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24.合唱コンクールの難航

(合唱コンクールの難航)


 やっと、中間テストも終わり、いよいよ合唱コンクールに力を入れることになり、放課後も毎日一時間練習をすることになった。

 ところで、あのバンドを組んでいる男子三人組は、どうなったかと言うと、音楽の時間に課題曲を伴奏してもらったところ、その出来のお粗末さに、クラスメートからやじられたあげく、引きずり降ろされてしまった。

 音楽の先生いわく

「おまえらなーあ、和音と言うものを知っとるか。つまり、コードだ。ただ指で弦を押さえれば良いというもんじゃないんだぞ。それなりに和音の音が出なかったら、それは和音じゃないんだ。つまり、コードを引いていないということだ。だとしたら、おまえらなにやってんだ。それより、そのギター、音あってんのか。ままーいい。君たちの熱意は、誉めてやろう。それから、先生も、この前までは、バンドやっていたから、放課後音楽室に来い。ギターどころか、バンドというものを一から教えてやるっ!」

と、明るい少しハンサムな若き音楽教師だった。

 愛美の方はと言えば、麗子の期待どうりに、クラスの全員に学校を休んでばかりいる薄暗い変な少女のイメージから、本当は隠れ芸能人か、演奏旅行の合間にしか学校へ来れない天才美少女ピアニストと言う噂が飛びかうほど愛美の存在に注目が集まった。

 と言うわけで、伴奏は文句なく愛美に決定した。

 そして自由曲は、ロシア民謡で『ロイカ』。正美の選曲だった。

 ほかのクラスが、最近流行のJポップほか、合唱定番の題目であるのに対して、正美は、誰もが練習なしでも歌える、きわめて簡単な小学生じみた唄を選んだ。

 そのわけは、正美がクラスのみんなに説明した。

「なぜ、子供じみた唄を選んだかというと、誰もが伴奏なしでも、鼻歌で歌えると思ったからです。それに、この曲は、ある程度軽快なテンポがあるうえ、叙情的です。これを、ただ歌うだけでは、小学校の音楽会になってしまいますが。そこを、中学生らしくアレンジしまして、愛美女史の天才的なピアノを大いに生かすことで、ほかのクラスではまねの出来ない、アミの弾くピアノと協奏関係を保ちながら合唱する。つまり、ピアノ協奏混声四部合唱で優勝をいただきたいと思います!」

 これは、正美が、すでに夏休みの間から考えていた構想だった。

 クラスの大部分は、理解できないまま、正美の演説に乗せられて、それに委員長特権も効いて賛成したのだった。

 正美の演説は、続いた。

「ですから、これから練習することは、唄を上手に歌うことよりも、ピアノとの構成的なところを間違えずに歌えるかどうかで、是か非かが決まります。ピアノのソロの部分もあります。また、合唱が無伴奏になるところもあります。なかなか、複雑ですので、まず自分のパートの歌いだしのタイミングを覚えて下さい。後は、愛美女史が何とかしてくれるはずです。みんな自信を持って歌いましょう」と締めくくった。

「おいおい、なんとも出来ないよー」

 愛美は、慌てて正美に言い返した。

「大丈夫、アミなら出来る!」

 正美は、クラスのみんなには、いとも簡単に出来るようなことを言ったが、自信はなかった。

 それもそのはず、その難易度を考えれば、音程ばかり高くて、失心しそうなほど激しい、最近のJポップの方が、正美の考えた複雑怪奇の合唱構成に比べれば、まだ簡単だった。

 それが証拠には、練習三週間目と言うのに一部の生徒は、まだ楽譜から目が離せない。

 正美は、不安だった。

「やはり、私が間違っていたのかなー?」

 正美は、力なく麗子と愛美の席まできて相談を持ちかけた。

「え、なかなか良いよ。それに先生も誉めていたじゃない。良く出来ているって……」

 愛実は、机の上に手枕して恨めしそうに宙を仰いで寝ている正美に言った。

「駄目よっ! あのお調子ももの先生の言うことなど、どのクラスにも言っているわよ!」と正美は頭だけ起こして愛実に言った。

「正美ちゃん。そんな悲観的にならなくても、あと二週間もあるんだから……」と麗子も励ました。

「なにいってんのよ。あと二週間しかないのよ。私の予定では、今ごろは、歌い込みに入っていなければならないのに……」と正美。

「正美ちゃん。それ私の口癖―」と麗子。

「そんなこと言っている場合じゃないでしょう」と正美。

「……、……」

「やっぱり、私が間違っていたのかなー」

 正美は、一瞬むきになって言い返してから、がくっと首をうな垂れて恨めしそうに麗子を見つめた。

 そして、その目を愛美に向けてから、ぼそっと呟いた。

「アミちゃん、アミちゃんのピアノいつもと違う……」

「そんなことないわよ。私は、レイの言う通りに、合唱にあわせて弾いているわよー」と愛実は麗子を見て言った。

「合唱に合わせるって、アミっ! あんな下手な合唱に合わせていたら、アミの実力が出せないじゃない!」と正美。

「でも、下手な合唱だから、引き立つようにしないと意味ないんじゃない……」と、言ったところで、麗子が慌てて愛美の口を塞いだ。

「あーあーあー、……」

 それを聴くと正美は、また力なくうな垂れて麗子の顔を見て呟いた。

「やっぱり、私が間違っていたのね……」

 麗子と愛美はそれを見ると、二人で大きなため息を吐いてかあら、正美の肩を叩きながら……

「大丈夫よ。私たちでもう一肌脱いでやってみるから!」

「ほんと……?」

「ほんとよー!」

「信じていいのね!」

「信じてちょうだい……」

 正美は、急に顔を上げて笑顔いっぱいで、麗子と愛美に抱きついた。

「やったーあ、これで優勝だーあ!」

 さっきとは別人のようにはしゃぐ正美をよそに、今度は麗子と愛美に心配の種が芽生えていた。


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