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第2話「死に戻りをしていますと言っても、理解されないと思うから」

「んっ、見た目以上の美味しさです」


 前世ではコンソメスープの素というものがあったけど、今はシェフが丹精を込めてコンソメスープを作ってくれたのだと思う。

 食事する人を喜ばせる気持ちが込められていて、美味しいスープがより一層、美味しく感じることができる。


「……こうやって、誰かと一緒に食事をするなんて久しぶり」


 シャロットが、優しい笑みを浮かべていた。

 その眼差しに、どんな感情が込められているのかは分からない。


(でも、シャロットが笑ってくれるだけで、泣きそう……)


 瞳に涙が揺らいだ気がしたけど、私も気丈を装うために笑ってみせた。


「お嬢様と食事をすることができたこと、とても嬉しく思います」


 一言一言に、シャロットへの感謝と愛情を込めていく。

 別れの挨拶をしているわけではなく、シャロットと過ごす一秒一秒を大切に想っていると彼女に伝えていく。


「こんな風に、あなたと食事を楽しむ時間を作れば良かった」


 一瞬だけ瞳を伏せて、深い溜め息を吐く。

 そして、何事もなかったかのようにシャロットは再び食事を進めていく。


「独りで食べる食事ほど、虚しいものはないから」


 シャロットと目が合わなくなる。

 食事に集中していると言われれば、それまで。

 でも、シャロットが楽しい食事時間に憧れているような気がした。

 言葉にすることを躊躇うからこそ、正面に座っている私と視線を交えないのではないかと思った。


「お嬢様のお許しさえいただけたら、いつだって、何度だってお付き合いいたします」


 シャロットは私を見てくれなくても、私は彼女から視線を逸らさずにいたい。

 そんな気持ちを込めて、私は真正面にいるシャロットに熱い視線を向ける。


「断罪を控えている主に対して、あなたはいつも未来を与えるのね」


 満足げな表情を浮かべて、深い溜め息を漏らした。

 今日のシャロットは、溜め息の回数が多いような気がする。


(あれ……?)


 私が転生する前の侍女は、主であるシャロットのことなんて見向きもせずに放ってきたと彼女の口から聞いている。


(侍女との距離が近いような……)


 さすがにシャロットとの会話をすべて記憶できるほどの超人的な能力はないけど、侍女との関係が冷え切っていることは何度も耳にしてきたから記憶に残っている。


(侍女って、未来に希望を与えるようなキャラだった……?)


 ゲームの中ではカレン視点で物語が進むため、悪役令嬢の視点ではどんな物語が繰り広げられたかは妄想を繰り広げるしかない。

 侍女との関係が本当に冷え切っていたかなんて確かめようがないけれど、私が出会ったシャロットは侍女との距離が遠かったはず。


「手が止まってるわよ」

「あ……申し訳ございません」


 シャロットに促され、まだ平和な未来が訪れたわけではないと食事の手を再開させる。


「あと三時間は誰も来なくても、断罪が回避されたわけじゃないの」


 なんで、こんなにも断定的な言い方をするのか。

 あと三時間後に断罪されているのは確定していて、三時間後に衛兵がシャロットを迎えに来るのも確定している。


(でも、あと三時間は誰も来ないって断定はできない……)


 誰かが部屋の様子を見に来る可能性は、十分にある。

 あと三時間、本当に誰も部屋に来ないかどうかは未来を迎えないと分からない。


(まるで、シャロットが未来を知ってるみたいな……)


 魔法学園を舞台にしたゲームだったから、シャロットに未来を予知する力が備わっているのかもしれない。

 それはそれで夢があるけど、そんな未来予知の力があるのなら私がいなくても悪役令嬢の断罪は回避されているはず。


(死にたくないって言ってたから……)


 三度目のシャロットの死で、彼女は気持ちを溢れさせた。

 最期の最期に、死にたくないって本当の気持ちを教えてくれた。


(じゃあ、なんで未来を知ってる……)


 一つの可能性が浮かび上がっているのが分かる。

 その可能性を口にしてしまえばいいのに、私はその可能性を口にすることを躊躇っている。


(だって、信じてもらえるわけがない)


 シャロットも一緒に、死に戻りを繰り返しているのではないかという可能性に気づく。

 それでも言葉にできないのは、そもそも死に戻りを信じてもらえないかもしれないから。


(頭が可笑しい侍女だって、信頼を損ねるわけにはいかない……)


 実は私、死に戻りなんです。

 そう説明したところで、理解してもらうのは難しい。

 いくら魔法と呼ばれる力が盛んな世界設定だとしても、自由に時間を戻したり進めたりするなんて荒業は現実には存在しないのだから。


「私との食事は、味を感じないかしら」


 気づけば、シャロットは最後のデザートであるケーキを口にしていた。

 甘そうな果実とクリームがたっぷりと乗せられたケーキに、シャロットが心を癒されているような希望を抱く。


「生きるために食べ進めたいのですが……主との食事は緊張をしますね」


 考えごとにふけっていたことを隠し、私はもとの楽しい食事時間を彼女に提供することを決める。


「過去に戻ることができたら、あなたの緊張を取り払うことができたかしら」

「お嬢様の力で、ぜひとも過去に時を戻してください」

「何百年かかっても、叶えることができなさそうな壮大な願いね」


 このシャロットの言葉をきっかけに、私は妄想を抱くことをやめた。


(シャロットは、過去に戻れない……)


 シャロットが一緒に死に戻りを経験していたら、大きすぎる味方の登場に感極まってしまったかもしれない。


(これで良かった)


 頼りがいのあるシャロットに付いていくだけの、お荷物侍女へと成り下がるところだった。

 悪役令嬢を断罪から回避させるのは、自分しかいないと言い聞かせていく。


「お嬢様、この学園には隠し通路が存在します」


 初めて隠し通路を使った逃走劇を繰り広げたときは、断罪まで一時間しか残されていなかった。

 でも、今回は三時間の猶予がある。


「その通路を利用して、学園から脱しま……」

「行くわよ」


 シャロットが隠し通路の存在に不審な目を向けることなく、まるで彼女も隠し通路の存在を知っていたかのようにあっさりと事が進んでいく。


(今回は、絶対に大丈夫)


 逃亡に失敗した隠し通路を再び使う選択をした理由は、もう一点ある。


(カレンと会うなら、この隠し通路がいい)


 シャロットが断罪に追い込んだ元凶がカレンだとしたら、カレンの味方をする人がいない場所でカレンと対峙したい。それが、隠し通路を選んだ理由だった。

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