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第4話「乙女ゲームにおける攻略キャラクターは、主人公を助けるために存在する」

「攻撃すると言って……」

「私は、シャロット様の元に戻ります」


 相手の言うことも聞かずに、勝手に行動しようとうする私に魔法の杖を差し向けてくる少女がいた。


「シャロット様の断罪を回避するのが、私に与えられた役割ですから」

「っ」


 目の前にいたのは、ウェーブがかった金色の髪と明るい緑色の瞳が誰よりも似合う少女。

 誰からも愛される存在で、むしろ彼女を愛さない人間はこの世に存在しないと言っても過言ではない。

 抜群の信頼度と好感度を誇る主人公であるカレンが、私の行く道を遮るために杖を掲げる。


「死にますよ」

「カレン様は、人を殺すような残忍なことはできないはずです」

ソラリス・ルクス(光の球体)


 手を高く掲げ、光魔法が私に向かって投げ込まれる。

 でも、心優しい主人公に人を殺すなんてことができるわけがなかった。

 光魔法は心臓を貫くことなく、既に崩れかかっている壁へと逸れていく。


「カレン様、考え直してください」

「来ないで……来ないで……来ないで……っ!」


 いつもの穏やかな笑みを浮かべているカレンは存在せず、彼女は混乱状態に陥っているようだった。


「ソラリス・ルクス! ソラリス・ルクス! ソラリス・ルクスっ!」


 何度も光魔法を詠唱し、魔法を乱発していくカレン。

 彼女の目の焦点が定まっていないのは一目瞭然で、彼女が投げ打つ光魔法が私の体に当たることはない。


「シャロットお嬢様を救えるのは、カレン様だけです」


 隠し通路を利用することで、シャロットを断罪に追い込んだカレンと対峙できればと願っていた。

 その願いは見事に実現したけれど、私の声はカレンの耳には届かない。

 カレンはさらに強力な魔法を放つけれど、飛び交った光の球体同士がぶつかって小さな爆発を起こす。


「カレン様は、本当にシャロット様に傷つけられたのでしょうか」


 冷静さを保ちながら、一歩一歩カレンに近づいていく。


「お二人は魔法の力で、国をより良くしていくものだと信じていました」


 侍女と主の間にはない関係性に、やきもちを焼いたのは事実。

 悪役令嬢と主人公の間にしか存在しない絆を羨んだのも事実。


「私には、お二人の関係が善きライバルにしか思えませんでした」


 乙女ゲームの中で展開された主人公と悪役令嬢のやりとりを通して感じたことを、想いを込めながらカレンに伝えていく。


「カレン様、ちっとも悪人に見えませんよ」


 ゆっくりと、彼女の腕に手を伸ばす。

 カレンは戸惑いの表情を見せたけど、再び魔法を放つために呪文を唱えるために口を動かそうとした。


「ソラリス……」


 私は素早く彼女の手を掴み、しっかりとカレンの目を見つめる。


「どうか、カレン様のお力を貸してください」


 カレンの瞳に、やっと光が宿った気がした。


「カレン!」


 やっとカレンを救えるところまで来たと思ったのに、次の展開が私に襲いかかる。


サンダー・ブリッツ(雷の矢)!」


 心もとない蝋燭の明かりしかない場所では暗闇が広すぎて、自分に迫り来る攻撃を避けることができなかった。瞬く間に、飛んできた雷撃が自身の体を貫く。


「っ、あ……」


 激しい痛みが走り、体が痺れて動けない。

 カレンを説得するために立ち上がろうと試みるけど、足に立ち上がるための力さえ入らない。


「カレン、怪我はないか」


 侍女に向ける瞳は冷徹なのに、主人公(カレン)に向ける表情には優しさを感じるところを憎く思う。


「ジェフリー、っ、うっ、っ、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「もう大丈夫だ、カレンは一人じゃない」


 カレンは震える声を発しながら、その場へと屈みこんで泣き崩れた。

 恋仲であるジェフリーは泣き止まない彼女のことを自分の腕の中へと抱き寄せ、優しく背中を撫でていく。


「私、役立たずで……価値なしで……」


 雷を受けた体は言うことを聞かず、苦痛で顔が歪んでいることは間違いない。

 命があるだけ、まだ救われている方だと思って、自分の中に声を出すための酸素を取り込む。


「誰に……役立たずと言われたのですか」


 侍女に転生する前の自分だったら、こんなに勇ましい行動なんてとることはできなかったと思う。


「誰が、カレン様のことを価値なしとおっしゃったのですか」


 悪役令嬢シャロット・レトナークの強さに憧れていた。

 自分の手で人生を切り拓こうとするシャロットのような生き方をしたいと願ったからこそ、私は変わることができた。


「シャロットに決まっているだろう」


 答えを返してくれたのはカレンではなく、彼女を守るために登場したジェフリーだった。


「お嬢様は……そんな……そんな、誰かの人生を否定するような方ではありません」


 私だって、もう一度、自分の足で立ち上がりたいという強い意志がある。

 体に力を込めていくけれど、ジェフリーの魔法の力は強大すぎて思うように体を動かすことができない。


「この期に及んで、シャロットの肩を持つ気なのか」

「私はシャロット様の断罪を回避するために、ここにいます」

「君も、シャロットと同罪だな……」


 攻略キャラクターが、こんなにも冷徹な声を発していいんですかと問いかけたくなる。

 それだけジェフリーから、大きな怒りの感情を受け取る。


「犯罪者に加担するなんて……」

「ジェフリー、待って……」


 ジェフリーと対峙するための力を持たない私が立たされている状況を、絶望の淵と例えるのかもしれないとぼんやり思ったときのことだった。


「私は、シャロット様に傷つけられてなんか……」


 私を救うために声を上げてくれたのは、カレンだった。


「カレンは優しすぎる。彼女の悪行は、君が一番よく知っているはずだ」


 泣きじゃくっていたカレンは声を出すのもやっとだったはずなのに、その懸命なカレンの想いはジェフリーによって否定された。


「カレンさ、ま……その証言を、皆の前で……」


 ジェフリーの攻撃をまともに受け、痺れの取れない体では床に倒れ込むことしかできない。

 ぼやけていく視界の中で、シャロットの断罪を回避するための手段を必死に整えていく。


「お嬢様と、カレン様は……一緒に国を背負う……」

「駄目だな。この侍女は、シャロットが正義だと信じ切っている」


 ジェフリーが掲げている魔法の杖に、再び雷の力が宿り始める。


「ジェフリー! やめて……やめて……お願い……」

「カレン、これは学園に平和を取り戻すためなんだ」

「ジェフリー! ジェフリーっ!」

「シャロットに味方する人間を生かしておくわけにはいかない」 


 体を動かそうとするたびに鋭い痛みが襲って、自分の体が限界に近づいていることを理解する。


(カレンが止めてくれても……)


 今までの流れでは斬首が定番の殺され方で、首が吹っ飛んでいく瞬間を見ずに済むのは幸運かもしれない。

 こんなにも生きたいと願っているのに、動けない体では抵抗することもできない。

 ジェフリーに殺されるという、新しいバッドエンドの迎え方に頭は何も考えられなくなっていく。


「サンダー……」


 この世界では、魔法を唱える際に呪文が必要。


「|フレイム・エンブレイス《炎の抱擁》!」


 呪文を早く唱えた方が、いち早く魔法を発動させることができる。


「あなたは、本当に使えない侍女ね」


 希望が消えかけていた心に、一筋の光が差し込む。


「っ」


 自分の命運は、今まさにジェフリーの手によって定められようとしていた。

 それを救ってくれたのは、悪役令嬢シャロット・レトナーク。

 私が悪役令嬢の断罪を回避するはずだったのに、私は悪役令嬢シャロットに命を繋いでもらった。

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