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第8話「あなたがいたから、私は顔を上げることができる」

「お嬢様っ! 今なら、まだ……」

「次も、無事に死に戻れるかしら」

「何をおっしゃって……」


 壁を超えてくるほど勢いある炎が私に近づいてくると、シャロットは杖を高く掲げて炎を操っていく。

 それでも自分が放った魔法でない炎たちは言うことを聞かず、迫りくる炎を防ぐので手がいっぱいの様子だった。


「お嬢様っ! カレン様っ!」

「過去の記憶を記した書物、燃えたことがないのよね」

「早く脱出を……」

「その先に待っているのは衛兵、でしょう?」


 私は大図書館から二人を避難させるために声を飛ばすのに、肝心の二人は図書館を守るために力を尽くす。

 自分の命よりも大切なものが、大図書館(この場所)にある。

 魔法学園の生徒としての誇りを持つ二人の姿に感銘は受けるものの、私は杖を持たないシャロットの肩腕を引く。

 早く出口に向かうように、力強く彼女を引っ張る。


「次も、あなたに会えるかしら」

「お嬢様っ!」

「会いたいわね。私は会いたい」

「お嬢様っ!」


 悪役令嬢の侍女に転生したところで、魔法を使うことのできない私は完全にお荷物だった。

 世界を救う力を手に入れての転生だったら良かったのに、そんな理想通りの力を侍女は手にすることはできない。


「私を信じてくれてありがとう、アリナ」

「っ」


 シャロットを断罪から回避させるためとはいえ、図書館で長居し過ぎたことが原因でジェフリーに追い込まれてしまったかもしれない。

 唇を噛み締めながらも、戻れない過去を悲観してばかりはいられない。


「嫌です! そんな別れの挨拶を聞くために私は……」


 自分の体が、宙に浮く。

 宙に浮いた体は炎の球体に包み込まれたのに、私は一切、炎の熱さを感じることがない。

 シャボン玉のような炎の球体は強力な防御壁となっているらしく、周囲の炎と煙を遮断する役割になってくれる。

 この場では完全にお荷物な私を守るために作られた魔法に、再び涙腺は緩み始める。


「カレン様っ! シャロット様を連れて……」

「また、死に戻りのお話を聞かせてください」


 命さえあれば、どうにかなるって言葉が頭を過った。

 でも、この火災から逃げ切ることができたとしても、二人に待っているものは恐らく死罪。

 命が助かったとしても、待っているものはバッドエンドでしかない。


「次は、次こそは、お二人を助けてみせます」


 カレンの手から放たれる氷の魔法は、巨大な氷壁を築くように炎を防いでいく。

 でも、カレンが得意としているのは光魔法。

 炎の勢いは氷魔法を押し返し、カレンの魔法は強大な炎に屈してしまう。


「私たちは魔法使い。力なき庶民を救う義務があるの」


 煙が充満し、熱気が押し寄せてくるはずの大図書館。

 それなのに、私はシャロットの魔法に守られている。

 熱さも痛みも苦しさも何も感じないまま、大図書館の外へとふわりふわりと運ばれていく。


「生きなさい、アリナ」


 誰よりも赤が相応しい少女の姿を記憶に焼きつけておきたかったのに、彼女は私の手を取ってはくれない。


「お嬢様っ! カレン様っ!」


 次も、絶対に死に戻ることができる。

 そんな保障があったら、こんなにも涙を溢れさせることはないかもしれない。


(また、2月28日をやり直したい……)


 強く、強く、願う。

 決して目の前には現れてくれない神様に、必死に願いを込める。


「それぞれの力を結集させるのです!」


 大図書館の外に飛び出すと、炎でできたシャボン玉のようにぱちんと割れてしまった。

 すべてを燃え尽くす勢いの炎から逃げ切ることができた私の頬を、冷たい風が撫でる。

 身震いしてしまうほどの寒さを感じるのに、目の前には燃え盛る大図書館という歪な光景が広がっている。


(なんで、なんで、時間が戻らないの……)


 大図書館は魔法学園の校舎から隔離されているため、まだ校舎に炎は燃え広がってはいなかった。

 大図書館の周りには教職員や生徒たちが集まっていて、必死に魔法の力を結集させて消火作業を行っていく。

 誰も私が大図書館から脱出したことに気づかないくらい、自身の魔法を成功させるために力を注ぐ。


(まだ、シャロットが生きてる……?)


 魔法の呪文が飛び交い、杖から放たれる魔法が炎に向かって飛びかかる。

 水や氷、地属性といった自分が得意とする魔法で炎を抑え込もうとしていた。


(それとも、もう死に戻れない……?)


 一向に事態が変化を見せることはなく、教職員と生徒は懸命に力を尽くしていく。

 自分も輪に加わって手助けをしたいのに、魔法が使えない私はその光景に呆然とすることしかできない。


(部屋の時計は……カウントダウンだった……?)


 初めてシャロットの部屋で時刻を確認したときは、午後4時が私の始まりを示していた。

 でも、今回の死に戻りで確認した時刻は、午後1時。

 死に戻るたびに減っていく数字は、死に戻れる回数を示していたのかもしれないと嫌な予感が頭を過る。


(考えない……考えない……考えない……!)


 泣き崩れてしまうのは、簡単なこと。

 感情任せに泣いてしまえば、いつかは心が癒えるかもしれない。


(だって、まだシャロットが生きてる可能性もある……!)


 人間は独りに追い込まれると、碌な考えをしかしないのだと学ぶ。

 カレンが味わった孤独は、こんなにも心を沈ませる効果があったのかと胸が痛む。


(私は、私にできることを)


 深呼吸をし、力の入っていなかった手に意識を集中させる。

 いきなり魔法が使えるような展開にはならないけれど、自分の体に力を込めることはできる。自分の力で立ち上がることはできる。


(ずっと、シャロットの強さに憧れてきたんだから)


 何もできなかったことに胸が締めつけられるなんて経験、まだやり切ってもいない私には必要ない。

 魔法学園の仲間たちが魔法の力を結集させていく様子を見つめながら、私は少しずつ大図書館と距離を取って安全な場所を確保する。

 消火活動のお荷物にまでなってしまったら、シャロットとカレンが大図書館の書物を守ろうとしたすべてが無駄になる。

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