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第3話 アメジストのお兄様

「『ついに判明! 銀のフィロメラと婚約者破綻の理由。明らかになる禁断の関係』ねえ……」

「お兄様。そんな下品な見出し、音読しないで下さい」

「これは失礼。でもなかなか興味深いよ。お前も読んでみたら?」


 エドガーが私を避け始めてから1か月、私とエドガーに関する噂の炎は鎮火するどころか燃え盛るばかり。それもこれも、すべてこの薔薇の手記(ローズ・レター)がしつこく私に関する記事を載せ続けているからだ。


 お陰で舞台に立つ機会も徐々に減り始めてしまい、今日はずっと屋敷の私室にこもっていた。そんな私をからかいに、ユリウスお兄様は件の薔薇の手記(ローズ・レター)を手に私を訪ねてきていた。


「既に目は通しています。確かなことなど何も書いていないのにそれらしい言い回しで根も葉もないことを書き散らして……書き手の品性を疑います」

「おや、これは手厳しい」


 苛立ちのままに吐き捨てる私を、お兄様はおかしそうに眺めている。


「それにしてもエドガーはお前を避けるばかりで、話をしようともしないなんてね。そんな軟弱な男との婚約など、やめてしまえばいいのに」

「そんなこと言わないで下さい。……エドガーは私の歌を信じて、私の歌を広めるためにずっと支えてくれていました。これからも私が歌い続けるのなら、エドガーは最も都合のいい……理想の婚約者なんです」

「理想の婚約者ね……」


 お兄様のアメジストのような瞳がすっと細められ、一瞬で真剣な顔つきに変わる。しばしの沈黙の後、彼はふっと意地悪な微笑みを浮かべて続けた。


「今はその彼のせいで、歌う機会も減っているようだけど」

「それは……」


 私が言い返せないでいると、お兄様は手にしていた薔薇の手記(ローズ・レター)をぱたりと閉じ、傍のローテーブルに放り投げる。


「お前はエドガーとまだ婚約関係でいたいようだけど、どうやら相手は違うらしい」

「どういうことです?」

「ついに婚約破棄の申し入れが来た」


『婚約破棄』──その言葉を聞いた瞬間、心臓がひとつ大きく跳ねた。ついに……この時が来てしまった。

 恐れていた事態に直面して身を固くする私を労るように、お兄様は私の肩に触れた。


「どうする? 婚約破棄を承諾するか、それとも……」

「エドガーと直接会って、話をしたいです」


 お兄様の問いを最後まで待たず、私は言った。そう言うと思った、とばかりにお兄様は口元だけで小さく笑う。


「わかった。それでは話ができるよう取り計らおう。その場には私もついて行く、いいね?」


 決意を込めてひとつ頷くと、お兄様は立ち上がり、私の額にキスをしてから部屋を出て行った。まったく、いつまで経っても子供扱いが直らなくて困る。


(こんなことだから薔薇の手記(ローズ・レター)にも兄妹仲が怪しいと書かれてしまうのね……反省しないと)




 そして翌日。

 ようやくエドガーと話ができる。そう信じて、ヴァレンシュタイン公爵家の応接間に足を踏み入れた。


 ……だが、そこにいたのはエドガーではなかった。


「ジークフリート・ヴァレンシュタインだ」


 低く響くその声に、私は思わず息を呑んだ。

 応接室で私を迎えたのは──エドガーの兄だった。

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