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2.同じクラスになる不思議

(同じクラスになる不思議)


 学校に着くと、校庭には特設の掲示板が置かれ、すでに登校してきた生徒が集まっていた。

 その掲示板には各クラスの生徒の名前と、担任の名前が張り出されていた。

 愛実と麗子は、急いで自分のクラスを探した。

「あった、三組だっ!」

 最初に見つけたのは麗子だった。

 そして、愛実は麗子のクラスから自分の名前を探した。

「やっぱり一緒だね!」

 愛実と麗子は、お互いの顔を見て微笑んだ。

 実は、この二人。幼稚園、保育園のたぐいは通っていないので、小学校から 今まで別々のクラスになったことがない。

 なぜかと言えば、どうやら小学校入学時に愛実が引き起こした事件が原因になったようだ。

 それは愛実と麗子が小学校に入学したときのこと、そして別々のクラスになったことから始まった。

 その当時、勝ち気だった愛実は三歳の時から、いつも一緒だった麗子と、別々のクラスで勉強しなければならないと言うことが納得できなかった。

 だから愛実は事あるごとに麗子のクラスに行き、麗子の隣の席から動こうとはしなかった。

 そして担任は、そのたびに愛実を元のクラスに戻すが、しばらくするとまた、愛実は麗子のクラスに戻っていた。

 あるとき、たまりかねた担任が

「先生のいうことが聞けない人は、もう学校に来なくてもいいです!」と、愛実を叱った。

 愛実はそれを聞くと

「じゃ―、あたし帰る!」と、教室を出ていってしまった。

 そのころ愛実の後ばかりついていた麗子も

「私も帰る!」と、愛実と一緒に帰ってしまった。

 担任は、子供のことだから明日になれば、また登校してくると思っていたが……

 しかし、二人は登校して来なかった。

 そして翌日も……

 担任は心配になり、まずは愛実の家に電話をした。

 そして栄二郎が出て、愛実は学校には行かないと告げた。

 変わっていたのは愛実だけではなかった。

 その夜、栄二郎と麗子の母、そして二人の担任とで話し合いがもたれたが、やはり一度決めたことは守ってもらわないと学校運営が成り立たないと言うことだった。

 栄二郎は、その意見に納得していた。

「何も無理やりクラスを変えてくれと言っているわけではない。ただ娘が学校へ行きたくないと言っているから、行かせないだけで、行きたいと言えば、もちろん止はしませんよ!」と、栄二郎は、先生方に言った。

 しかし、そんなことを言われても、子供を学校に行かせるのは大人の義務だから是非来させて欲しいと頼んだ。

 それなら二人を同じクラスにしなさいと栄二郎は頑固譲らない。

 しかし、それはできない。

 話し合いは平行線のままだった。

 仕方なく担任は栄二郎の方では話が着かないと思い、今度は麗子の母に頼んだ。

 麗子の母親は困っていた。

 普通なら「はい、わかりました」と、言うところだけれども、彼女の場合、そう言えない事情があった。

 なぜなら、たまたま愛実の家の隣に引っ越してきてから今まで、栄二郎の家で、麗子を見てもらっていたという負い目があった。

 それに、ただ見てもらっていたわけではなく、英才教育的にピアノまで教えてくれていた。

 実際、このことの方が麗子の両親を喜ばせた。

 それがために、普通なら保育園や幼稚園に通わせる年頃になっても、栄二郎がそういうものには通わせないと言ったことに合わせ、麗子にも通わせなかった。

 しかし、今回の場合、保育園、幼稚園とは違い、義務教育だ。

 簡単には答えが出せない。

 この日の話し合いは、このまま終わった。

 そして、やはり二人は学校には行かなかった。

 三日たって、今度は校長と教頭と学年主任。

 そして二人の担任と数を集めてやってきた。

 しかし、話は相変わらず、平行線のままだった。

 しばらくして、話の進展のなさにしびれを切らせた校長は、愛実と直接話すことで説得しようと思った。

「私は、きちっと理由を話せば子供達にもわかってもらえると思っています」

 栄二郎は、何時ものように少し笑いながら……

「校長先生、これは価値観の違いですよ。あなた達は規則を守らない愛実たちが悪いと言った。しかし私に言わせれば、愛実たちの仲を引き裂く先生の方が、もっと悪いと思いますがね―」

 校長には、栄二郎の微笑が子馬鹿にされているような不快感があった。

「お父さん。これも教育です。子供たちに、きまりを守ると言う社会性を養わせるための一つなんですよ!」

 栄二郎は、尚も笑いながら……

「きまりも、社会も、上から押さえつけるだけでは、今のアミたちのように逃げ出してしまいますよ。きまりも、社会も、人の心の通いあうものでなければ、人は幸せには暮らせないんじゃ―ないですか」

 校長は少し大きな声で……

「ご高説もっともですが、これも教育です」と、譲らない。

「そうですか。私は構わない。子供たちに従います……」

 校長は身勝手な親に、少し憤りながら……

「お父さん。子供たちは、家にいたいに決まっているじゃ―ないですか!」

 栄二郎は校長を見据えたまま……

「それなら、そういうことです。子供たちが行きたがる学校を作ってから迎えにいらっしゃい!」

 そして、栄二郎は愛美を呼んだ。

「アミ、学校に行くかね?」と、栄二郎は訊く。

「私、行かない。おうちでピアノ、弾いている」

「アミちゃんは、ピアノが好きなんだね。学校でもピアノは弾けるんだよ―」

 校長は笑顔だった。

「いやっ! 先生、意地悪だから嫌い。私、弾きたくないもの―」

 子供に、はっきりと嫌いと言われて傷つかない大人はいない。

 愛実の言葉を聞いて栄二郎は……

「そういうことです。私たちなら心配はいりませんよ。家にいても、私が思いやりのある立派な人間に育てますからっ!」

 校長は、栄二郎には話さず、再び愛美に話した。

「アミちゃん、学校にはたくさんのお友達がいるんだよ。みんな仲良しアミちゃんを待ってるよ―」

「お友達はレイちゃんだけ。あとの子はいらないっ!」

 校長が思っているほど、愛美は話のわかる子ではなかった。

「アミちゃん。これは規則なんだよ。日本の国がね。子供はみんな学校で勉強しなさいって決められているんだよ。わかってくれるね―」

「そんなことないわ。先生帰っていいって言ったもん!」

 それを聞いて、担任の先生が慌てて……

「ごめんね。先生、間違ってた。アミちゃんには、また学校に来て欲しいな―」と、横からすまなそうに謝った。

「それなら、レイちゃんもいっしょっ?」

 愛美は嬉しそうに訊き返した。

 しかし、担任の先生は愛美の気持ちに反して……

「レイちゃんは別のクラスだから、いつもはいられないけど、休み時間には会えるじゃない―」と、学校にいたときと何も変わってない。

「それなら私、行かない。レイちゃんとおうちでピアノ弾いているもんっ」

 愛美の答えは簡単だった。

「レイちゃんは明日から学校に行くと言っているよ」

 校長は嘘を言った。

 愛美は黙ってしまい、少し考えてから……

「レイちゃんは行きたければ、行けばいいじゃない。私は行かない。私、おじいちゃんとおばあちゃんがいればいいから……」

 愛美は少しむくれて言い返した。

「でもアミちゃん。これは規則なんだ―」

 校長が、さらに追い討ちをかけるように迫った。

 愛美は泣き出しそうな顔をしながら……

「私、行かないって言っているでしょう。学校なんて、馬鹿みたい。みんな同じことばっかりやっていて。アミは、おうちでピアノを弾くの!」

 泣きそうになりながら言い張る愛美に、校長はそれ以上何も言えなかった。

「馬鹿みたいだそうですよ。愛美が学校に行って感じたことです。私が言ったわけじゃない」

 栄二郎は、愛美の言葉を強調するように付け加えた。

 先生方は、愛美の言葉に困惑しながら、沈黙が続いた。

 話の進展がこれ以上ないと見た栄二郎が、先生方の帰宅を間接的に促した。

「アミ、先生方はお帰りだ。最後にピアノでも弾いてあげなさい」

「いやよ。私、先生嫌いだもん!」

 愛美は、さっきまでの会話で、意地悪されたような不快な気持ちが残っていたのか、素直にはきけなかった。

「どうやら、嫌われてしまったようですね」と、校長が少し照れながら愛実から離れた。

 校長が黙ってしまったことで、今まで発言を控えていた学年主任の男性が口を開いた。

「お父さん、やはり家にいては、わがままになります。集団の中でこそ自制心が養われると思います」

 すかさず、栄二郎が反論した。

「アミは、わがままな子ではないですよ。あなたは、アミの一面しか見ていない。学校に行かない子は、みんなわがままと考える。そうじゃない。先生方が今までアミに何をしてきたのか考えれば、アミの気持ちがわかるはず。つまり、最初にアミの気持ちをきかなかった先生こそアミから見れば、わがままな大人なんですよ」

「でも、それが学校です」

「それは大人の理屈でしょう。子供には通じない」

 栄二郎は、愛美をそばに寄せながら……

「アミ、先生方はアミを心配して来てくれたんだよ」

「私、来て欲しくないわっ!」

「アミ、大人はみんな辛いんだよ。これも、先生としての辛いお仕事なんだ。せめてこの家に来たときぐらい、やさしくしてあげなさい」

「……、うんっ。じゃ―やさしくしてあげる」

 愛美は、そう言うとピアノに向かった。

 そして、やわらかなショパンのノクターンを弾だした。

 そのやさしい調べは、さっきまでの重々しい雰囲気を一変させた。

 愛実のピアノは、大人たち一人一人の心に、驚きとともに響いた。

 校長は、思案に暮れながら、やさしく心をなでるような愛美のピアノの響きに心をなごませた。

 そして、先生方は顔を見合いながら、六歳にしてショパンを弾く愛美に驚き、普通でない愛実の実態を知った。

「信じられない。とても普通では考えられない!」

「どうして、こんなに弾けるんですか?」

 先生方が、口々に感嘆の溜息をもらすと、校長は先生方の私語を静めた。

 しばらくして演奏が終わると、校長は愛美に話しかけた。

「ありがとう。素晴らしい演奏だったよ。先生、気持ちが楽になったよ―」

「そうっ、よかったね。また、疲れたらおうちにおいでよ。ピアノ、聴かせてあげるから……」

「また、弾いてくれるかい?」

「いいわよ!」

「そうっ、それじゃ―先生たちが意地悪したことを許してくれるかい?」

「いいわよ!」

「じゃ―、レイちゃんと一緒なら学校に来てくれるかい?」

「学校に行くの?考えとくわっ!」

「レイちゃんと同じクラスだよ?」

「……、考えとくわっ!」

 校長はそう言うと、先生方の方を見て……

「アミちゃんとレイちゃんは、一緒のクラスにしましょう」

「校長、そんなことをしたら他の父母が黙っていないと思います……」

 他の先生方も、校長の変化に驚いた。

「いいじゃ―ないですか。出来るだけ、子供たちの希望を聞きましょう。親の希望ではなく、子供たちの希望です。まだ、新学期が始まって一週間。こういうこともありますよ」

「お父さん。そう言うことでお願いします」

「私は、アミの気持ちに任せているだけです」

「は―あ―、……」


 こんな騒動があって以来。愛美と麗子は別々のクラスになったことがない。

 またクラスを変えて学校に来なくなっても困ると先生方が思ったのかもしれない。

 それとも、これを契機にして愛実だけは、それからも平気で学校を休む問題児になってしまったことが原因かもしれない。

 ともあれ、中学校に上がっても同じクラスということで、二人は安心した。


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