告白
「あのさ、良かったら今日皆さんで温泉に行かない?」
『温泉?』
「行く」
魔物狩りが終わり、カフェで休憩している時、ハナがある提案をした。温泉という言葉にほとんどの人が?を浮かべたが、温泉が大好きなアーナは即OKした。温泉好きの吸血鬼…聞いたことがない。
「でもどうして?」
「私の家の母方の方の領地が温泉街なの。夏季休暇に入って家族総出で行くことが多いけど、私は魔物狩りもあったし今年は行かないつもりだったの。でも、みんな疲れているだろうからいいかなって思って」
「ハナ、ナイスアイデア(よ!)」
サムズアップをするリリアーナとアーナ。カルマも2人を見て苦笑いしているが、頷いている。ナルは、ニコニコしていて、北斗はナルを見ている。他も笑って頷いた。
「じゃあ、馬車を手配するわね」
「あぁ。それは大丈夫」
ハナが馬車を手配すると言った瞬間リリアーナが変な発言をした。知っているもの以外全員が「馬車なくてどう行くつもり?」と思った。
「ちょっと人目につきたくないわね…」
そうリリアーナがいうとみんな「?」が浮かぶ。
「悪いなリリアーナが迷惑かけて。みんなカフェを出よう。」
カルマがすごく申し訳なさそうな顔をしながらみんなを誘導する。またもや北斗がカルマの背中をさする。絶対に立場が逆になっている。
『ゲート』
『!?』
リリアーナがゲートの魔法を路地裏で使った瞬間ほとんどの者が目を丸くした。
「ナル〜大体でいいから距離と方位教えて〜」
「あ、えっと南に100キロぐらいで東に200キロぐらいかな」
「意外と近いものね」
リリアーナがそういうと収納箱から羅針盤をだし、距離の先をイメージする。
「うん、出来たわ。みんな通っていいわよ。北斗最後に締めて〜」
「はいよ」
ここにゲートを使えるのはリリアーナとアーナそして北斗だ。アーナはもうワクワクして仕方ないのかリリアーナをずっと見ているので北斗が最適だったのだ。実はカルマも練習をしていてもうすぐできるようになるのだがそれを知っているのはリリアーナだけだ。
「本当にここハナのお母様の領地…」
「あなた方は?」
「ハナ•クルトです」
「何か指し示すものは?」
「だったらこれを」
ハナが持っていたギルドカードを差し出した。門番のものはすぐにリリアーナ達を通した。結構有名な騎士だったらしく、カルマとハルキを見て青ざめていたが。
「今日、泊まります?」
「私泊まる」
「アーナ、あなたねぇ〜」
一応国のトップしか知らない伝説の吸血鬼だ。その吸血鬼が貴族といえど許可もなく泊まるって…絶対にない。だが、のんびり性格のアーナは実は頑固者なので仕方なくリリアーナが通信機で連絡をキーナにとる。
「カルマ、ちょっと私の前来て」
「おう」
カルマは気づいたようだ。そしてリリアーナに背中を見せながら他のものに見えないようにする。
「アーナ、いいって。半ば諦めが入ってたけど」
「分かった。お姉様は?」
「私も今日は泊まるつもりよ。北斗もOKだってさ」
「じゃあ泊まろっかな。久しぶりの温泉だし。魔力のストックが少ないんだ」
「俺は温泉入ったら帰らないとだな…」
「あら?カルマも残っていいらしいわよ?」
「え!いいのか!」
なぜか嬉しそうなカルマ。前世で旅好きで特に温泉旅行が好きだったことから知るべし。
「うん。ほとんどアンナ帝国はアークレト王国に支援されてる身だし…アークレト王国がOKを出せばOKをつきとうさないとね」
「なるほど…俺は最近国の中を担当してたからな…」
カルマも召喚者達の指導員をやりながらリリアーナの一件で結構なことになっている帝国をなんとかしているのだ。リリアーナは帰るのが遅いことも結構精神的に来ていることを知っているので、最近は王城にも行かずカルマの残業的なものを手伝っていたりもする。
「リリも泊まるし俺も世話になるか」
「だったら私も泊まるとするか」
アークレト王国の王太子に伝説の吸血鬼、そしてアンナ帝国の皇太子に皇太子妃…恐ろしいにも程がある。
「じゃあ、こっちに案内するわね!」
ハナは嬉しいのだろう。大学で出会った新しい友人と泊まれることが。そしてリリアーナ達はハナについて行った
「うわぁ、とっても綺麗!」
リリアーナがつい口に出したいほどとても綺麗だったのだ。
「え?ハナ様!?それに殿下まで!」
「大丈夫だ。今日はクルトに誘われてきただけだ。そんなに畏まらないでくれ」
(いや、おどろきはするから)
リリアーナはそう思ったが、別に口にはしなかった。
「あれ?もしやあなたはホクト様でしょうか?」
「え、あ、はい。そうですが」
「やはり、ナル様とお似合いですね」
「「はぁ!?」」
使用人の方がそういうとほとんどのものが驚いた。恐らくハナが話でもしたのだろう。幼馴染のナルは絶対にここにも遊びに来ているだろうから。ナルとホクトは口をパクパクしているが、ほとんどのものは気づいていたのでニヤニヤしている。特にハルキ、リリアーナ、カルマは。
「いえ!私達はまだ!」「いや、俺達はまだそういう関係じゃ!」
『まだ?』
「「あ…」」
つい出てしまった言葉を揶揄われ、顔を真っ赤にする2人。そこにリリアーナが北斗に小声で言う。
「そろそろ、ちゃんと気持ちを伝えなさい。そうしないと絶対に取られるわよ?」
「いや、まだ、そんな…」
「アホか!早よしろ!今日がチャンスかもしれないんだぞ!甥っ子がもじもじして失恋するとかガチで見れないからな」
そこにカルマも加わり、うじうじしている北斗に怒り気味で説得する。
「甥っ子の恋愛事情に首を突っ込むのはどうかと思うけどな」
北斗は溜息をした。だが、リリアーナ達が言っているのは嘘ではない、事実だ。容姿や性格がいいナルは告白されているだろう。北斗は決意した。少し赤くなりながら真剣な表情になって。
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女子風呂にて…
「それにしてもリリってスタイルいいし、顔もいいってどういうことよ!リリが世間に出てたら絶対にモテてたわよ」
「どうすればそんなにスタイルが良くなるの!?」
「えぇ〜、そう言われても…まぁ、運動は適度にしていたかな」
地獄の剣修行をされたり、魔法を自分で作るためには運動、つまり体力がないと絶対にできないのだ。
「そうすればそんなスタイルになるの?」
ニーヒの目線というかほとんどの者の視線が一点集中する。リリアーナは気付きすぐに手で隠す。
「どこ見てんのよ!エッチ!」
「エロいのはどっちだ!」
ニーヒが反抗する。
「エロくなんてないわよ…」
「でも、そういえば初めて会った時よりも今のリリアーナさん大人っぽくなりましたよね?」
「あ〜確かに…」
気づくのが早い乙女達。
「お姉様は大人の階段を登った」
「ちょっ、アーナ!」
『………』
「詳しく説明しなさ〜い!!!」
ニーヒが怒った。ほとんどが真っ赤かになっているが、羨ましそうに見るのが数名…そしてリリアーナが上がった時、物凄く疲れた様子だった。
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一方男子風呂は…
「カルマ…大丈夫か?」
「あぁ、俺は大丈夫だ」
「全くアーナは…」
実は男子風呂と女子風呂は壁の向こうなので結構声が聞こえやすいのだ。なのでリリアーナの話は筒抜けだった。カルマは顔が真っ赤になったと思いきや、お風呂の外で三角座りしてしまった。貝になりたいとでもいっているようだった。
「ちょっとこれは流石に可哀想だよ殿下が。」
実はもう、カルマが皇太子ということがバレてしまったのだ。みんな驚いていたが、リリアーナの婚約者ですごい魔法を使っていたので納得したのだ。
「仕方ないさ、乙女の勘ってやつだよ。すぐに北斗にも殿下にもバレたし。」
「そういえば、お前ちゃんとしろよ。」
「何が?」
「告白、分かってるだろ?」
「あぁ…」
カルマは諦めモードに入り、ハルキは北斗に釘を刺した。
「大丈夫だよ、北斗。舞美と付き合うまで何年かかったことか…」
実は舞美と佑輝、ガチで恋愛下手だったのだ。周りからお前ら付き合ってるだろ?え、まだ付き合ってなかったの!?早よ結婚しろよ、もう熟年夫婦みたいだぞ。なんて何回も言われた。まさか、付き合うまで2年半もかかったとは絶対にみんな思わないだろう。
「そうだったな…」
「舞美はモテてたし、大変だったけど…なんとかなったし早めにしとけ。時間は待ってくれないんだから」
なんかの名言?みたいなことを言ったカルマ。リリアーナがいたら何得意げに名言言ってんのよ。ということだろう。
「ほら、私達も出るぞ。特に殿下、聞いた感じリリが結構疲れてる感じだったから慰めてあげろ」
「了解しました…はぁ、たまにはこっちが慰めた方がいいか…」
カルマはため息をしながらお風呂を出た。
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リリアーナが出てげっそりしてることに(精神的に)気づいたカルマはそっと傍に行った。リリアーナさんもう疲れに疲れてみんながいることも忘れてカルマに抱きついた。それこそ桃色空間の見本だった。そして、夕飯が食べ終わった後、北斗は外に出ていた。
「宇宙が繋がってはいないか…星は綺麗だけど、星座も何もかも違うからな…でも、空気の澄み具合は爺ちゃん家に似てるな…」
北斗は本当に違う世界に来てしまったと溜息をした。今思うとここ半年程度でどれだけの経験をしたのだろうか。北斗はまた溜息をついた。
「ホクトくん?」
「!ナルか…」
ナルだった。2人とも驚きながら少し笑った。
「隣いいですか?」
「どうぞ」
北斗は少しベンチの左側に移動した。そしてナルが座る。
「ホクトくんはどうしてここに?」
「ここの空が綺麗でさ、風呂から見えてたからもう一回見たくて」
「奇遇ですね、私も昔からここが好きなんです。」
少しの沈黙があった。そしてナルが口を開いた。
「私、ホクトくんが助けてくれた時とっても嬉しかったんです。」
「あぁ、初めて出会った時のこと?」
こくりと頷くナル。
「あの時、俺はまだ未熟者だったからリリの援助がなければ助けられなかったかもだけど」
「それでもです。魔法は使えても国の法律で普通の道路では使ってはいけませんから。」
「まぁ、そうだな。俺な、本当は戦闘も魔法も使えない凡人だったんだ。でも俺は色々あって強くなりゃなきゃいけなかった。でもな、自分のためだけだと思ってた戦闘力がナルのために使えて初めて強くなって良かったと思ったんだ。だって、好きな子守れなきゃダメだろ?」
「!」
さらっと、凄いこと言っちゃう北斗。だが、顔は真っ赤かだ。
「へぇ…っと…」
えっとというつもりがへぇっととなっちゃうナル。動揺しているのが丸分かりだ。ナルもりんごのように真っ赤かだ。
「ナル」
「ひゃい!」
また噛んじゃうナル。北斗は苦笑する。
「ナルのことが好きだ。俺の…その彼女になってくれないか?」
「!」
どストレートにいう北斗、そしてナルは涙を流した。流石に驚いた北斗が声をかけようとする。
「私…恋するのが初めてで、よく分からなくて、でも私今ホクト君にちゃんと言葉にしてもらってわかりました。私もホクトくんのことが好きです。私の彼氏になってください」
涙を流しながら笑うナル。北斗は嬉しくって反射的にナルを抱きしめてしまった。
「!ごめん」
「い、いえ…恋人なんです。いいんじゃないでしょうか?」
顔が2人とも真っ赤かだ。それに気づいてまた笑い合う。そんな時なぜか聞き覚えのある声が聞こえた。
「やっとか…」
「告白シーン初めて見たわ」
「あんなイケメンに私も言ってもらいたい!」
「あ、ちょ、押すな!」
「「「うわぁ!!」」」
茂みに隠れていたクラスメイトだった。
「な、な…なんでいるんだ!?」
「いや、こんないいシーン見過ごすわけないだろ」
「正論みたいなこと言うな!というかリリとカルマは?いるんじゃないのか?」
ナルは恥ずかしすぎて北斗の背中にくっついている。
「あ〜、それは…」
ハルキが困った顔で茂みの方を向く。
「ひっく…ぐっす…」
「ほらリリ、早く行ったほうが」
「無理よ〜可愛い甥っ子が告白成功したなんて泣いても無理よ〜!」
そういうことだった。北斗はリリアーナが前世で生きていれば甥っ子にあたるのだ。その告白シーンを見たらまぁ泣きたくなるのも分からなくはない(?)。そしてリリはカルマに抱きついながら泣いている。
「北斗、おめでとう」
「おう…」
なんかむず痒いなと思った北斗。その夜はとても明るかった。
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