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16.民宿の夜

(民宿の夜)


 そして、夏の太陽が西の水平線近くまで傾いたころ、民宿のお客さんが、ぞくぞくと帰ってきた。

 この民宿は磯釣りの宿としても有名で帰ってくるのは叔父さんたちのグループばかりだった。

「おかえりなさい……」と言って静子が迎える。

 初めて泊まりに来るお客さんでも、連泊しているお客さんでも、お帰りなさいと言って迎る。

 この民宿を、我が家と思ってくださいという心遣いだ。

 そうなると、愛実たちも遊んでばかりはいられない。

 もとより、本題は民宿のお手伝いだ。

 愛実たちは、お膳の用意から総菜の盛りつけまで、普段は家にいて絶対にやらないようなことを、この民宿では当たり前のように出来てしまったことが不思議だった。

 浜辺の民宿の夕食は、新鮮な魚尽くしが売り物で、愛実たちの前にも船盛りが豪華に出された。

 そして、そのとろけるような柔らかな赤身の刺身や、ぷりぷりした白身の刺身、どれもこれも今まで愛実たちが口にしたことのない美味しさでいっぱいだった。

 でも、喜んでばかりはいられない。

 ごちそうになったその後は、もちろん後片付けだ。

 この民宿では、お客さんが、その部屋ごとに食べ終わったお膳などをお膳箱に入れて、まとめて厨房まで持ってきてくれる。

 愛実たちは、それを残飯と食器と食器の種類別に分けてから洗うのだ。

 しかし、まだお酒を飲んでいる客や、宴会をやっている客などで、なかなか片付かない。

 片付いたと思うと、また別の部屋からお膳箱が届く。

 このころになると、さすがに一日の疲れも出てきて、愛実と麗子は、少し動きが鈍い。

「もういいよ。だいたい片付いたから、まだ飲んでいるところもあるから切りがないよ。早くお風呂に入ってお休み……」

 叔母さんが愛実たちをねぎらって声をかけた。

「いいえ、もう少しですから、これを片付けて、終わりにします……」

と愛実は、麗子と正美の顔を見た。

「でも、今日はお客さんが少ないほうよね」と正美は叔母さんに話しかけた。

「そうなの? でも叔母さん一人で大変じゃない………」と麗子。

「そうでもないよ。お婆ちゃんもいるし、香奈も手伝ってくれるもの。それに、忙しいのは、この季節だけだからね―」

 叔母さんは、香奈とお婆ちゃんに目線を送りながら微笑んだ。

「そうよね―、香奈ちゃんだって、お手伝いしているもの。ぼやぼやしてられないわっ!」と愛実は麗子の顔を見た。

「何で、私の方を見るのよ。のそのそやっていたのは、アミでしょ―!」と麗子は愛実に詰め寄った。

「はいはい、今日はこれでおしまい。また明日、がんばってねっ!」

 正美は、もめている二人をひっぱて、出口に追いたてた。

「ご苦労様っ! よ―く、休んでね―!」

 正美に引っ張られていく二人に叔母さんが、もう一度ねぎらいの言葉をかけた。

「にぎやかな子たちじゃな―あ―」

 お婆さんは床に座わったまま食器を乾拭きして食器棚に納めながら呟いた。

 その横で香奈も同じ仕事を黙々とやっている。

「そうね―、香奈のいいお姉ちゃんたちね―。よかったねー! 香奈、……」

 香奈は黙って嬉しそうに笑顔を送っていた。


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