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第5話「価値なしって言葉の罪深さ」

「どうしてそこまで、お嬢様の断罪にこだわるのですか」


 悪役令嬢を断罪に追い込むために必死になったカレンと出会ったのも本当のことだけど、過去で何度か悪役令嬢の味方になってくれたのも本当のこと。

 カレンの行動だけが毎回、変化を起こしていることを丁寧に気にかけていく。


「私が嫌いなら、それはそれで構わない。カレンを傷つけたというなら、謝罪も……」

「必要……ありません」


 カレンは、ゆっくりと口を開いた。


「私はシャロット様に、何度も救われてきましたから」


 カレンは涙ぐみながらも、肩に手を添えていたシャロットを真っすぐに見つめる。


「庶民出身の私が魔法学園で挫けないように、いつも気合いを入れてくださいました」


 この世界は貴族の血筋を継ぐ者しか、魔法を使うことができない。

 いくらゲームの主人公だからといって、庶民が魔法を使えるという特別はカレンを苦しめてきたのかもしれない。


「卒業を迎えられるところまで来られたのも、シャロット様がいてくれたおかげで……」


 シャロットの遠回しな優しさは、カレンにちゃんと伝わっていた。

 カレンの言葉から確かな感謝の気持ちを感じ取ることができるのに、シャロットは断罪へと追い込まれてしまう。


「カレン様、お嬢様の無実を証明してもらえませんか」


 シャロットの断罪まで、あと二時間。

 シャロットが手にしている日記帳には大図書館での安全が保障されているらしいけど、絶対が保障されない世界だからこそ私は警戒心を強める。


「もうすぐで衛兵とジェフリー様が、お嬢様を探し……に……」

「っ」


 ここで初めて、カレンが視線を逸らした。

 カレンの顔は体調でも悪いのかと思ってしまうほど青白く、言葉を紡ぐことも躊躇って体を震わせていた。


「ジェフリー……ジェフリー、っ」

「カレン様。大丈夫ですよ、落ち着いてください」


 その場に屈みこんでしまったカレンは涙を溢れさせながら、全身を震わせた。


「っ、私は価値なしで……無能で……」

「カレン! 一体、なんの話をしているの!」

「お願い……無能なんて言わないで……価値なしなんて言わないで……」


 恐怖に染まるカレンの心が、逃れることのできない絶望で満たされていくのを感じる。


「私は、役立たず……役立たずの庶民で……」


 カレンの言葉を受け止めながら、シャロットと視線を交える。

 断罪が迫るシャロットに手を差し伸べてくれたときもあったのに、カレンがシャロットを裏切り続けてきた理由を察する。


「私を断罪したかったのは、ジェフリーだったってことね」


 シャロットがはっきりとした物言いでジェフリーの名前を出したため、カレンは余計に体を震わせることになってしまった。


「お嬢様!」

「っ、ごめんなさい」


 蹲るカレンの背を何度も優しく撫でることで、カレンが落ち着きを戻せるように配慮をしていく。


「価値のない私は、シャロット様のライバルに、相応しくないと……」

「それで、私との距離を取り始めたのね」


 言葉を途切れさせながらも、カレンは真実を伝えるために言葉を紡いでいく。

 おかげで、ジェフリーがシャロットとカレンの間に溝を作りたかったのだと気づくことができた。


「シャロット様を頼ってはいけないと思って……それで、それで……」

「ジェフリーを頼り続けた、ね」


 強張った表情をしながら、シャロットは自分の右腕を腰へと当てた。


「孤独を救うフリをして、カレン様を否定し続けるなんて……」


 ただでさえ、庶民出身という大きな枷を背負ったカレン。

 役立たずや無能といった言葉を向け続ければ、自分に価値がないとカレンは思い込んでいく。

 価値のない自分を支えてくれるのは、ジェフリーしかいない。

 そんな思い込みは、カレンの交友関係を狭めることに繋がっていくのだと気づかされる。


「許せません!」


 息を荒くして、ここにはいないジェフリーへと軽蔑の眼差しを向ける。


「落ち着きなさい。ジェフリーが殺したいのは、私だけで十分。余計な手間をかけさせないで」


 余計な手間という冷たい言葉がシャロットから飛んでくるけど、彼女の表情に悪役令嬢の冷酷さは存在しない。

 私を守るための言葉だと脳が理解し始めると、心が少しずつ喜びという感情を覚えていく。


「シャロット、さ、ま、っ。彼に逆らったら……」


 嗚咽の止まらないカレンだったけど、いつまでも弱いままではいられないとシャロットに感化されつつあるらしい。

 溢れ出る涙を何度も拭いながら、カレンは自分の心を落ち着かせていく。


「カレン様が何を言ったとしても、決して聞き入れてもらえません」

「でも、断罪を回避するには、ジェフリーの説得が必須よ」


 カレンがジェフリーを説得したところで、必ず言いくるめるのがジェフリーだった。

 ジェフリーが登場することで、味方だったはずの必ずと言っていいほどカレンは敵に回ってしまう。


「何様のつもりなのかしら?」


 苛立ちを和らげようとして、シャロットは両手を軽く握り締めた。


「ですよね! 社会貢献している家系出身とは思えません」


 ゲームの設定上では、ジェフリーは攻略キャラというものに該当するはず。

 魔道具を庶民に広める彼の家系は、魔法を使うことができない一般市民に魔道具を広める活動をしている。

 そんな優しさを持つ彼が、どうしてここまで豹変してしまったのか分からない。

 ゲームの内容を熟知していても、理解できない。


「社会貢献と言っても、生きていくためにはお金が必要よ」


 シャロットと一緒に苛立ちを積み上げていきそうになったところで、彼女は冷静な声をくれた。


「ランデ家は、慈善事業で魔道具を配っているわけじゃない。ランデ家は、魔道具を売ることで財を増やしているの」

「っ、つまり炎魔法に長けたシャロット様が邪魔ということですか?」

「火と水は、生活する上で必要不可欠ね」


 乙女ゲームの中では、ジェフリーは恋愛対象として魅力的でなければいけない。

 綺麗なものしか映さないというゲームの特異性は、ジェフリーを良い人だと思い込ませた。


「カレン様を利用して、シャロット様を失墜させたかったってことですね」

「やっと事件の黒幕の動機が見えたわ」


 真紅の髪に、赤の瞳といった美しさが、彼女の凛々しさを強調する手助けをする。

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