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事故と婚約の真実

誤字報告ありがとうございます。ヒーローが大人になってきました。いい奴でした。ハッピーエンドはもう少し先になりそうです。

 夜会が終わって二週間した頃だった。フォワード侯爵家から先触れがあり三日後に訪ねたいという。

父が対応することになった。今更何なのだろう、嫌な気持ちしかない。

その日午後から侯爵がやって来た。応接間で話し合いが行われた。私は仕事、弟は剣の練習で出かけていた。お母様は具合が悪いとお部屋に籠られたらしい。


夕食後、私達は応接間に集まった。今日のことを聞くためだ。

侯爵はお姉様の事故は殺人の可能性が強いと言ったそうだ。

誰かが馬車に細工をしたようだと。

事故の後馬車を全て回収してくれたのは、侯爵家だった。

部品が足りなかったので周辺をくまなく探したが見つからなかったという。


ハリスン様の家が学院当時、アーデン伯爵家が復興の援助をしていたのは、社交界では知らない者はいない。昔からの婚約者同士だったことも。

それなのに、侯爵令息を金で買ったという噂が流れていたのだという。

ハリスン様に横恋慕する令嬢の仕業だと分かっていたので、正式に抗議をしたという。



相手方は噂にどういう証拠があるのかとしらばっくれたらしい。

フォワード家はやり方を間違えた。確実に現場を押さえなくてはいけなかったのだ。


私達家族は犯人がわかった訳ではないのかという気持ちと、

噂があったのに黙っていた侯爵家への憤りと、お姉様の辛かった気持ちに感情をかき乱されていた。



「まず、その家を潰しましょう」

お母様が怖いことを言った。


「相手は子爵家、社交界で生きていけないようにしてみせます。

お茶会を開いて噂を広めましょう。どんな女なのか見てやりますわ。それには色々と調べなくてはね。たとえ殺されていなくても噂を流してあの子を苦しめた。万死に値します。貴方調べるのをお願いしてもいいかしら」


私達三人はお母様だけには逆らわないようにしようと思った。


一週間後お父様による調査が出来上がってきた。

コランド子爵家は手広く商売をしていた。

ミリーさんの商会のような一流品を扱うお店ではなくて、庶民を相手にするような商会を経営しているたらしい。

それはそれでいいと思うのだけど、コランド子爵は更に上の階級を相手にしたいと思うようになっていったのだそうだ。


品揃えを上級品に変えたのだけど、顧客が離れていってしまった。そこで娘を高位貴族に縁付かせようとした。


何故か狙いはフォワード家のハリスン様に定めたものの、婚約者がいてそちらから支援も受けている。どうしてそんな難しい相手に狙いを定めたのか不思議で仕方がない。

貴族と繋がりたいならもっと簡単に取り入ることの出来るお金のない高位の家と縁を結べばいいのだ。貴族令嬢なら家のために嫁ぐ事は当たり前なのだから。



ハリスン様の美貌に魅入られたとしか思えない。

何とか覆せないかとハリソン様に色仕掛けで迫ったり、夜会で媚薬を盛ってみたりしハリソン様の美貌と地位目当ての行動だったが、彼にはよくあることだったらしく、肝心の本人は誰に狙われているのか分かっていなかったらしい。



でもお姉様以外には笑顔を見せなかったので、標的がお姉様になったみたいだ。

もっと早く打ち明けてくだされば避けられたのかもしれない。

言ってもどうしようもないことなのだけど。



まず、コランド商会とはは取り引きを止めた。商売に差し支える所はミリーさんの商会の良心的な価格のものを代わりに斡旋した。

お店とミリーさんの両方に喜ばれた。


お母様は普段からミリーさんの商会の品物しか買っていなかったので問題はなく、お茶会でさり気なくコランド商会のものを使った人が、騙されたと怒っている人がいると話した。

これは本当のことだった。安物の石を本物の宝石だと騙して買わせていた。


この頃には私もミリーさんとすっかり仲良くなりお姉様の事故のことも打ち明ける事ができていた。

ミリーさんは唯一の友人になった。



コランド商会の悪い噂は社交界を駆け巡り、貴族からは相手にされなくなった。領地で規模を小さくして商売をやると聞いた。

令嬢は年の離れた貴族の後妻に入られたとか。


元々信用第一で商売をしていたミリーさんの家のモリス商会は一段と飛躍を遂げた。


王国一の商会になりつつあるモリス商会は、ミリーさんのお兄様が代表だそうだ。若いのに凄い人だ。


でも私は思う。お母様がなし得た事を侯爵夫人が何故出来なかったのだろうと。息子の被害をご存じなかったのだろうか、それとも興味がなかったのか、それともそれくらい何とかして当たり前だと思っていたのだろうかと。


まあ、どうでもいいことだけれど。



ある日先触れが来て、今度は侯爵令息が訪問したいと言ってきた。

何の用だろう、嫌な予感しかしない。


一応令嬢として失礼のないドレスにした。

約束の時間になってフォワード侯爵令息が来られた。窓から見ると馬車から降りる時に手には花束を持っている。

ますます逃げたくなった。仕方がない、女は度胸だ。


家令に言って応接室に案内をさせた。父と私がお相手をする事にした。


「フォワード侯爵令息様。ようこそおいでくださいました。事故の真相でもお分かりになりましたか」

父が聞いた。

「私になど会いたくないと思っていらっしゃるのは理解はしているのですが、真相が分かりましたのでお伝えに参りました」


「いや、真相とあれば是非お聞かせ願いたい。お茶をどうぞ」


「ありがとうございます。頂きます。美味しいお茶ですね」


「犯人ですが予想通り黒幕は子爵でした。馬車の職人を装って屋敷にその時だけ入り込ませ細工をさせたそうです。

三台ありましたのでどれにも細工をしたと白状しました。

お嬢様の乗って帰られた馬車だけが目的ではなかったようです。

当時父は領地へ行っておりました。母は来客が多く、私は事務処理に追われておりました。玄関までお見送りしたら護衛も付けましたので大丈夫と気を抜いてしまいました。本当にお詫びのしようもなく、申しわけございません」



侯爵令息はソファーから立ち上がり、床に頭を付けて土下座をした。


私達は予想通りだったのと、何故ここまで時間がかかったのか問い詰めたかったが何も言えなかった。


父は、子爵と家族はどうなったのかと聞いた。殺人で騎士団に引き渡したので、極刑だろうと言われたそうだ。娘が嫁いだのは評判の良くない男だったらしく様子を見るらしい。




ミリーさんとお兄さんのヨハンさんと三人で食事に行くことになった。商会が大きくなるきっかけを貰ったと言われているそうで、そのお礼だそうだ。


こちらにはそんな気持ちが無かったので遠慮したが、食事を楽しみましょうと誘って頂いたのでご一緒する事にした。


気晴らしにお洒落をして出かけることにした。ふんわりした水色のワンピースだ。小さなイヤリングを付けた。行き先は高級レストランだ。

馬車で送って貰い店の前に着いたらミリーさんとお兄さんとが待っていてくれた。

美男美女の兄妹だ、目の保養になる。 


さっそく予約席に案内された。高級店だけあって雰囲気が落ち着いている。静かにピアノ伴奏が流れ会話を邪魔させない配慮が素敵だ。魚と肉の両方が楽しめるコースになっていた。


「初めまして、ミリーの兄のヨハンといいます。良いきっかけを下さって感謝しています」


「とんでもありませんわ、偶然ですのよ。こちらこそいい商品を売ってくださってありがたく思っております」

「固いわね、あなた達。二人共普段と違い過ぎて可笑しくなっちゃう」

「初めてなんだぞ、礼儀正しくするさ」

「そうよ、ミリーさん」

「リリエル様僕はこれから世界を制覇しますよ」

「凄いですね、夢があって素敵です」


料理は美味しいし三人でのおしゃべりは楽しくって時間があっという間だった。


ミリーさんもヨハンさんもまだ結婚は考えていないらしい。

貴族の方は大変でしょうと言われたが、そういえば何も考えていなかったなと改めて気がついた。

両親が自由にさせてくれているためだと思ったら胸が熱くなった。


「今日はとても楽しかったですわ、ご馳走様でした」

「うん、僕たちもだよ。またご馳走させてね」

「ありがとうございます」


こうして楽しい夜が更けていった。




ある日仕事をしていると書類を上の階の部署迄持っていってくれと先輩に言われたので、書類を持って歩いていた。

後ろから声を掛けられた。デジャブを感じて振り返るとやはりフォワード侯爵令息様だった。


「こんにちは、仕事中のところ申しわけない。今度少しだけ時間を貰えないだろうか?」


「今度ですか?どのようなご要件か伺ってもよろしいですか?」

「詳しくは話せないのだが、君に不利な話では無いと思う。一時間程でいいんだ」

「一時間位ですか、どこでお会いするのですか?」

「知り合いのレストランを借りるつもりなんだが、どうだろうか?」

「じゃあ今度のお休みの日にしましょうか」

「ありがとう、感謝する」


それから1週間後貸し切りのレストランでフォワード侯爵令息様と会っていた。もちろん彼の侍従はレストランの片隅に控えている。


お茶を出して貰ってテーブルを挟んで向かい合って座った。

「今日は時間を取って貰ってすまない」

「いいえ、お話とはどのような?」

「実は私は後一年の命らしい。呪いを掛けられたみたいなのだ。筆頭王宮魔術師に解いて貰おうとしたが無理だった。

そこで君にお願いがあるのだが、婚約してくれないだろうか」


「嫌です、お断りします。貴方の顔を見るとお姉様を思い出して辛いのです。それに何なのですか?余命一年だから婚約?意味がわかりません、失礼しますわ」

「冗談を言っている訳ではないのだ。お願いだ、話を聞いてくれないだろうか?」

「仕方がありませんね、聞くだけですよ」

「ありがとう、いつ呪いを受けたのか分からないのだが、これを見て欲しい」


そう言うと上衣の袖をまくりあげて腕を見せてきた。そこには黒い文様が浮き出ていた。



「これは闇魔法ですか?これが全身を覆うと亡くなってしまうのですか?それが一年後なんですか?」

「それで婚約というか、結婚もして頂けたらこれ以上の幸せはないのですが」


跪きながら笑顔でなんということを言うのだろうか。


「私を苦しめて楽しいですか?どうして私なのですか?他にもたくさんいらっしゃるでしょう。綺麗な方とか身分の高い方とか、侯爵令息様に憧れていらっしゃる方とか。ご家族はご存知ですの?この婚約のお話」


「ああ、知っている。筆頭王宮魔術師に相談するには父上の許可も必要だったから」

「ではなんと仰っておられるのですか?まさか受け入れていらっしゃるのですか?」

「諦めて親戚から養子を貰うことを考えている」

「そんな、まだ諦めるには早すぎませんか?他国にもっと凄い方がいらっしゃるかもしれないではありませんか」

「王家の力をお借りして調べていただいたのだけれど、駄目みたいだ」

「話は戻りますがどうして私なのですか?お断りしますけれど」

「君の姉上が受け取るべきだった報酬を君に受け取って欲しいからだ」

「報酬ですか?」

「そうだ、僕たちは契約上の婚約だった、姉上が学院に入学するまでのね。ご両親はご存知ないよ、子どもの契約だったから。

エリザベスは色々な国に行って勉強がしたいと言っていた。語学が堪能だっただろう?弟さんが産まれるまでは自分が後を継がなくてはいけないと思っていたそうだ。弟が出来たからやっと自分の夢が叶えられると思ったら、僕と婚約が決まってしまった。頼まれたんだ、契約だけの婚約にして下さいと。女性には不利になると話したのだけど、決心は硬かった。

僕も女除けに、ちょうどいいと思ったんだ。

でもあの災害がおきて婚約解消どころの騒ぎではなくなってしまった」


「でも、とても仲が良さそうに見えました。プレゼントを交換したり、町へ行ったりされてたし、お互いの屋敷でお茶を飲まれていたり、一枚の絵のようで素敵だと遠くからお見かけして思っていたのです。お姉様は憧れの女性でしたから。

そんな事を考えていらっしゃったなんて知りませんでした」


「彼女とは友達だった。親友と言っても良いかもしれない。

それでね、解消になったら彼女の旅立ちに必要なお金を用意するという約束をしたんだ。

君に受け取って欲しいんだけど、すんなりは渡せない額なんだ。


君のところの援助を受けて領地を立て直してから、経営の勉強を特に力を入れてやるようになった。何処に投資をしたら良いのかがよく分かるようになった。

これも君のところのおかげだからね。あの時よく励まして貰った、諦めてはいけないとね。でも彼女はどこか遠くを見ている時があった。



僕の命は短い、お金は持って死ねないから君に渡したいんだ。それから両親は領地へ行ってもらう、君と会うことは無いと思う。会うと辛いだろう。僕も会わないように努力するから、身近でまた死を見るのは辛いだろう」


涙が溢れるのを何とか我慢しながら帰って両親に相談してみますと答えた。



読んでいただきありがとうございます。感謝しかありません。

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