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不思議な森の、不思議な住人~新住人のなくしもの~

作者: 聖華

この小説には様々な伝説上の生き物が登場します。

中には元の伝承の記述とは容姿が少し違う生き物も居ますので、許せない方は「戻る」を押すことをおすすめします。


それでは、どうぞ不思議な話をお楽しみ下さい。それでは、どうぞ不思議な話をお楽しみ下さい。

とある世界の、とある場所には、とても不思議な森があることを、あなたは知っているでしょうか?


不思議な森は、森自体も不思議なのですが、住人たちも同じくらい不思議でした。

その森の住人は――とある世界では伝説上の生き物とされているものだったのです。


そんなところがあっても皆、喧嘩しているのではないか、それに食べ物はどうするんだ。そう思う人も居るでしょう。

でも、大丈夫。不思議の森ではドラゴンもグリフォンも皆仲良しですし、食べ物だって要らないのです。



そんな不思議だらけの場所で起こった、不思議な話。

ちょっと、聞いていきませんか?


----------------------------------------------------------------------------------


不思議な森には、春と夏と秋と冬がいつでもありました。

場所ごとに季節が違い、その上にいつもその季節だとは限らないのです。


三匹はその中でも季節が『夏』の夏の森によく集まっています。

夏の森は青々とした草木が生い茂る森です。今も爽やかな風が、間をすーっと駆け抜けていきました。

もちろん、森の中でもじめじめした空気な場所もありますが、少なくともこの場所はそんな場所だったのです。


ちなみにさっきから言っている三匹と言うのは――


「ねぇ、ユニコーン君」

「なに……?」

「今日はグリフォン君が遅いんだよね? ボクが早いんじゃなくて」

「そうだよ……」


ドラゴンとグリフォンとユニコーンのことでした。

この三匹はとても仲がよく、住んでる場所も近いので、一緒にいることが多いのです。


でも、今ここに居るのは緑の鱗に白い角のドラゴンと、白い体に一本角のユニコーンだけ。

どうやら、グリフォンは遅刻(と、言っても時間を決めてる訳ではありません。でも、三匹にはなんとなく分かるのです)しているようでした。


「おーい! ドラ君、ユニ君!」


ふと、二匹の真上からお馴染の声が聞こえてきました。

もちろん、この声が誰の声なのか二匹は知っています。早速、空を見上げてみました。

遠くの方から鳥ではない大きなものが飛んできます。上半身はたしかに鳥なのですが、下半身はライオンなのです。


「こんにちは、グリフォン君」

「遅かったね……」


二匹は口々に言いました。分かったと思いますが、ユニコーンは無愛想なのではなくて、単に無口なだけなのです。

グリフォンは上空でぐるぐる回ってから、二匹の前に降りました。それから、ばつが悪そうに前足で顔をかきます。


「ごめん、ちょっとイトコのヒポクリフから凄いことを聞いてさ。それを最後まで聞いてたら、遅くなっちゃって。ついでに帰り道の途中まで見送ってたから、全力で飛んでも間に合わなかったんだ」

「別に気にしないで。ヒポクリフ君とはあまり会わないんだから、会った時はうーんと楽しんだ方がいいよ。ボクたちだって、そんなに待ってないし」

「ドラに同意……」


ちなみにヒポクリフはグリフォンの家から離れた場所――と、言っても森の中なので、会いに行こうと思えばいけます――に住んでいて、昨日は久々にグリフォンの家に泊まりにきていたのです。

二匹はそのことを知っていたので、グリフォンを咎めたりはしなかったのでした。

それに、ドラゴンはもっと別のことが気になるようです。


「それより、ヒポクリフ君からは何を聞いたの? 美味しい果物の場所?」

「果物の場所じゃないけど、とにかくすごいことだぜ。実はさ……森に新しい住人が来たらしいんだよ!」


グリフォンの羽を逆立っていて、どことなく得意げでした。

不思議な森の住人は、いつのまにか住んでいたりすることが多い上、森自体がとても大きいので、なかなかすぐに会うことが出来ないのです。

ただし、フェニックスだけは全ての住人と最初に会っている、ということは皆が知っていることでした。


「うん、たしかにすごいね! 新しい住人かぁ、どんな人なんだろう?」

「ドラ君も気になるだろ? だからさ、今日はその住人に挨拶に行こうと思ってるんだ。挨拶にはしておいた方がいいし、新住人がどんな人かも見れるし、まさに一石二鳥だ」

「いいね。そうしようよ! ちょうど、何をするかも決めてなかったしね」


そんな風に話していた二匹は、ほとんど同時にユニコーンを見ました。

ユニコーンが新住人と今からのことに対して、あまり発言をしていないからです。

二匹ともユニコーンが無口なことを知ってはいましたが、やはり心配になったのでした。

すると、視線に気付いたユニコーンは


「たしかに行ってみるのも悪くないかもね……。グリの言うとおり、挨拶も大事だし……」

「よし、じゃあ行こうぜ! ユニ君は前みたいにドラ君に乗せてもらえばいいし」


グリフォンは楽しくて仕方ないという感じで、翼をバタバタ動かします。

ドラゴンも嬉しそうに尻尾をゆっくり振っていました。

ユニコーンは無表情のままでしたが、心の中では住人について考えているのでしょう。

さっき、会話に入らなかったのも、そのせいかもしれません。



三匹はこうして、新住人のところへ向かったのでした。


----------------------------------------------------------------------------------


三匹がやって来たのは、夏の森と春の森の境のような場所でした。

ような、というのは季節の変わり目はいつも違うので、春の時も夏の時も、それから中間の時もあるからです。

そこは岩が重なって山のようになってるところでした。といっても、ただの岩山ではありません。

ふもとには湖が何個かあって、それぞれを結ぶように川が流れているのです。

高いところにある岩の隙間から出る水や、器の形の岩から溢れた水などで、大小様々な滝も出来ています。

あと、これは近くの住人を除いてほとんど知られていないことなのですが、岩山の中は大きな洞窟になっていて、そこが一番おおきな湖になっているのでした。


「多分、どこかの湖に居ると思うけど……あっ、あそこに誰か居るぞ!」


グリフォンは一番遠くにある湖を見て言います。

目がいいドラゴンとユニコーンでもあまりよく見えないほど遠くでしたが、グリフォンの目は二匹よりよく見えるのです。

さっそく、その湖の近くまで飛んでいきました。


空から見ると透き通った水の奥は、まるで宝石をちりばめたみたいに光り輝いています。

いや、みたいではなく、まさにその通りの状態でした。


実は不思議な森には宝石魚と言う宝石で出来た魚がいて、ここにもたくさん住んでいるのです。

中には一種類ではなく様々な宝石で出来た魚もいて、宝石魚が群れを作る様はとても美しいものでした。

これも宝石蝶と同じくイタズラ好きの住人以外は捕まえません。

でも宝石魚は宝石蝶よりも負けん気が強いので、捕まえたらその硬い宝石の尻尾で思い切り叩かれてしまいます。



少しすると、ドラゴンにもすぐに誰が居るのかが見えるようになりました。


「あっ、マーメイドちゃんとシーホース君が居るね。もう一人は誰だろう?」

「おれも知らないから、きっと新住人だな。おーい!」


大きな声でグリフォンが声をかけると、湖に浮かんだ岩に座っていたマーメイドが手を振ってくれました。

上半身は人間、下半身は魚のマーメイドは陸地に上がっても平気なのです。

と言っても、もちろん歩けはしませんので、水の中で生活しています。


グリフォンは近くに浮かんでいた岩に、簡単に着地しました。

あとからドラゴンも続いたのですが、ドラゴンはグリフォンよりも大きいので少し大変です。

それでも何とか、岩の上に乗れました。あと少し岩の大きさが足りなかったら、水の中に落ちてしまっていたでしょうけど。


「今日はよい天気ですわね。その様子ですと、アナタたちも新しい住人に会いに来たのかしら?」

「うん、そうだよ。ということは、二人も?」

「……………………」


馬の体に魚の尻尾、それから背びれがあるシーホースは、ゆっくり頷きました。

シーホースはユニコーンよりも無口なのです。


「しかし、わざわざ我輩に会いに来て下さる方が他にも居るとは思いませんでしたな。ちなみに我輩の名はマーライオン、以後よろしく頼みます」

「おれはグリフォン」

「ボクはドラゴンだよ」

「ユニコーン……」


三匹はそれぞれ自己紹介をしました。ここにも三匹の個性が現れています。

ちなみにマーライオンは上半身はライオンで下半身は魚という姿をしていました。


「そう言えば、さっきまで三人で何か話してたみたいだけど、何かあったのか?」

「実は我輩の大切にしていた槍が、先程から見当たらんのです」

「ワタシたちで探せる範囲は探してみましたけど、全然見つかりませんの」

「……………………」


シーホースはまた無言で頷いています。皆が困っているのは、すぐに分かりました。

今まで黙ってたユニコーンも、こんなことを口にします。


「誰かに拾われて、違うところにある可能性が高いね……」

「うーん……そうだ! ボクたちで槍が届いていそうな場所に行ってみようよ。拾ったら、まずは持ち主を探すでしょ?」

「おっ、それいいな。新しい住人に会った後、なにをするかは考えてなかったし」


ドラゴンの提案にグリフォンとユニコーンは納得したようでした。

でも、マーライオンはどうもそうじゃないようです。


「しかし、我輩はまだ主らとそんなに親しいわけでもないし、そこまで迷惑をかけるわけには――」

「なに言ってるんだよ。森の住人になったところで、みんな友達さ」

「グリフォン君の言うとおりだよ」

「同じく……」


三匹が口々に言います。

すると、どうやらマーメイドとシーホースも三匹と同じ意見のようで。


「ワタシもここは任せた方がいいと思いますわ。ワタシたちでは森の奥の方までは探しにいけませんし」

「……………………」

「うぬ……。まぁ、そこまで言われて断るのも失礼だし、ここは一つ主らに槍の探索を任せよう」


皆の説得に、さすがのマーライオンも折れたようでした。

渋々といった感じではありますが、それだけマーライオンが義理堅いということなのでしょう。


「槍の特徴は……?」

「銀色で、先が三つに分かれておるな。装飾がないのも特徴に入るか」

「よーし。じゃあ、さっそく行こうぜ!」


グリフォンは張り切った様子です。多分、ちょっとした宝探しみたいに思ったのでしょう。

三匹はマーライオンの槍を探しに、飛び立っていきました。



さて、誰も気付いてはないのですが、実は槍はこの近くにあったのでした。

こっそり湖を覗く二つの目は、そーっと森の中に消えていきます。

地面に山羊の足跡を残して。


----------------------------------------------------------------------------------


そこはちょうど四つの季節の境界線のような、季節の入れ替わりが激しいところでした。

今は秋のようで、辺りは赤や黄色の葉っぱの落ち着いた雰囲気でいっぱいです。

もう分かった人も居ると思いますが、ここはエルフとハーフエルフの家がある場所でもあります。

槍を使う住人は森の中でも限られていますから、まずはこの二人を当たってみようと思ったのでした。


「やはり、お前たちだったか。今日は何の用なんだ?」


三匹が降りると、家の中から銀の髪に尖った耳をしたエルフが出てきました。

エルフは耳がいいので、着地する音で誰が来たのか分かったのでしょう。


「実は新住人のマーライオン君の槍がどこかに行っちゃったんだ」

「で、住んでる岩山の湖の近くにないんなら、誰かに届けられてるかも知れないってことになったんだよな」

「だから、届けられてないか聞きに来た……」

「そうか。残念だが、俺のところには届いてないな」


話を一通り聞くとエルフはすぐに言います。

新住人のことについて詳しく聞いたりしないので、一見他の住人に無関心なように見えますが、そうではないことは三匹がよく知っていました。


「じゃあ、次は誰に聞きに行く?」

「ケンタウロス君とかかな?」

「あいつのところには多分届いてないな。フェニックスの代わりに森の中を走り回ってるだろうし」

「えっ!? フェニックスさん、今は森に居ないの?」


エルフの言葉にドラゴンはとても驚いたようでした。

フェニックスは森で一番の物知りで、同時に森で一番頼られているのです。

なので、森に居ないというのはとても珍しいことに違いありませんでした。


「昔の友達に会いに行ってる……らしいね……」

「あぁ。なるべく早く帰ってくるとは言っていたが――」


ふと、エルフはそこで口を閉じました。

ドラゴンとグリフォンは不思議そうにエルフを見ます。ユニコーンは無表情です。


「――取り敢えず、お前はそんなところで何をしてるんだ? ホブゴブリン、お前のことだぞ」


どこかの茂みで草が揺れる音が聞こえたと思うと、誰かが走っていく音がしました。

そして、エルフが何か呟くと、今度は誰かが暴れているような音になります。


しばらくして、森の中に入って行ったエルフが帰ってくると、腕にはホブゴブリンがふてくされた顔で抱えられていました。

ホブゴブリンというのは上半身は人間の子供なのですが、下半身は山羊で頭にも山羊の角が生えています。

さらには、この森で一番のイタズラ好きでもありました。


「ちぇ、別に木の根っこでグルグル巻きにしなくったっていいじゃないか。ちょっと、話を盗み聞きしてただけだろ?」

「じゃあ、なんでエルフ君が声をかけた時、急いで逃げようとしたの?」

「それは――色々だよ、色々!」


そう言いながらも、隙を見てはホブゴブリンは逃げ出そうとしていますが、エルフは華奢なわりに力が強いので無理でした。

ちなみに木の根っこと言うのは、エルフは魔法で自然のものに助けて協力してもらうことが出来るので、きっとそれで身動きが出来ないようにされたということなのでしょう。

仕方ないので、エルフはこんな嘘をついてみることにしました。


「なら、さっき森に行った時に見かけた、岩山の湖の辺りからあの茂みまで続く山羊みたいな足跡も関係ないんだな?」

「ふっふーん、そんな嘘言ったって駄目だぜ。途中で川を渡ったんだから――」

「認めたね……」

「しまっ! き、きたねぇぞ! 嘘つくなんて!」

「お互いに嘘をついたわけだし、おあいこってやつだな」


ついつい口を滑らせてしまったホブゴブリンは、グリフォンの言葉に思わず黙ってしまいました。

そう言われて、どんな風に言い訳をするかすぐに思いつかなかったのです。


「全く。いくらイタズラとは言え、やっていいことと悪いことがあるんだぞ? それで、槍はどこに隠したんだ」

「……虫食い山だよ。とにかく、一旦離してくれよ! 一緒に槍を取りに行くからさ! 本当だ!」

「うーん、一回離してあげたら? 確かにキツそうだし」


真剣そうに言うホブゴブリンを見て、ドラゴンは言います。

エルフは考えているようでしたが、最終的にホブゴブリンを地面に下ろしました。


「ただし、相手にちゃんと謝るんだぞ? それが説教を免除する条件だ」

「分かってるって。オレだって謝る時は潔いもんさ」


ホブゴブリンはグリフォンの背中に文字とおり跳び乗ります。

見た目通りホブゴブリンはとても身軽で、だからこそイタズラしてもなかなか捕まらないのでした。


三匹は今度はホブゴブリンと共に、虫食い山を目指しました。


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虫食い山というのは夏の森にある山のことです。

辺りは一面木が生えていて絨毯のようになっているのですが、山頂にだけ木が生えていないので虫食いの痕に見えるのでした。

そして、虫食い穴にはきらりと光る何かが刺さっているではありませんか。


「あれがマー君が言ってた槍だな。ちゃんと先が三つに分かれてるし」

「今日はスフィンクスちゃん居ないのかな?」

「さぁね……」


実はこの山にはスフィンクスが住んでいて、近くを通る人にナゾナゾを出して、正解しないと通してくれないのです。

といっても、ナゾナゾの難しさなどを褒めれば間違いなく通してくれるのですが。

もちろん、間違った住人を食べるなんてことはしません。スフィンクスはナゾナゾが出すのが好きなだけなのですから。


さっそく、虫食い穴に着地します。空から見たより穴は大きかったので、ドラゴンも楽々降りることが出来ました。

ドラゴンの背中から降りたユニコーンは槍を銜えると引っ張りました。あまり深く刺さってなかったのでしょう、槍は簡単に抜けました。


「これで、あとはマー君のところに槍を届けるだけだな」

「そうだね。……あれ? ホブゴブリン君はどこに?」

「えっ? さっきまではおれの背中に――って、あそこだ!」


見ると、ホブゴブリンが木の生えてる方にそーっと逃げようとしてるのが見えました。

もちろん、気付かれたと分かるとすぐに走って行ってしまいます。


「……………………」


槍を銜えたまま、ユニコーンが追いかけようがした、その時でした。


「待ちなさい!」


そんな声と共に、誰かが翼を広げてユニコーンの前に立ち塞がりました。

上半身は人間の女性で、下半身はライオン、さらに鳥の翼が生えています。


「ここは私の縄張りよ! ここから先に行きたいなら、私が出す謎に答え――」

「スフィンクスちゃん、今日は出て来るの遅かったね」

「というか、こんなタイミングで出て来るとは思わなかったぜ」

「……………………」


気合の入ったスフィンクスの言葉を遮りながら、三匹はそれぞれ言いました。

ユニコーンは槍を銜えているので声は出せませんが、出せていたら何かした言っていたでしょう。

もちろん、こんなことをされて黙ってるスフィンクスではありません。


「なんで毎回そこで遮るのよっ! 出て来るのが遅かったのは、他にも謎を出す相手が居たからよ。私がわざわざタイミングを図るはずがないでしょ!」

「それで、今日の謎はなんなんだ? おれたちは早く行かないといけないんだけど」

「今日はやけに潔いじゃない。でも、そう簡単に解けるかしらね?」


急かすグリフォンに、スフィンクスは胸を張って答えます。

どうやら、今回のナゾナゾには自信があるようです。

いつものように、おもむろに咳払いを一つするとスフィンクスはナゾナゾを出しました。


「じゃあ、問題。『どんなに大勢で引っ張っても動かせないのに、一人でも動かすことが出来るものはなに?』」

「たしかに今回は難しいなぁ。だって、大勢では動かせないのに、一人では動かせれるんでしょ?」

「でも、そういう考え方じゃ解けない問題かも知れないぜ? 分からないけど」


ドラゴンとグリフォンはとても悩んでいます。

すると、ユニコーンは一人、自分の影を槍で突き始めたではありませんか。

最初はドラゴンもグリフォンもスフィンクスも、どうしてそんなことをしているのか分かりませんでした。

でも、急にドラゴンが閃いたように尻尾を振りました。


「そっか! 答えは影だよ。影は引っ張っても動かないけど、その影を持ってる人なら一人でも動かせるから」

「せ、正解よ……今日こそ、私から答えを言えると思ったのに……! 次はもっと難しい謎を用意するんからね! 覚悟しなさいよ!」


スフィンクスはそう言い残すと、逃げるように飛んで行ってしまいました。

残された三匹は困り顔です。今から追いかけても、足が速いホブゴブリンには追い付けないでしょうから。


「まずは、マーライオン君に槍を返しに行こっか」

「そうだな。ホブ君はあとで探してもいいし」

「……………………」


ユニコーンも槍を銜えたまま頷きます。

話が纏まったところで三匹は、あの岩山の湖に戻ることにしました。


----------------------------------------------------------------------------------


三匹が最初と同じ湖に降り立つと、物音を聞きつけたマーライオンが水面に顔を出しました。

一応のことを考えて、あの後も湖の底を探していたのでしょう。

マーライオンはユニコーンが銜えている槍を見ると、さっそく近くまで泳いでいきます。


「これがマー君の槍で間違いないか?」

「はい。いやぁ、見つかって本当によかった! もうなんと感謝の言葉を述べたらいいものか……!」

「別にいいよ。だって、友達なんだからね」


槍を手に深々とお辞儀をするマーライオンに、ドラゴンは言いました。


「そう言えば、この槍は一体どこにあったのですか?」

「えーっと、それが――」


グリフォンがどう言えばいいか悩んでいると、後ろの方から物音が聞こえてくるではありませんか。

もしかしてホブゴブリンが謝りに来たんじゃないか、そう思って三匹が振り向くと、茂みから誰かが出てきました。

それはホブゴブリンでした。……と言っても、最初に捕まった時と同じようにエルフに抱えられてですが。


「失敬ながら、どちら様ですかな?」

「俺はエルフだ。今日はこいつを連れてくるために来た」

「もう少しで逃げ切れたのに……!」

「お前は反省することを覚えないか! 全く、虫食い山と聞いて怪しいと思ったら……」


エルフはやれやれ、といった感じでした。

スフィンクスが言っていた『他の謎を出す相手』とは、どうやらエルフのことだったようですね。

どうやら、二人の会話でマーライオンも大体のことが分かったようです。


「もしや、抱えられてる主が我輩の槍を?」

「うん。でも、ホブゴブリン君もイタズラのつもりらしいんだよ。だから、その……」


ドラゴンは慌てて言います。槍はマーライオンが大切にしていたものですから、こっ酷く怒られてしまうのではないかと思ったのでした。

すると、マーライオンもそれが分かったのでしょう。


「いや、我輩も子供のイタズラにそこまで怒るつもりはないのだが……なにか理由があるのではないか?」

「「理由?」」

「たしかにいつもより性質たちが悪いような気もしないではないがな。どうなんだ、ホブゴブリン?」


エルフはホブゴブリンに問い掛けました。というのも、ホブゴブリンのいつものイタズラはもっと小さなもので、住人の大切なものを盗ったりなどはしないのです。

ホブゴブリンはしばらく黙っていました。それから、少し恥ずかしそうに話し始めます。


「実は今日たまたま散歩してたら、マーライオンを見つけて……しばらく見てたら、まだ誰にも会ってないみたいで……ほら、いつもはフェニックスさんが最初に会うことになってるだろ? だからオレ、嬉しくて……すぐに声かけてもよかったんだけど、ちょっとイタズラしたくなったんだよ。それで、ちょうど槍があったから持っといて、探しに来たところを驚かせようと思ったんだけど……」

「そこに二人が来て……出て行きにくくなった……?」


ユニコーンの言葉に、ホブゴブリンは頷きました。


「なるほど。完全に隠すのが目的なはずのに、わざわざ俺の家の近くで盗み聞きをしてたのはそういうことか」

「たしかにそのまま逃げてた方が、イタズラにはなるもんな」


そんな言葉を聞いて、ホブゴブリンは照れくさそうに俯きます。

きっと、山頂で逃げ出したのも恥ずかしかったのが理由なのでしょう。

マーライオンは腕を組むと、こう言いました。


「まぁ、事情が事情だし怒りはせんよ。ただし、一つ条件がある」

「条件って? これからはイタズラするな、とか?」

「いや、我輩にはそんなことを強要することは出来んよ。条件というのは――その、この件で主は気まずい思いをしてるだろうが、これからもここに来て構わんぞ。先程も言ったが、我輩も別に怒ってるわけではないのだからな」

「それは条件じゃない……」

「おっと、我輩としたことが」


今度は逆にマーライオンが照れる番でした。

すると、俯いてたホブゴブリンはイタズラっぽく笑います。


「仕方ねぇな。けど、その条件ならいいよ。エルフに説教されるよりはいいや」

「誰が、いつ、説教をやめたと言った?」

「でも、オレちゃんと謝ったぜ!?」

「一回逃げただろ? それで帳消しだ」

「ちょ、なら離せって! 説教がなくなると思ったのに本当のこと言ったのに、こんなのありかよ!」

「お前はまず、余計なことを言わないことを覚えるんだな」


暴れるホブゴブリンをよそに、エルフは森の中に消えていきました。

ホブゴブリンはあんなことを言ってますが、きっと本当はきちんと謝らないといけないと思っていたのでしょう。

本人が言っていた通り、潔いところもあるのですから。


「少し可哀想な気もするが……」

「まぁ、いつものことだしな。それに、エル君も少しは免除してくれるさ」

「そうだね」

「うん……」




こうして、なくしもの騒動は幕を閉じたのでした。

後でマーライオンの歓迎会も行われたのですが、これはまた別のお話――。


----------------------------------------------------------------------------------


これで、不思議な話はおしまいです。

全然、不思議な話じゃない。そう思う人も居るでしょう。

でも、よく思い出して下さい。


この話に出て来たのは、全員、伝説上の生き物なのですよ?

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