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魔王様はVtuber  作者: 伊可野万
6/6

第6話『魔王様、しつこさを学ぶ』

「まず、Vtuberプロデューサーとして2人に最初に言いたいのは、自分のリスナーの需要に答えて、キチンと供給できる人材であってほしい、という点です。人気ゲームの人気に便乗して再生数とチャンネル登録者数が稼げて人気者になれただけなのに、そのゲームの人気を自分自身の人気と勘違いしてしまい、リスナーの需要がない雑談枠を始めてつまらない喋りを披露したり、突然物申す系配信者に転身してリスナーの反感を買って没落していく、そういう駄目なストリーマー、失敗し、破滅していく配信者を、うにはこの眼でうんざりするほど沢山見てきました。


 人気がある面白いゲームをプレイしているあなたに需要があって面白いだけであって、あなた自身が面白い人間というわけではないですよ、という根本的な部分を勘違いしてしまって、唐突に芸能人気取りしてしまう、痛々しい個人Vtuberやストリーマー、ゲーム実況者が、何故か次から次へと現れてくるのも、この業界の特徴です。


 格ゲーをやっているプロゲーマーの格ゲーをしている姿が面白くて人気になっているだけで、素の本人は全然面白くないのに、何故か自分自身に人気があると勘違いしてしまって、よくわからない雑談やバラエティもどきの企画を始めてしまう、痛いプロゲーマーも沢山います。


 お二人にはそういう痛い人間にはなってほしくないですので、まずは自分を客観視し、長所と短所を見極めて、自分の得意分野で勝負し、しっかり結果を出せるVtuberを目指してほしいんです。別にVtuberになったからといって、ゲームだの、歌枠だの、雑談だの、ASMRだの、何でもかんでも手当たり次第にやればいい、というわけではありません。リスナーに求められていないこと、需要がないことは極力しない、を徹底し、リスナーのニーズに的確に答えられる人でいられれば、自然と人気者になっていけます。


ですので、もう一度言いますが、まずは自分の長所と短所を理解して、自分に何が出来て、何が出来ないのかをしっかり見極めてください。世間があなたに求めていないことをやっても、やってる本人は楽しいかもしれませんが、リスナーにとっては公害です。歌が超絶下手糞なのに歌枠ばかりやっていたり、やたらCD出しまくったりしたら公害と一緒で、シンプルにリスナーの耳を破壊させて、お金を無駄使いさせるだけですから、そういう馬鹿げたことはしないように徹底してください。自分に需要がない仕事はやらない、これが芸能人にも、ストリーマーにも共通して言える基本的な心構えです。もちろんデビュー当初は自分に何が求められているのかは分かりませんので、様子見で色々やってみる姿勢は大切です。その上で、ゲーム配信をしている自分の姿が求められているようならばゲーム中心にやっていけばいいですし、雑談や歌枠、ASMRの需要があるようなら、それをメインに据えて活動していけばいいんです。Vtuberだからといって、ゲームを沢山しないといけない、なんてことは全くありません。ゲーム配信を殆どやらなくても人気があるVtuberは沢山いますからね。」



 Vtuberプロデューサーという、珍妙な肩書をひけらかす、怪しい個人勢世界一の、自称天才Vtuber、あわふくうに童は、話の内容はともかく、話の量がとにかく尋常じゃないほどに圧倒的に多くもはや誰にも止められない、といった状態で、流暢に喋り続ける。娘曰く、この一切言葉が途切れることが無く喋り続けられる圧倒的な会話量の多さが、世界一のVtuber、あわふくうにの最大の武器である、という。


「今のYoutubeは、ネタに走った面白動画よりは、教養系やゲーム攻略系、歌動画など、リピート性が高いコンテンツが収益を上げやすい状況になってますが、Vtuberは、まだ他の顔出ししている配信者や、一動画投稿者達とは事情が異なります。Vは先ほども申し上げた通り、現在勢いがあり、この先のV達の本気の努力次第では、新たな職業として認知されるかどうか、というところまで、時代の流れを掴みかけてきています。

真に優れたエンターティメント、優れた発想は、厳しい制約の中から生みだされるものです。法律に必ず抜け穴があるように、一見制約が多すぎる中でも、いいえ、制約が多いからこそ逆に出来ることが、必ずあります。あれが出来ない、これも出来ない、それも出来ない、何もまともに出来ないことばかりの中で、考えれば出来る、発想を逆転させれば意外と出来る、視点を変えれば出来るかも、ということは、いつの時代も必ず存在するのです。


勿論、それを見つけるのは大地に刺された針に空から糸を通すぐらいに難しい行為ですし、見つけられるのが、天才、という人種ですが、その見つかった先、超天才が発見したもの、今、年々ライバルが多くなり競争が激化している、配信者の新たな突破口になりつつあるのが、Vtuberという職業です。そんなVにとっては、ここ数年が本当の勝負で、いまだかつてない群雄割拠、壮絶なる覇権争いが、既に起こってます。ビジネスの世界は、早い者勝ちです。何でも一番最初に誰も本気でやってこなかったことに本気で大金を投じて成功させた組織が頂点に立ちます。

ファーストフードの王者マクドナルドと、飲料メーカーのトップ、コカ・コーラ社、世界一のビデオゲーム会社任天堂が今でも覇権なのは、誰もきちんと足で立てていなかった業界に、最初にきっちりと倒れないよう強固な両足で立てたからです。今からどんなに頑張っても、日本でヒカキンに登録者数で勝てるYoutuberは出てこないでしょう。

そして個人Vの世界では、もう既に、この私、あわふくうに、が、一番倒れない旗を立ててしまいました。配信の世界に限った話ではありませんが、一度ピラミッドの頂点に立った者は、死ぬか、失敗を重ねて信用を失うか、不祥事を起こすか、引退するまで、常に頂点に立ち続ける宿命です。その現実をしっかり理解してもらった上で、これから2人を正式におふたりさまの一期生とするため、一切妥協しない研修を行っていきます。それを乗り越えれば、文句なしにプロのVtuberの仲間入りです。ですので、このあわふくうにを信じて、ついてきて下さい。そしてハーラル様は、独身のうにと結婚するべきです」

「だから最後にしれっと求婚をするんじゃないっ」

「解りました、信じます。この偉大なる父ハーラル・ヴィガンスの娘フラル・ヴィガンスを、カリスマVtuberプロデューサー兼天才個人Vtuber、あわふくうにさんの相棒に育てていただきたいです」

「その、Vtuberプロデューサーというのは、一体何なのだ」

「Vtuberプロデューサー? そんな職業はありませんよ。うにが勝手に作っただけで、特に深い意味はありません。Vtuberはセルフプロデュースが基本ですので、プロデューサーは必要ありません。うにが勝手に作った、ネタ企画で使えそうな謎職業ですので、お気になさらず。実際の肩書は作家事務所メルシーセーヌの代表取締役社長で、一人Vtuberグループおふたりさま、そして新規Vtuberグループ、おふたりさまの0期生です。これからの研修は、うにうにプロデュース、というネタ企画のバラエティという体裁でやっていくので、よろしくお願いします」

「ふむ、うにうにプロデュースか。しょうもないな。まあよい、信じてやるとするか」

「一人Vtuberグループって、なんか劇団ひとりみたいですね」

「TMレボリューションと同じです。」


 娘は、うにの言葉にすっかり心酔している様子だ。まるで教祖にすがりつく信者のようである。人間界に来てからの娘は、時折子供のときのように無垢な心を抱いている兆しが見え隠れするのが解せない。某には理解しがたいが、まあしっかり者の娘が信用するというのなら、信用してやろう。


「ありがとうございます。では、ここからは少し緩やかに、二人にとって、為になるお話を沢山していきますね。」


 この女、またいきなり人が変わったように捲くし立ててくる。これがVtuberという生き物なのか? 魔界でも、ここまでお喋りな人間はいなかった。話の内容はともかく、恐ろしいほどの喋り、会話の量だ。喋りに一切の澱みがなく、吃音もない。いや、秒の間すらない。非常に可愛らしく、どこか美しさと気品も感じさせる、聞いてて耳障りの非常によい、つるつるした丸みをおびた声質だ。そして想像を絶するほどのマシンガントーク。察するに、これが、才能、というものであろう。常軌を逸した圧力、だが不思議と暖かい温もり。ただ近くにいるだけなのに、不思議と神々しさを感じるような存在に思えた。この女が、人間界の魔王か。 

 魔王に、武力は必要ない。真の悪は言葉で人を陥れようとするからだ。人の命を奪うのに、ナイフも銃も必要ないのだ。言葉は武器であり、そして言葉こそが、ときに最大の凶器にもなりえる。だからこそ、口の上手い輩には、警戒心を持たないといけない。相手の言葉に惑わされず、相手の過去の行動と実績で判断する。魔界だろうが人間界だろうが変わらない、正しい知的生命体の見抜き方だ。


「2人がこれからVtuberとして、チャンネル登録100万人行きたいと本気で考えるのなら、やるべきことは、至ってシンプルです」

「シンプル? どういうことでしょう」

「既にチャンネル登録100万人を超えている、人気Vtuberの真似をする、より解りやすく言えば、パクってしまえばいいんですよ、パクってしまえばね。成功したいなら、既に成功している人の真似から始める、それがもっとも簡単で効率的であり、無駄の少ない学習方法です。

一流のすし職人になりたいのなら、一流のすし職人に弟子入りして一流の技術、一流の考え方を真似すればいいだけですし、東大に入りたいのなら、東大に合格した生徒が実践していた勉強方法や1日の勉強時間、ノートの取り方などを真似すればいいんです、ね、簡単でしょう? 

 要するに、成功したいなら、既に成功している人、結果を出している人の習慣、技術、読んでる本、ルーティーンなどをマネしてしまえばいいわけです。既にチャンネル登録数100万人超えている、もしくは今後確実に超えるであろうVtuberには、大まかな共通点が4つあります。


 その1。当たり前ですが、出来るVtuberは、皆、時間には正確です。トップクラスのVは、皆前日までに配信予告をし、そして当日、予告時間通りにキチンと配信を行っています。時間を守る、というのは、人としての最低限の礼節です。


 その2。トップクラスのVtuberは、規則正しく配信をしている人が多いです。配信を休む際も、スケジュール表やXなどで事前に告知をしていますし、中には事前にこの曜日は必ず休み、と、決めているVtuberさんもいます。病気や帰省などで突発的に長期間休むことになった際は、必ず配信中やSNS等でリスナーにその旨を報告している人もいます。配信日時を安定させれば、その分安定したリスナーを確保しやすくなりますし、リスナーも安心します。やたら体調を崩したり配信をサボったりしてリスナーに不安や心配ばかり与えるVtuberは、ほぼ例外なく伸び悩みます。


 その3。トップクラスにいるVtuberは、例えばゲームの配信前や終了後、もしくは後日に、必ずといっていいほどオープニングトーク、スパチャonのときはスパチャお礼雑談枠を別途設けたり、ゲーム本編終了後に感想会などと称して多少の雑談枠、スパチャ読み枠を設けています。こういうリスナーと配信者が直接交流する時間が、結構、大事マンブラザーズなんですよ。


 その4。トップクラスのVtuberは、朝活雑談等、安定して出来る定番企画を持っている人が非常に多いです。天皇賞とか、競馬の大きな賞があるたびに馬券を買って同時視聴する、みたいな企画をやってるVさんもいます。


 このように、トップクラスにいたり、安定した収益を叩き出すVtuberには、大まかに言って、4つの共通点があります。全て当てはまるVtuberは、ほぼ例外なく100万人を超えていますし、今超えてなかったとしても、その内遅かれ早かれ必ず超えてくるでしょう。


 逆にイマイチ伸び悩むVtuber、停滞してしまうVtuber、個人Vなんかは、どんどん伸びていくVtuber達が当たり前のように実践していることを、何故か皆実践していなかったりするんですよね。Vの頂点に立つためにトップクラスの努力を日々続けているトップクラスのVtuber達が当たり前のようにやっている努力を、追いかける側が実践していないのですから、それでは、実践してないVtuberは、実践していない分だけ、実践しているトップクラスのVtuber達にどんどん差を付けられてしまっても仕方がありませんよ。成功しようと本気になっている人が必死にやっていることを、成功したいと考えているのにやっていないんですから、成功なんて出来るわけありません。特に成功したくないならやらなくても別にかまいませんが、成功したいのにやってなかったのなら、そりゃ、やってない分だけ、成功しているVとの間で差を付けられてしまいます。

 そして実践していない、上手くいってない、停滞してしまうVに限って、自分は陰キャだから、だの、やりたいようにやるだけ、だの何だのと、ぐちぐち言ったり逆ギレしたり、突然メンヘラ化したりして、リスナーを元気にするどころか、愚痴を聞いてもらったり、リスナー参加型配信などを積極的に行って、逆にリスナーに負担をかけるようなことをしてしまうんです。

 そうなると、もう一体どっちがリスナーなのか、わかりませんよね。Vtuberはリスナーを楽しませるのが仕事であって、楽しませてもらう必要はないんです。あまりリスナーとの距離を近づけすぎてガチ恋を煽りすぎると、リアルにストーカー被害とかを受ける可能性が高まりますから、リスナーを突き放すわけではないですが、適度な距離感を保つのが配信者、特に女性Vには大切です。あえて男性を遠ざけるよう男性に嫌われそうなキャラ、メッチャ口を悪くしたりなどの性格悪いドSキャラを意図的にやっている策士のVtuberや女性配信者も時々いますが、ドMの男性リスナーを引き付けてしまって、嫌われるどころか逆に気に入られてしまい、策士策に溺れる、になるケースもあります。


 ですのでVtuber、配信者として成功したいなら、既に成功している、トップクラスにいる人の真似をする、これが成功するための前提条件となります。


 例えば人気があるVtuberや配信者が遊んでクリアした経験のあるゲームを、自分も遊んでクリアしてみる、ですとか、成功しているVtuberが歌ったボカロ曲を自分も歌ってみる、など、配信界隈で流行っているものに自分も乗っかる。まず最初は、とにかく成功している人の真似をする、流れを読んで上手く乗っかるところから始めるのがコツです。


 いきなり自分勝手に好き勝手に、自分の発想であれこれしようとしないこと。まずは先人の成功者から学び、真似から始める。学ぶ、ということは、真似る、という意味です。今うにが言ったことをしっかり理解して素直に実践出来るか出来ないかが、ストリーマーとして成功できるかできないかの分れ目で、大事マンブラザーズな部分です。


 人の真似はしたくない、私は私、俺は俺、と我を通したいのならそれはそれで結構ですし、うにはあえて何も言いませんが、成功者が進むレールからは確実に外れてしまう、ということだけは理解して下さい。我を出すのは、ある程度結果を出してからにした方が賢明です。まずは成功者達が作った成功するためのテンプレートをなぞっていく、二人にとっては既に人気Vtuberである、このあわふくうにの配信内容、これまでやってきたこと、がそのまま教科書代わりになりますから、まずはそれをなぞっていくとよいでしょう。こういう成功者の行動、マインドを真似をすることがVに限らず、どこの世界でも大事マンブラザーズです」


「なるほど。まずは、チャンネル登録100万人以上のVtuberの行動、マインドを真似をすればいいんですね。」


「そうです。シャツインしていたベンゼマを見習ったのか突然シャツインし始めたエムバぺ選手みたいに、例えば超人気Vtuberが朝活雑談とかをしていたとしたら、まずは自分も朝活雑談をしてみる。こういう形から入る姿勢は凄く大事です」


「でも皆と同じことをしても、他と差別化できませんし、自分の個性は出せませんよ」


「Vtuberに個性なんてあっても、大した意味はありませんよ。Vtuberの人気は、デビューしてから最初の一か月、初配信のインパクトとガワと声、あとは事務所の力、定期的にコラボする相手でほぼ決まってしまいます。

 大物ストリーマーやVとコラボできる環境があるVは自然と露出が増えて人気が出やすくなるんです。地道にやって、後から自然発生的にじわじわ評価されて人気になる、なんてことは、ストリーマーの世界ではまずありえません。身もふたもない言い方をすれば、Vはコネクション、人気がある大物とコラボできるかどうかが凄く大事です。

 それに無駄に個性を出そうとキャラ作りをしても、素の声が良い人やキャラ絵が魅力的な人はかなわないですからね。結局はガワと声と喋り方で成功するかしないかは、9割方決まってしまいます。それにインフルエンサーは全員で同じゲームを一斉にやったり、同じ曲を歌ったりして、なんとなくこれ流行ってるのかな? という潮流を起こすのも重要な役割の一つです。

 ですので、基本的には誰かの真似、後追いでいいんです。例えば、うにがすいかゲームの配信を始めた一時間後にフラル様が便乗して、すいかゲームを配信したっていいんですよ。むしろ二人が同時期にすいかゲームを遊ぶことで、ちょっとしたすいかゲームムーブメントが起こり、すいかゲームのブームが再燃し、自分で買ってプレイしてくれる人が増える可能性が高まるかもしれませんからね」

「理解しました。では、私は、まずはプロデューサーが過去にやってきたことの真似をすればいいんですね。」

「ええ、そうです。どんどん真似してください、フラル様。まずはこの天才個人Vtuber、一流のあわふくうにの真似から始めるべきです。

 一流になりたいのなら、一流から学ばないと、一流の人間には絶対に成れませんからね。三流の人間に弟子に弟子入りしても三流の技術しか学べず三流の人間にしか成れません。自分が一流の漫画家になりたいと思ったら、一流の漫画家のアシスタントをして一流の技術を学び、人気がある一流の漫画にしっかり触れるところから始めるのが定石です。

 ですので、うにと似たようなこと、同じゲームをしたって構いません。同じゲームを遊んでいても、プレイする人が違えばリアクションも変わってきますからね。それが、大事マンブラザーズです。

 自分の個性はじっくり考えて、後から見つけていけばいいんです。

 最初からいきなり自分の個性を出そうとしても、そうそう上手くはいきません。ゲームやスポーツを上達させたいなら、まずは上手い人のプレイや動きをみて、自分と上手い人との動きの違いを確認しないことには上達しようがありません。

 勉強をしようと思ったら、実績があり評価されている参考書を使うのが大切だったりするように、フラル様がVtuberとして成功したいなら、まずは既に成功している一流の人、つまり、あわふくうにの真似から始めればいいんです。それが大事マンブラザーズですよ」


「わかりました。それにしても、さっきから、ちょいちょい、大事マンブラザーズ、大事マンブラザーズって、ちょっとしつこいですね」


「ふふん、フラル様、とうとうそこに触れてしまいましたか。笑いには、しつこさ、と、繰り返し、が、大事マンブラザーズなんですよ。一回言っただけなら笑いにつながらなくとも、何度も繰り返し言ったり、同じ行動を繰り返したりすることで、相手の頭の中にインプットさせるわけです。そしてまた言うかもしれない、また同じ事をするかもしれない、と、ほんのちょっとでも相手の頭に意識させれば、後はこちらの手の内で転がせるようになります。実際フラル様は、うにの大事マンブラザーズ発言をスルーしきれずに、とうとうツッコんでしまいましたでしょう? これが大事マンブラザーズなんですよ。一見糞つまらないダジャレを言って滑ったとしても、何度もしつこく繰り返し言い続ければ、その内、ダジャレを言うキャラ、としてリスナーに認知されるようになり、むしろダジャレを言ってくれ、とリスナーから求められるようになるかもしれませんし、ダジャレシーンだけを切り抜いて動画にしてもらえたりするかもしれませんからね。一回つまらないダジャレを言ってみて壮絶に滑ったとしても、めげずにしつこく繰り返し言い続けることが、大事マンブラザーズなんです。

 芸人の芸には、滑ることを前提にした滑り芸というものがあります。あえて意図的に面白くないギャグをして、相手につまらない、とリアクションをさせ、その後の返しのコメントで笑いを取っていく、という芸風です。髭男爵のルネッサンスとか、樋口君の樋口カッターとか、あれなんかは典型的な滑り芸で、相手につまらない、と言わせ、その後の返しのコメントで笑いを取ることを狙ったカウンターみたいなギャグです。最初は樋口カッターに演者はノーリアクションをしていても、何度もやられれば、流石に相手から、おもろない、しつこいねん、とツッコミが入るでしょう。そうやって相手や世間に自分を認知させる、それこそがつまらないギャグ、滑り芸の狙いなんですよ」

「確かに。言われてみれば、私はプロデューサーのつまらない発言をスルー出来ず、思わず反応してしまいましたね。それさっきも言ったじゃん、しつこい、と相手にツッコませたら勝ち、なわけですね。そのしつこさが、配信では大事マンブラザーズ、って、あ・・・」


「ふふん、どうやら大事マンブラザーズ菌が感染してしまったようですね。ですが、一応これはあくまでもキャラ、芸としてのしつこさ、配信中に求められるキャラ作りとしてのしつこさであり、実生活などでダジャレを言ったり、しつこいことをしたらナチュラルに嫌われてしまいますので駄目ですよ。アイドルのももちがキャラ作りとして、許してニャン、をつまらいと言われてもめげずにしつこくやり続けた結果、とうとう認知されブレイクしましたが、彼女はカメラが回っていないときやプライベートでは、許してニャンなんて絶対言わないですからね。うにも配信中はしつこく語尾に、うに、を付けて喋ってますけども、今は普通に喋ってます。つまりそういうことですよ」


 その後、うにはこちらが一つ質問したら、十の答えを長々と返し続けてきた。この女、想像を絶するほどに頭の回転が速い。とにかく死ぬほどよく喋る女だ。女には、口から先に生まれてきたのか、というぐらい饒舌な者が多いが、ここまで饒舌なお喋り糞女には出会ったことがない。我が愛しの娘フラルですら、ここまでベラベラとは喋らない。幾らなんでもしゃべりすぎ、というぐらいの喋りっぷりだ。とにかく喋り出すと口が全く止まらない女、それが、自称天才Vtuberあわふくうに、という人間のようだ。

 

「Vtuberは、動くアニメキャラと同じようなものです。ですので、基本客層は、日本なら漫画やアニメやゲームが好きなオタク層、そして海外のナードと呼ばれるオタク層で、普通の人達ではありません。国内だけの人間を相手にしていたり、本場海外の兄貴達に受け入れられなければ、どんなに頑張っても、企業系でもチャンネル登録者数は100万ちょいが精一杯でしょう。その限界を突破するためには、語学を学び、世界で受けている洋ゲーを遊んでみたり・・・」


 うにが、自身が想定するVtuberのリスナー層に対し、まだ一人で延々と喋り続けている。この女の素性そのものに興味をもった某は、別の質問をすることにした。この女の過去が気になったのだ。


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