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第6話「決戦前のお茶会」

「ランデ家の力を借りましょう!」

「息子が魔道具で儲けるために人を殺そうとしているなんて、信じてもらえると思う?」

「うっ……」


 もっと話すための時間が欲しいけど、シャロットの断罪時間は刻々と迫っている。

 この大図書館に、ジェフリーの手が回るのも時間の問題。


「今は私を断罪するだけで済んでるけど、もしかすると魔法学園そのものを……」


 シャロットが最後まで言葉を紡ぐことはなかったけど、そこから先の言葉は私でも想像ができる。


「魔道具を広めるためなら、手段は選ばないということですね」


 シャロットのような勇ましさが自分にあるかは分からないけど、なるべく力強い言葉を発する。

 自分を落ち着かせるのにいっぱいいっぱいになっているカレンにも届くように、しっかりと声を発していく。


「カレン様と、ミリアーナ様の力を借りましょう」


 断罪の権利がジェフリーに委ねられているとしても、好き勝手に人を殺す権利は持っていない。


「犯してもいない罪をやってもいないと証明するのは難しいですが、シャロット様の良いところを広めるのは簡単ですから」


 この場に自分の姿を確認するための鏡はないけれど、自分の目には強い決意が宿っているといいなと思う。


「数の力でシャロット様が追い詰められたというのなら、数の力で勝利することも可能です」


 同調圧力とはいかなくても、同調圧力に近い立場に持ち込めたら幸運だと思う。

 シャロットを断罪したい人たちを、少数派にすることで事態は大きく変わるかもしれない。


「問題は……時間ですね」


 ようやくカレンが自分の力で立ち上がれるようになり、ジェフリーに打ち勝つための力強い表情を見せてくれる。


「逃げ切るには限界があるわ。例の隠し通路、ジェフリーに知られているもの」

「すみません……彼に隠し通路の存在を教えたのは、私です……」

「カレン様は、ジェフリー様の機嫌を損ねないようにしたまでのことですよ」


 ここは誰が悪いと責めている場合ではない。

 自分に自信を失っているカレンが自分のことを責めすぎないように、彼女を気遣う言葉を向ける。


「できる侍女になってきたわね」

「っ、身に余るお言葉をいただき恐縮です」


 いちいちシャロットの言葉に喜んでいる時間はないのに、隙間隙間で彼女は私を喜ばせる言葉を口にするから困ってしまう。


「頭が煮詰まったときこそ、休息が必要ね」

「お嬢様!?」

「大図書館の司書が利用している部屋は、こっちだったかしら」


 一瞬の安らぎも許されない状況下で、シャロットは優雅に大図書館の隣に隣接されている部屋へと向かっていく。


「一息入れましょう」


 シャロットからの提案に、私もカレンも驚きのあまり目を丸くさせた。

 少しの間だけ考え込んでしまったけど、私とカレンは顔を見合わせて小さく微笑み、了承の意を示した。


「カレン様はお客様ですので、椅子に腰かけてお待ちください」

「でも……」


 司書教諭室らしき部屋はゲームの世界には登場せず、私は足を踏み入れるだけで心臓を高鳴らせてしまった。

 机の上には乱雑に積み重なった書物や書類が置かれていて、日本での教室と大差ない様子。

 それなのに本棚は天井に届くほどの高さで、魔法の力を使わないと決して届かない造りになっているのは、とても魔法学園らしいと思う。


「戦いの前には、休息が必要ですから」

「私たちは、あなたをもてなしたいのよ。カレン」


 平民出身のカレンには、ただ待つということは荷が重いことかもしれない。


「……ありがとうございます」


 貴族のシャロットからの心遣いを察し、カレンはおとなしく待つことを選択してくれた。


「私はお茶の準備をしたいのですが……」

「こっちよ」

「お嬢様、私たちは部屋をお借りする身ですよ」

「また死に戻ったら、なかったことになるわ」


 随分と縁起でもない言葉を投げかけてくるけど、それが彼女らしくて思わず口角を上げてしまった。

 シャロットが生きていることを実感できるだけで、こんなにも大きな幸福感を得ることができる。

 この幸せが長く続くようにと願わずにはいられない展開に、私の心臓はますます大きく高鳴っていく。


(これ、牛乳かな……?)


 ひんやりとした空気が流れ込んでくる箱の中に、瓶に入った真っ白な液体を発見した。

 恐らく異世界での冷蔵庫のようなものだと妄想を膨らませ、瓶の中に入っているものは牛乳だと信じたい。


「お嬢様、こちらは安全に飲むことができますか」

「ミルクも飲んだことないの?」

「ミルクは平民にとっての高級品です」


 異世界から転生してきましたと、丁寧に説明している時間は残されていない。

 適当なことを言ってやり過ごし、懐かしさ溢れるミルクを手に取る。


「お嬢様、ミルクを温めてもらえますか」

「主人を働かせるなんて、いい度胸ね」


 シャロットは溜め息混じりに返事をするけど、ひっそりと口角を上げてくれたところを私は見逃さなかった。


(少しはシャロットの息抜きに繋がったかな……?)


 チョコレートかキャラメルがあるといいなぁと願いを込めて部屋を探索してみると、戸棚の中から板チョコレートを発見する。


「次は、チョコレートを魔法で刻んでください」

「全部の工程を私にやらせるつもり……?」

「ここにはティーポットもお湯もありませんので、どうかお許しください」

「はぁ、仕方ないわね」


 シャロットは私の言葉に従い、風魔法を使ってチョコレートを刻んだ。

 彼女を不機嫌にさせるつもりは毛頭ないため、常に彼女の表情の変化には気を遣っていた。

 満足そうな笑みが浮かべていることから、ほんのひと時の安らぎを提供できているのだと安堵の気持ちを抱き始める。

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