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第4話「悪役令嬢を助けてくれるのは誰?」

「さあ、悪役が滅びるところを僕たちの目で……」

「お待ちください」


 このままゲームの中と同じ展開になってしまったら、シャロットは断罪エンドまっしぐらになってしまう。

 カレンが黒幕だという証拠が見つからない限り、私は物語の展開を変えるために動かなければいけない。


「あなたは確か……シャロット様の侍女……」


 ウェーブがかった金色の髪と、明るい緑色の瞳。

 相変わらず主人公らしい容姿をしている彼女なら、きっと学園中の生徒たちの信頼を勝ち取っている。

 主人公になるべくして産まれてきた彼女に対して、私は怯むことなく二人の前へと歩み出る。


「シャロットお嬢様の命を、どうかお助けください」

「何を言うかと思えば……」


 ジェフリーは攻略キャラとは思えないほど冷たい目で、侍女()を見下ろしてきた。

 彼の家系は、魔法を使うことができない一般市民が魔法の恩恵を受けられるように社会貢献している。

 魔道具と呼ばれる道具を一般市民に普及させることを目標とする優しさがあるはずなのに、彼は平民出身の侍女()に関わろうともせずに距離を取る。


「お嬢様は確かに、カレン様に不快な想いをさせてしまったかもしれません」


 悪役令嬢が、悪役令嬢としての振る舞いを行ってきたのは事実として受け入れる。

 でも、問題は、悪役令嬢への処罰があまりにも重すぎること。


「ですが、どうか彼女にも悔い改める機会を与えてください」


 国を揺るがす事件を起こしたとか、カレンの命を危険にさらしたというのなら、処刑という道が待っていても仕方ないかもしれない。

 でも、このゲームに登場する悪役令嬢シャロット・レトナークは、あくまでプレイヤーの怒りを買う程度の嫌がらせしか仕掛けてこない。


「どうか、彼女の命を奪わないでください」


 シャロットが救いようもない悪人だったら、私はそもそもシャロットに惹かれることはなかった。

 シャロットが悪役令嬢としての魅力を存分に発揮していたからこそ、私は彼女の強さに惚れ込んだ。


「彼女の罪は重い」


 しばらくの間、無言で考え込んでいたジェフリーが口を動かす。

 でも、返ってきたのは、攻略キャラということも忘れてしまいそうな冷ややかな声。


「彼女の罪は、許されるものではない」

「本当に、そうでしょうか? 本当に、そこまで大きな罪を犯したのでしょうか」

「君の懇願は無駄だ」


 頭が固い。

 思わず彼の悪口を口にしてしまいそうになったけど、私は喉の奥底へと悪口を沈めた。


「どうか、どうかお考え直しください」

「カレンが傷ついているのは事実だ。これ以上、何を議論する必要が……」

「本当に、本当に、お嬢様は、命を奪われるほどの罪を犯したのでしょうか」


 主人公の立ち位置であるカレンが、この場で正義であることに間違いはない。

 けれど、ゲームの中では、そこまで悪役令嬢から非道なことをされたわけではない。

 あくまでゲームを盛り上げるための嫌がらせしかされていないのを知っている私は、シャロットの命を救うために口を動かしていく。


「お嬢様は、カレン様のことを善きライバルとして思っておられました」

「そんなの嘘です」


 ジェフリーの味方をするために、ここでカレンが主人公らしい正義感を振るって立ちはだかった。


「シャロット様は、私のことを陥れようとしてきたではないですか」

「本当に、そうでしょうか。お嬢様は本当に、カレン様を陥れるような汚い行為をされましたか」

「してきました! 入学式から彼女の嫌がらせは始まって……」


 カレンは何を思ったのか、口に自身の指を当てて言葉を止めた。


「入学式では、お嬢様はカレン様に挨拶をしただけのはずですが」

「っ、そう……でしたね」


 ゲーム冒頭の入学式で、主人公のカレンと悪役令嬢のシャロットは出会う。

 そこでシャロットがカレンを否定するような言葉を向けてくるけど、あくまでシャロットは事実を述べただけ。

 この世界では、貴族の血を持つ者しか魔法という特別な力を使うことはできない。 

 そんな事実をカレンに伝えただけに過ぎない。


「ほかにも……ほかにも彼女は……!」


 さっきから、カレンの様子が可笑しい。

 言葉を紡ごうとする勢いは感じられるけど、そこから先、彼女の口は動かない。

 何か考えごとをしているようにも思えるけど、まるでその先を口にすることを恐れているような態度を疑問に思う。


「具体的に教えていただけませんか。どういった罪で、お嬢様は断罪されることになったのでしょうか」


 目を見開いて、カレンは瞬きもできないような状態に陥った。

 そのあとに目をぎゅっと閉じ、その姿はまるで精神的に追い詰められているようにも感じる。


「ジェフリー様、お嬢様のことを考え直してはいただけないでしょうか」


 カレンの身に何が起きているかは分からないけど、私はシャロットを救うために行動を起こしていく。

 でも、私の意図を阻む言葉が、告げられる。


「シャロット様に、酷く苦しめられたのは事実です」


 カレンを味方にして、ジェフリーの説得に応じてもらうのが目的だった。

 でも、その期待は大きく外れ、カレンは涙ながらに悪役令嬢の悪行を物語っていく。


(今度は、シャロットを助けてくれないってこと……?)


 悪役令嬢の非道な行いに耐え続けてきたと言わんばかりに、カレンの目から涙が溢れ出す。

 その涙が頬を伝ったことに気づいたジェフリーは、恋人であるカレン優しく抱き寄せる。


「話を聞いてくださり、ありがとうございました」


 学園の生徒たちから信頼の高い二人を説得して、学園中に広がる悪意を排除するという計画だった。

 でも、仲睦まじい様子で二人の世界を作り上げていく様子を見て、これ以上、二人を説得するのは難しいと踏んだ。


(シャロットが断罪されるまで、時間がない)


 私はカレンとジェフリーに深々と頭を下げて、早々と大図書館から撤退した。


(次の手だって、もう考えてある)


 次も、また死に戻ることができると保障してくれる人は現れない。

 これが最後の死に戻りになるかもしれないなら、私は必ずシャロットを救いたい。


(カレンの次に、学園からの信頼を得ているのは……)


 深呼吸をして、目的の扉の前で立ち止まる。

 扉を叩くのさえ躊躇してしまうのは、この部屋の中に待っているのが初めて会うキャラクターだから。

 敵になるか、味方になってくれるか分からないキャラクターを前に、心臓が可笑しな動き方をしていく。


「ミリアーナ生徒会長は、いらっしゃいますか」


 勇気を振り絞って、扉を叩く。


「どうぞ」


 部屋の中から落ち着いた声が聞こえ、私は扉を開けた。

 広々とした部屋の中には整然と並んだ机や書物があり、部屋の中央には生徒会長のミリアーナが座っている。

 カレンの金色の髪とはまた違って、白に近いような金色の髪色が特徴的な少女が優雅な笑みを浮かべながら私を出迎えてくれた。


「初めまして。シャロット・レトナークの侍女を勤めております、アリナと申します」


 ゲームの中でのミリアーナは、カレンの親友ポジションとして主人公の学園生活を支えてくれる。

 生徒会長の彼女には友情エンドが存在して、カレンとミリアーナは深い友情で結ばれるという展開も迎えることができる。


「主の元に行かなくても宜しいのですか」

「ミリアーナ会長に、お願いがあって参りました」

「私にですか?」


 ミリアーナは平民出身の侍女に対しても、丁寧な言葉で話しかけてくれた。

 ゲームのときと同じ優しさを手渡され、彼女が味方になってくれることを信じたい気持ちが強くなっていく。

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