄いいい子だったよ」


 消火に手を貸す力を持たない魔法学園の生徒たちは、ある意味では暇な人。

 恋人を見捨てたジェフリーの話で盛り上がることで、空いている時間を潰していく。


「遊びの関係だったという事実を隠蔽するため……?」

「まあ、恐ろしい」


 ジェフリーは数少ない生徒たちに取り囲まれたまま、何も言葉を紡ぐことができなくなった。

 太陽の光を浴びたように輝く金色の髪をぐしゃぐしゃにし、次の手を考えているようだけど頭は回らない。

 数の恐怖を利用してシャロットを追い込んだくせに、追い込まれる恐怖をジェフリーは知らないらしい。


「なんで……なんで……なんで、こうなった……」


 今まで通りシャロットだけを断罪に追い込んでいれば、事態はジェフリーの勝利で終わった。


(でも、今回は二人を同時に殺そうとしたから……)


 欲を出して、邪魔な二人を同時に消そうとしたことが裏目に出た。

 死に戻りを経験していないジェフリーがモブキャラの侍女を危険視することもなく、私を生かしたことも敗因だったかもしれない。


(あとは、二人の遺体が見つかって……それで、復讐完了……)


 カレンの遺体が見つかれば、恋人を見殺しにした優等生として彼の評判は地に落ちる。

 ランデ家の評判も落ちて、魔道具を売りつける事業も失敗に追い込めたらと思うけど、ジェフリーが放火犯という証拠が見つからない限りは難しい話かもしれない。


(終わった……)


 手を握ったり、開いたりを、繰り返す。

 自分が生きていることを、自覚する。


(終わったんだよね……)


 ここに愛すべき悪役令嬢はいないけど、私は無事に3月1日を迎えることができる。

 終わることのない誕生日を繰り返していたけど、ようやく一歳年を取ることができる。


(年取っても、嬉しくないけど……)


 悪役令嬢から誕生日を祝ってもらうルートを探していたはずなのに、シャロット・レトナークは世界からいなくなってしまった。


(もう一度、死に戻ることができたら……)


 魔法学園すべてを飲み込んでしまうのではないか。

 そんなことを思ってしまうほど、未だに炎は鎮火する気配がない。

 薄暗くなっていく空を覆い尽くそうと、炎の勢いはさらに増していく。


(今度こそ……今度こそ、シャロットを救ってみせるのに……)


 冷たい夜風が運ばれてくるのに、その冷たさに何も感じなくなっていく。

 魔法学園を燃え尽くそうと活動を続ける炎の前で、私は呆然と立ち尽くしていた。


(シャロットのいない明日なんて……)


 深い喪失感が広がっていくのに、私に蘇生の力が宿るなんて素敵な展開は訪れない。

 シャロットを失った現実が容赦なく襲いかかってきて、目が涙でかすんでいく。

 すべてが終わったはずなのに、明日を頑張る力が湧かずに心が重い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ