呪いの解除とプロポーズ
ここまで読んで下さりありがとうございます。もう少しです。
屋敷に帰ったリリアは家族に集まってもらい、人払いをして重すぎる報告をした。流石に闇魔法のことは言わず、原因不明の病気と言っておいた。
家族に打ち明けると少しだけ心が軽くなったような気がした。
「お姉様がそんな事を考えていらっしゃったなんて驚きました。てっきり想い合う恋人同士だとばかり思っておりましたので、恨みのほうが先に立ちいつも顔も見たくないと思っておりました」
「私達もだよ、もっと話を聞いてやればよかった」
後悔の混じった顔で父が言った。
「でも我が家は家族で何でも話す方だと思います。災害の事が一段落した頃に話される予定だったのではないでしょうか」
「そうかも知れないな、今となっては何とも言えないが
リリエルの気持ちはどうなのだ?」
「お断りはしましたが、お姉様の契約の事とあちらの病気のことを聞かされて困っているのが正直なところですの」
「原因不明の病か、何とか治る方法が見つかると良いのだがな」
「はい、契約金のことはともかく病気を治す方法が見つかるよう、休みの日を使ってから王立図書館に行って調べてみようかと思っております。幸い外国語も古代語も読めますので」
「そうだね、リリエルは無理に結婚はしなくていい。近くに別邸を建てて使用人を雇い入れ、暮らすのもありだと以前から考えていた。お金の心配はしなくていい、お前名義のお金も蓄えてあるから。好きな男ができたらそれはその時だ。幸せになってほしいのだ。私達の近くでな」
「ありがとうございます、お父様、お母様、気が楽になりました」
「結婚は幸せの一つだ、リリエル」
父のような男性と結婚したいと思ったリリエルである。
あれから、ハリスン様から毎日花が届くようになった。カードも添えてある。複雑な気持ちだが花に罪は無いので飾っている。
仕事が休みの日に図書館に通うことにした。侍女と護衛付きである。侍女は子供の時からの専属で男爵家の三女のナナである。二つ年上で口が硬い。一生リリエルお嬢様の元で働きたいと言ってくれている。
呪いの書籍のコーナーは沢山の本があった。国別や、古代語のものまであり、読みがいがあるとリリエルは武者震いがした。
借りては帰れないので、落ち着く場所を探して本を積み上げじっくり読むことにした。
一日があっという間に過ぎてしまう。
時々ハリスンから手紙が届くようになった。近況報告だが。
リリエルも近況報告を返すことにしている。
本の一文に呪った本人が解呪しないと解けないと書かれてあったので、原因の特定は出来たのかぼやかした表現で聞いてみたが、不明だそうだ。
そういえばとリリエルは思い出した。子爵の娘のことだ。酷い男の後妻になったと聞いたが、その後どうしているのだろうか。
父に頼んで調べてもらおうと思った。
結果は、男は相当な年だったそうで、加虐趣味があり妻をいたぶっては悦びを感じるような人物だったそうだが、長年の暴飲暴食がたたってある日突然亡くなったそうだ。
その日から女の姿が消えた。
行方を調べてもらわないといけないとリリエルは思った。恨みが何処へ向いているのかわからないからだ。
父親にも行方探しを頼んだ。
ハリスンにも会って話をしなくてはいけないので連絡を取る事にした。
いつかのレストランの個室を借りてもらった。
手紙のやり取りはしているが会うのは二ヶ月ぶりだった。
仕事の帰りに寄る事にした。
「来てもらって嬉しいよ」
「こちらこそお呼びだてをしてしまいました。お伝えしたい事がありましたの」
と言いながら本で見つけた一文のことを話した。フォワード侯爵令息様は青い顔をして驚いていた。
取り敢えず食事をしながら、今までの事やこれからのことをお話をした。急いで行方を探すと言っていた。
ご自分のことなのにどうして思いつかれないのだろうか、不思議でたまらない。
他にも沢山そういう令嬢がいただろうからそちらもお調べ下さいと言っておいた。
呪いの進行は腕一本になってきたと言われていたので、対策はどうされているのか尋ねると魔術師様に解除を頑張って頂いているとのことだった。
婚約の事を考えて貰えただろうかと言われるので、呪いの原因が分かったらお返事しますと答えた。
余命八ヶ月の人に言う事ではないと思うが毎日が忙しい。
私は仕事の合間に図書館で調べていると言ったら、行っても構わないだろうかと言われるので、どうぞと答えておいた。
一人で調べるより二人の方が早い。私もどうかしている。早くやって貰えば良かった。
侯爵令息様は屋敷で本を読まれていたらしいが、それらしい文章は見つからなかったそうだ。
時々図書館でお会いするようになった。お互い会釈だけで、本を読むことにした。時間が惜しい。
またたくまに二ヶ月が過ぎた。相変わらず元子爵令嬢の行方は掴めない。もう亡くなっているのだろうか。
あと半年の命だから形だけでいいので婚約したいとお願いされた。婚約者との生活がしてみたいと泣きそうな顔で言われた。
侯爵家は貴族らしい家で、温もりとは無縁だったらしい。我が家を知って憧れていたと言われて、断っては後味が悪いと思った。
ずるいこの人、と思ったが女は度胸と覚悟を決めた。それに呪いの解明は諦めたくない。側にいたほうが良いかもしれない。
私も呪われたらいけないので守護魔法を掛けて貰った。
両親に許可を貰い侯爵家から仕事に通うことにした。
侍女のナナに一緒に来てもらった。侯爵家の使用人には自分の我儘で結婚婚約してもらったので丁寧に接するように指導がされていた。
奥様と呼ばれたので、リリエルでいいわと言ったら皆がリリエルお嬢様呼びになった。気が楽だ。
部屋はハリスン様の隣を使うことになった。調度品も落ち着いた感じで、気持ちのいい部屋だった。お風呂やトイレ、机やソファー、広いベッドがあり使い勝手が良かった。本棚があり魔法の本が取り揃えてあった。流石に闇魔法の本は気味が悪いだろうという事で表紙にカバーが掛けられていた。
ハリスン様呼びは侯爵家に来てからである。流石に侯爵令息様というのはないと思ったので、勝手に呼ばせていただいているが、赤くなっておられたのは何故だろう?解せぬ。
侯爵家特権で王立図書館の禁書庫に入ることが出来るようになった。早く教えてよ、ハリスン様。
中は古代語で書かれた魔術書でぎっしり埋もれていた。
闇魔法コーナーがあり、ハリスン様の腕に現れた模様と同じものを見つけることが出来た。
写して帰り、魔術師様に見ていただくことにする。もちろんを前後の言葉も忘れないように書いて帰った。
後三ヶ月しか無い。朝食は一緒に取りなるべく楽しい話をした。夕食も一緒に取るようにした。笑顔を絶やさないようにした。思い出話はしない。
呪いの文様は両腕になったらしい。
禁書庫で見つけた文章は役に立ったのだろうか。返事はまだだ。読めるけれど解除をすることは出来ないから、祈るだけだ。
ハリスン様は顔を合わせる時は平気そうにしていらっしゃるけれど、昼間はかなり辛そうだと執事が教えてくれた。彼も呪いのことは知っている。
ひと月後魔術師のヨハン様がやってこられた。やり方が分かったので試してみたいそうだ。
緊張の瞬間になった。ハリスン様の部屋で行われることになった。ベッドに横になり上半身裸になられたハリスン様の呪いを少しずつ解除していくそうで、侍従が側にいることになった。
結果は成功だった。隣の部屋で待っていた私は気が抜けてソファーに沈み込んでしまった。
呼びに来てくれたナナに抱きついて泣いていた。
ナナが背中を撫でてくれ、ようやく落ち着くことが出来た。
気を取り直し、ハリスン様と魔術師様に会うために隣の部屋に行った。
「良かったです、ハリスン様、そしてありがとうございました。ヨハン様、何と感謝を申し上げて良いのかわかりません」
「良いのですよ、禁書庫であの本の一文を見つけられたリリエル様のお手柄です。おめでとうございます、これで相手に呪いが返ります」
「そうなのですね、良かったです」
「これは後の世まで役に立つ出来事ですよ。大手柄です」
「ありがとうございます、ハリスン様身体の調子は如何ですか?」
「ありがとう、君のおかげだ。呪いが解けたら身体が楽になった。息をするのが楽だ」
「お辛かったのですね、ギリギリ間に合いましたね」
「君には感謝してもしきれない、ありがとう」
「もう少し元気になられたらお祝いをいたしましょう。ヨハン様も如何ですか」
「ありがとうございます。その時は伺いますよ。ではまた。失礼いたします」
「ヨハン様を送って来ますね。少し休まれたらいいですよ」
「そうするよ、後でお茶でもどう?」
「いいですね、ナナに用意させますね」
✠✠✠✠✠
リリアは久しぶりにミリーさんとお茶をしにカフェに来ていた。近頃人気のパンケーキの店のようで、若い女の子で賑わっていた。
「顔色が良くなったわね、婚約者様の病気良くなったのね」
「ええ、治らないかもって言われてたから、本当に良かったです」
「忙しそうだったものね、やっとお茶にも付き合ってもらえるようになったから良いけど。心配してたのよ、頑張り過ぎなんだもの」
「ありがとうございます。ここのパンケーキふわふわですね。クリームも沢山で、シロップかけたら最高です。紅茶も美味しい」
「リリエルさんって美味しそうに食べるわね、見てるだけで楽しいわ」
「そう言ってないで早く食べて下さい。お茶が冷めますよ」
「わかったわ、美味しいものは幸せを呼ぶわね」
「この後何処か行きますか?」
「うちの店に行ってみない?兄が変わった物を仕入れたみたいよ」
「変わったものですか、楽しみですね」
「可愛いものかもしれない、女性のお客様は大切だから」
ミリーさんのお兄さんが世界を制覇すると言っていただけあって、見ているだけでわくわくするようなものが、綺麗にディスプレィされていた。
リリアは父と弟にペンを母には薔薇の香りの香水を包んでもらった。自分用に小さなダイヤの付いたネックレスを買った。仕事中に身に着けていても邪魔にはならない。そういえばアクセサリーを買うのは随分久しぶりだと思った。
そしてハリスン様にもペンを買った。ナナは今日も側にいるので、髪を結ぶリボンをプレゼントすることにした。小さな花が刺繍してある。渡すととても喜んでくれた。
「ミリーさんお買い物楽しいです、気分が上がりました」
「良かった。リリアさん顔色は良くなったけど、表情が何となくだけど沈んでいる気がして。そういう時は女性はお買い物よ」
「そうかもしれませんね、誘って下さってありがとうございます」
「どういたしまして、売上に貢献頂きありがとうございます」
二人は顔を見合わせて笑った。
ミリーさんと別れたあと実家に帰ってみることにした。
久しぶりの我が家は凄く落ち着くことが出来た。両親も弟も在宅していて、リリアを暖かく迎えてくれた。
「おかえり、ハリスン様のご病気が治って良かったわね。どうするの?このままあちらに住むの?この間きちんと挨拶に来られたけど」
「母上、姉上が困っておられますよ、とにかく座りましょう」
「ごめんなさいね、お茶をお願い」
侍女がお茶を持ってきた。
「これは先程母様達に買ってきた物です、開けて見て下さい」
「まあ、素敵な瓶、これは薔薇の香水かしら」
「姉上、このペンは父上とお揃いですか?嬉しいです。父上一緒です」
「ああ、ありがとうリリア、それでどうなのかな考えは決まっているのかな?」
「それが、自分でもよくわからなくて。最初は身近にいて亡くなられるのは嫌だと思っておりましたので、色々原因を調べたり、お薬の様な物を調べたりしておりました。良くなられたので自分の気持が何処にあるのか今、戸惑っております」
「そうか、一度帰って考えても良いのだよ、リリアは大事な娘だ」
「はい、もう少し考えてみます」
「ところで、ハリスン君は呪いがかかっていたのではないのか?
宮殿でリリアが文献を読み解いたのではないかと聞かれたのだよ」
「噂は怖いですね、何処から漏れたのでしょう。その通りです、余命が僅かだからと言われたのは本当のことです。呪いのことも打ち明けられていましたが、お父様達に打ち明けられず申し訳ありませんでした。
亡くなられるのは後味が悪いと思い王立図書館に行き文献を読み漁りました。禁書庫で見つけたのです。古代文字で書かれていました」
「大したものだ、リリアは。我が家の誇りだな」
「そうですね、姉上は僕の自慢です」
「ありがとうございます」
「ハリスン君の呪いの事は公にはなっていない。様子を見よう。
この間は呪い返しを受けたような遺体が海にながれついたらしいと聞いた。また帰ってきなさい」
そうしてリリアは侯爵家に帰ることにした。帰るとハリスン様が玄関でウロウロしながら待っていた。
「君がなかなか帰ってこないから心配になった。何かあったのではないかと思って落ち着かなかったんだ」
「お友達とお茶を飲んで買い物をして実家にも寄って来ましたの。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「良いんだよ、君が楽しかったのなら、無事に帰ってきてくれて嬉しい」
「ここでは何ですから談話室に行きましょうか?」
「そうだね、ごめん」
談話室のソファーに座ってもらうと、お土産のペンを取り出した。
「これを買ってきましたの、どうですか?」
「僕に?ありがとう、君は何か買ったの?」
「はい、プチペンダントを」
「僕がプレゼントしたかったな、今度一緒に出かけてプレゼントさせて。ごめんね、呪いのことで一杯一杯で余裕がなくなってた。どうせ死んでしまうのに形に残るものは迷惑だろうって思っていたんだ」
「大丈夫です、気にしないで下さい。それでお花を贈ってくださっていたんですね。でも婚約が一番形になって残ります」
「ごめんね、年上の余裕が無いね。情けないよ」
「良いんです、死と隣り合わせだったのですから怖かったですよね」
「君は優しい人だね」
「私がですか?」
「君だから呪いも解けた。君だから婚約を申し込んだ。良かったと思っている、心から」
「でも形だけの婚約ですよね?呪いを解いたからそう思われているだけなのではないのですか?」
「これから僕の本気を見せるよ。君にアプローチする。覚悟してね。もう先がないと思ってたから何も言えなかったけど」
「形だけの婚約をと言われました。どうして私なのですか?他にもいらっしゃるんじゃないですか?私は両親のような家庭が憧れなんです」
「君の家族は本当に温かいから僕も憧れだよ。君を一生愛すると誓うよ。浮気なんてしない。女性は怖いと思ってたくらいなんだ」
「考えさせてください、今は形だけでも婚約者ですし、友情はあると思うのですけど」
「今度街へ行こう、どこか行きたい所ある?プレゼントのお返しもさせて欲しい」
「じゃあ今度のお休みの日にでも」
こんなにぐいぐい来る人だったかな?形だけでいいと言って迫られた時も結構迫ってきたかもしれない。お花も毎日送ってきてたし。私この人の何を知ってる?呪いの苦しみを耐えてたところ、お姉様の親友だった?この前まで生きることを諦めていた、それは仕方がないわ。このまま結婚してしまうの?それでいいの?冷静にならなくては。
確かにハリスン様は呪われるくらいのイケメンだけど、長く一緒に暮らすのよ。
大切なのは中身よ。多分呪った犯人にも気づいてない人だわ。お姉様が妬まれていたことにも気づいてなかったのじゃないかしら。結構鈍いわ、貴族社会でやっていけるのかしら。
心配になるリリエルだった。
お読みいただきありがとうございます。誤字報告もありがとうございます。感謝しかありません。
やっと呪いが解けました。ハッピーエンドに向け邁進してまいります。もう少しお付き合い下さい。
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