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魔王様はVtuber  作者: 伊可野万
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第5話『魔王様、人間界の魔王を知る』

 うに童が渋谷に持つ事務所ビルの一室で、某とフラルはマネージャーの二頭身からもらった事務所に所属するための契約書にサインしていた。この事務所には、うに童や、二頭身以外にも、2、30代の男女が頻繁に出入りしている。娘曰く、うに童の事務所はVtuberのあわふくうに以外にも、テレビやネット番組などの企画構成、制作を行う放送作家やディレクターなどが籍を置いている作家事務所だそうである。

 フラルは契約書を熟読し、納得した様子でサインしていたので、某も、文句を言わずサインした。フラルが納得するのなら、異論は無い。というか、書いていることの意味が解らないので、後で娘に聞くとしよう。


「ところでうに社長、何であなたほどの人が、私たち親子を碌にオーディションもせず、ほぼスカウトのような感じで即決採用してくれたんですか」


 娘は真剣な表情で、向かいの席に座る社長のうに童に尋ねる。確かに気になる部分だ。その質問に対し、うに童は長々と語ってくれた。この女は一を質問すると、二十ぐらいにして返してくる。


「大手の企業Vならともかく、ウチのような新規参入の小規模の組織に一番必要なのは俊敏性、アジリティです。肥大化し、即決が出来なくなり俊敏性を失ったマンモス企業は、ほぼ例外なく守りに入り、その結果しくじったときの対応が後手に回り、業績をどんどん落としてしまいがちです。その点ウチのような小規模のベンチャー企業みたいなところは、トップの決断を末端の社員が実際に行動するまでの速度が他の大企業よりも恐ろしく速いですから、結果につながりやすいんですよ。で、そんな小さい会社の社長であるうにが、二人をうにの1人Vtuberグループおふたりさまの一期生Vにしよう、と即決した理由は、シンプルです。それは二人とも、容姿は勿論、声が、圧倒的に、人並みはずれて綺麗で優れていたからですよ」


 と、あいも変わらず長々と語ってくれた。その後も、うに童の口は止まることは無く、容姿を晒さないVtuberにとって一番大事なのは、声、と言い切り、声がオッサンになったりオバサンっぽくなってしまって、イケボや可愛い女の子の声を長時間出すのがきつくなってしまった時が、Vtuberが引退する一つの契機である、とも話した。更に作った声ではなく、地声が素晴らしい2人に、自らは非常に惹かれた、とも話してくれた。某の事は、


「ハーラル様は、口は悪いですが、声だけなら超絶イケボで、聞いていて心地よいな、と思いました。なんというか、凄い強キャラ感のある声ですね。正直、声に惚れてます。フラル様の声は、落ち着いた声質なのに、ちょっと高音で、そこはかとなくキャピキャピとしたアイドルっぽさを感じます。二人とも、とにかく耳障りのよい、なんとなく、ずっと聞いていたいな、と、思わせる魅力的な声だと感じました。」と声を褒められた。容姿などを褒められることは多いが、声を褒められるという経験はなかったので、少々こそばゆいものがある。

 うに童は、自分の声は国民的ロボットアニメのヒロインの声優に似ていると自画自賛し、その声優が演じている忍者設定のゲームの超人気女キャラの声真似を披露してくれたが、正直某には某小学生の別の国民的アニメの女の子の主人公の声にしか聞こえなかった。

 

 その女の子から喉を調節し、地声の、やや低音の落ち着いた女声、うに曰く、オフ声、というものに何事も無かったかのようにナチュラルに戻してきた。うに童は、配信中は可愛いアイドル声で話すが、地声はこんな感じの低音系であると暴露してきた。配信中と素の声が極端に異なるため、外で普通に喋っていても身バレすることが無いらしい。どうやらこの女、配信中と日常生活で、声を別人のように器用に使い分けているようである。


「ストリーマーにとって大事な要素は沢山ありますが、全ての入り口になるのは声であり、声の素晴らしいあなた方二人を今回は選びました。今はVも戦国時代で勢いだけはありますが、まだ誕生から6年程しか経っておらず、いかんせん地盤がぜい弱で、今後の展開次第では、一気に衰退していく危険性もはらんでいます。10年後もVtuberという職業はほそぼそと存在していると思いますが、うにも含めて今活躍している人達が10年後もご健在かどうかは何ともいえない情勢です。Vtuberの多くは、自分の将来に不安を抱えながら活動してるんです。Vtuberは、広い意味で言えば芸能人ですが、一口に芸能人と言っても、テレビタレントやアイドル、芸人、役者、歌手、声優、と色々住み分けがされています。

 

 現在売れ筋のアイドル系Vtuberの雛型を作ったのは、昔日本で超人気があった、道重さゆみ、という超天才アイドルで、彼女のように、超絶かわいくて、強烈なキャラクター性と高度なバラエティ適応力とトークスキルで勝負する、というバラエティアイドル路線が、今の人気女性Vtuberがヒットするテンプレートになっているのですが、現在のYoutubeや動画投稿サイト全体の主流が、バラエティ路線から、徐々に教育系、ゲーム攻略動画、音楽やショート動画など、リピート性が高く、何度も繰り返し観たくなるようなものに急速に変わりつつある、今はその過渡期に差し掛かってきているんですよ。


 バラドル路線の女性アイドル系Vtuberは完全に供給過多になっていて、これからのVtuberはバラドル路線というよりは、教育系とか教養、頭脳で勝負していかないといけなくなってきてしまったのかな、と日頃活動しつつ、潮目の変化を切実に感じていますね。一回観たらそれで終わり、みたいな動画制作や配信しか出来ないような個人、企業Vtuberだと、この先どんどんライバルが増えてきますし、ネタ切れを起こして、生き残るのがますます困難になってくるでしょう。これからのVtuberはゲーム専門や、歌手系、ASMRメイン、雑談系、バラエティなどの企画系、教育系、イラストレーター系、楽器演奏系、と、細かくジャンル分けされ、専門化されていく、と、うには予測しています。

 

 これまで総合的に手広くやってきて、現在個人Vのトップにいる立場としては、日々活動する中で、一度ここで今後、自らはVtuberとしてどう活動していくべきか、ということを、きちんと再定義しておくべき時期かなと考えたんです。色んな事が出来そうでいて、実は何一つ完璧にはこなせないのがアイドルであり、Vtuberという職業ですが、おふたりさま、が目指しているVtuberの一つの方向性としては、声楽、観るラジオ、雑談、企画、ちょい教養系Vtuber路線です。その中で、うに達おふたりさまは、基本ラジオDJ路線で、雑談と企画メインで活動していく予定です。

 今の時代は、とにかく時間が足りません。一日24時間しかないこの世界で、普通に朝9時から18時まで仕事をしている独身の社会人等は、朝6時頃には起きて、通勤が1時間で、運よく定時ちょっと過ぎに帰れたとして、どんなに早くても、19時半前後に家に着きます。その後食事をして風呂に入ったりすれば、気がつけばもう21時前です。そこから更に自分が自由に過ごせる時間、いわゆる可処分時間は、せいぜい2、3時間といったところでしょう。

 Vtuberは、そういった多くのリスナーの皆さんの大切な時間を割いて観てもらわないといけない存在です。ただでさえ疲れている現代人に、アイドル的な役割も担うVtuberが出来る事は、癒しと元気、笑顔を届ける事ぐらいです。配信内容は頭に入らなかったとしても、うにの声を聴いているだけで心が落ち着く、みたいな人がいてくれれば、それでいいんですよ。ながら視聴でもいいんです。うにの配信を作業用BGM代わりにしてもらい、勉強中などの環境音として聴いててもらってもいいんです。そういうニーズを持つリスナーにとって、心地よい環境音でいられるために大切なのが、声の魅力、声の力になるわけです。

 

 取り立てて面白いことを狙って言うような、いわゆるボケを連発する必要性はありません。配信者というのは難しいもので、純粋に発想が面白い、人を笑わせられるような芸人みたいなトークが出来る人が必ずしも受け入れられて、人気が出るわけでもありません。声優業界は慢性的な供給過多ですので、そう遠くない未来、V界隈は今まで以上に声優志望の人、声優をかじった人、声優養成所出身者、元声優達の再就職先になってきて、きちんとした発声訓練を受けていない声の素人では、とても立ち入れない領域になると想定されます。声優を辞めて本格的にVtuberに転身する人達も、今よりもっと増えてくるでしょう。元々、Vは無名の新人女性声優達がお仕事としてやっていたりもしましたが、その流れがますます顕著になってくると思います。今後はのんきにVtuverオーディションとかではなくて、直接凄い才能がある人をスカウトしてVにしないと、大手との差が開いていく一方な情勢になってるんですよ。

 声優さんは職業上、大抵ゲーム好きでキャラが強く、更に精神的にも肉体的にも圧倒的にタフな人達が多いですから、そういう地金のある特殊な訓練を受けてきた声のプロみたいな人たちに本格的に参入してこられると、声の素人では、どんなに後から発声練習などのレッスンを受けたとしても、まず勝負になりません。そしてそういう強力なライバル達に勝利するには、純粋に、ガワや声質の良さも大事ですが、はっきり言えば早い者勝ち、先にやった者勝ちになり、最終的には純粋に自身のキャラクター性の強さの勝負になってきます。元声優だか知らないが、Vtuberとしては、このあわふくうにの方が大先輩なんだぞ、と圧をかけるつもりはありませんが、芸能界は怖いぐらいにゴリゴリの縦社会ですので、年齢ではなく経験ですから、先にやってる先輩が年下だろうが自然と敬われる世界です。とはいってもうにと二人はこれから同じ釜の飯を食う仲間になるわけですから、うにを先輩として敬う必要はありませんよ、ため口、呼び捨てで結構です。ということで、うには声が抜群に優れていて、性格的に癖が強そうな二人を一人Vtuberグループだった、おふたりさま、のメンバーとして育成することに決めました。特にハーラル様の声、凄い好きです、結婚してくださいっ」

「しれっと求婚するなっこの痴れ者めっ」

「その声で痴れ者呼ばわりされるなんてっご褒美ですっありがとうございますっもっと罵って下さいっ」


 この、うに童の言っていることも、声に対する異常な執着も罵られたい願望も難解極まりないが、どうやらVtuberというのは、声、が非常に大事な商売で、芸能界は縦社会だそうである。確かに某も、演説をしているときなど、愚民共が某の美声に聞き惚れているのを感じていた、特に女子がな。


「お二人は、この個人勢世界一、天才カリスマ系Vtuberのあわふくうに様が、責任を持ってVtuberとして一人でやっていけるよう指導しますので安心してください。ですが心構えとして、今からVtuberになる、ということを甘く考えないで下さいね。今の時代にストリーマーになる、ということは、株式会社インターネット、という、履歴書も、職務経歴書も、面接も一切必要ない、来るもの拒まず去るもの追わずな業界にいきなり突撃し、働きたいんで何か仕事下さいって言ったら仕事をもらえる会社に就職するのと同じで、そんなところにやってくるのは、はっきりいって超絶非常識、恥知らず、世間知らず、な、厚顔無恥の方が圧倒的に多くVのオーディションに参加してくるんですよ。ひと昔前は、小説家は実社会で全く使い物にならないロクデナシの歩が金に成る最後の仕事、と言われていたのですが、Vtuberやストリーマーは、小説家やブロガーなどの文筆業以上に何も出来ない、正真正銘のロクデナシ、現役引きこもりプロニートが、本当に最後に成る仕事でした、ちょっと昔は」


 流石に喋り疲れたのか、話を終わらせようとしたうに童の言葉尻を、フラルは見逃さずに捉え、会話を終わらせず、もっと積極的にしゃべらせようと的確にレシーブを返しにいった。流石我が娘、狡猾極まりない。いいぞ、もっと仕掛けろ。某は聞いているだけだから楽が出来る。


「昔は、ということは、現在は多少事情が異なっている、ということでしょうか? その辺はどうなんです、うに社長」

 

「ううん、そうですね。ひと昔前と現在では、状況がかなり変わってきていますね。この業界は、変化がとにかく速いですからね。例えば、テレビは習慣で観るものなんですが、昨今は、家にテレビがない若者達が当たり前になっていて、テレビから情報を得る、という習慣自体が急速に失われつつあるんです。人間、一度失った習慣は、そう簡単には取り戻せません。若者にとっても中高年にとっても、今は配信者の配信や動画、ネットニュース、SNSなどのソーシャルメディアがテレビの代わりに情報を得る手段になってきています。地上波のテレビニュースより、ネットやSNSの方が情報が圧倒的に速いですし、情報だけならば、テレビは完全に後手に回っている状態です。情報番組を手掛けているウチの作家達も、YoutubeやSNSをチェックせざるをえなくなってきました」


「Youtubeなどは、業界関係者が常にチェックしている場所になっているということですか」


「多少は、ですね。普通の会社の広報ですら、自分達の商品をXで宣伝するチームを設けますから。昨今は、教育系Youtuberがテレビなどに出てタレント化したり、本を出版するケースも珍しくありません。先輩が言うには、元々テレビ番組制作に関わる作家達は、ニコニコ動画全盛期の頃から、人気のあるゲーム実況動画をチェックだけはしていたそうですよ。

 ですが昔のニコニコ動画は、容姿も発想も喋りもド素人丸出しの、ゲームをすることしか能がない無職引きこもりの豚共の飼育場でしかなくて、プロとして責任ある番組制作を行う作家の立場から言わせてもらえれば、暇つぶしに観るには丁度良いけれど、プロとして使える、地上波で使える一流のタレントが出てくるような土壌はなさそうだな、という程度の認識だったんだそうです。昔、特にニコニコ黎明期はそれこそ魔界みたいなアングラ感だったんですって。

  ですが今は、中途半端にテレビに出て活動しているタレントや芸人よりも、ストリーマーの方が若者に人気があり、お金だけならたんまり持っているかもしれません。昔、日本にスター誕生という番組がありまして、今は超大物俳優になっている方も、元々は素人で、スター誕生という番組で芸を披露して時の人になり、スターになっていった歴史があります。現在は、Youtubeやティックトックが、そういう素人が自分の特技や芸を披露する場所、スター誕生みたいな場所になりつつあるんですよ。更に最近は声優さん達に、タレント声優、という新たなカテゴリーが誕生しまして、超人気声優なんかが積極的に顔出しをして、テレビやネット番組などでタレント活動をしたり、ドラマに出演する流れも出てきています」


 いい加減話を終わらせようとしていたうに童を、娘のフラルは逃さず、じわじわ追い詰めていく。相手から情報を引き出す技術に関しては、娘は天才的である。


「ほう。タレント声優、ですか。今は声優さんがタレント活動もするんですか。一体何故突然そんな状況になったんですか。一体声優って何なんですか」


「声優というか、アニメ業界特有の大人の事情も多分にあるので理由を端的に述べるのは難しいんですが、アニメや漫画、ゲームといった、日本のサブカルチャーにがっつり影響を受けた世代が3~50代前半になり、社会組織の中枢に座り始めた、という、世代の変化が要因の一つには考えられるでしょう。声優は若者に絶大な人気がありますので、今は下手な芸能人を使うぐらいなら、人気のある声優、大物声優をテレビに出した方が、若い人に番組を観てもらうきっかけになり、数字が狙えるっというのも多少はあります。特にガンダムに出演するような声優は、それだけでスター扱いで、業界ではガンダム声優として特別視されていますからね。

 テレビやアニメ、音楽などの業界関係者の間では、昔も今も、ガンダム、が共通言語の一つになっておりまして、ガンダムを語れない、ガンダムの面白さを理解できないような人間は、場合によっては仕事を貰えない、仕事に差し支える、というレベルに、ガンダムは、業界人、特にテレビ制作に関わる作家達にとっては義務教育に近い物になっているんですよ。ですので、今から本気で芸能人になりたい、例えばVtuberになりたい、と思ったら、まずはガンダムを全シリーズ、全話もれなく観て、ガンプラも沢山作ったりして、ガンダムをしっかり語れるようにならないと駄目ですね。

 テレビ局の大物プロデューサーとか、著名なアニメ監督やゲーム制作関係者、音楽関係の大物プロデューサーなんかにはガンダム好きが非常に多いですので、そういう人達に気に入られるためにも、本気で芸能界で成功したい、仕事がしたいと思ったら、まずはガンダムを勉強するところから始めないと駄目です。声優さんは男性女性問わず、皆ガンダムの主人公を演じることを一つのキャリアのゴールにしていますので、大体人気のある声優は、男女問わずガンダムにはそこそこ詳しいんです。その辺の潜在的なタレントとしての地金の差も、昨今の声優のタレント化は関係しているかもしれませんね。」


 恐らく声優のタレント化した事情を深く知っているであるうに童は策士であり、娘の追及はやんわりとかわし、話の論点をロボットアニメにすり変えてきた。まあ、いいだろう。世の中には知らない方が幸せなこともある。フラルもあえて大人の事情に深堀りはせず、ロボットアニメの話題に乗っかっていった。よし、それでいい。 


「ガンダムって、それって確か凄い昔のアニメですよね。今の若い人にも人気あるんですか」


「それがもう、今でも滅茶苦茶人気なんですよ、フラル様。それ以前に、ガンダムの主力商品はアニメではなく、プラモデル、通称ガンプラです。SDガンダムという子供向けのプラモデル展開なども積極的にしていますから、小学生でアニメは全く観たことは無くても、ガンプラを通してガンダムの機体の名前ぐらいは知っているっという小、中学生は多いんですよ。

 ロボットは、ガンダムに限らず、いつの時代も日本人にとっては浪漫の象徴ですからね。20代の女性でガンダムアニメをリアルタイムで全く観たことがなくても、何故かガンプラに異常に詳しいオタク女子とかも普通にいますしね。うにもガンダムのアニメはリアルタイムでは観たことなかったんですが、オタクなんで、ガンプラは高校生の時に沢山作ってましたし、スパロボっていう色んなロボットアニメのロボットたちが戦うシュミレーションRPGを熱心に遊んでいました。特に今の30代から50代前半ぐらいの男女は、ゲームやアニメ、ジャンプ黄金期漫画の影響を色濃く受けて育った世代です。サブカル文化には寛容で、女性Vtuberにとってはメインの客層でもあります。うにのチャンネル登録者、男性の中高年の割合が凄い高いですからね。独身のオタクおじさんは、お金だけは凄い持っていて、かつ金払いも凄ぶる良いので、アイドルにとっては常に太客です。女性アイドルオタクは、女性アイドルを応援はしてくれても、同性にはあまりお金を落としてくれないんですよ。代わりに池袋にある乙女ロード近くのアニメイトとかでグッズを買ってくれたりはしますが。池袋は乙女の聖域ですからね。うにもよく池袋に足を運ぶんですよ。ま、男性おじさんのアイドルオタクは推し増しとか言う都合のいい言葉を使って、推してるVが休んでる間に公然と他のVのとこへ行って浮気しまくる、という致命的な欠点もあるので、依存するのは危険ですがね」


「そうだったんですか。でも、Vtuberは声優さんとは違って、ただのイラストですし、いくらガンダムに詳しくなっても、地上波のテレビに出演するとかは、難しいんじゃないですか」


「会社内でも、釣りとか共通の話題で上司と部下の距離が近くなって仕事が円滑に進むようになるというケースは多々あります。ガンダムに詳しくなったことで、ガンダム好きのプロデューサーやテレビマン、作家さん達に気に入られて、テレビ出演の話を持ち掛けられる可能性はゼロじゃありませんよ。更に、声優さんは地上波のテレビ番組でナレーションをしたり、バラエティで天の声役など、声のみの出演をすることが結構多いんです。だからこそ、Vtuberが地上波の番組に出演するためには、これからますます、声、という武器が重要になってくるんです。そもそも素顔を見せなくていいVtuberは、顔出しをして活動する配信者達よりも、美麗なイラストのみですから、単純にテレビ的に紹介しやすい、という側面があります。テレビに出るとなると、どうしても、見た目、というのは切っても切り離せない要素になってきますので、直接スタジオにゲストに呼んで番組収録とかになると、控室を用意して、それから更に事前に打ち合わせもして・・・と、色々手間がかかるんですが、Vtuberなら事務所に許可取ってイラストを紹介するだけで済みますし、今ならテレワークも出来ますから、番組を制作する上での製作コストを大幅に削減できますので、地上波より予算が少ないネット番組辺りでは、Vは徐々に重要な存在になりつつあります。ふなっしーみたいに、マスコット的な扱いも可能ですしね。VtuberはVtuberとして、中の人なんていませんよ、という、着ぐるみタレント路線で勝負していけばいいんです」


「着ぐるみタレント路線ですか。つまりガチャピンはガチャピンで、中の人なんていない、ということですね。でもガチャピンって、意外と多彩ですよね」


「ええ。ガチャピンは、多彩です。だからこそ、ガチャピン路線のVtuberは、何か一芸に秀でていないといけません。もし本当に何の才能も知識も無いズブの素人が、いきなりガワだけを被ってYoutubeでゲーム配信なんぞを始めてみたとしても、宣伝しない、肩書きもない、実績もない、何の知識も武器もない、特にゲームが上手いわけでもない、声がオッサン、オバサンな人では、その人の配信は、殆どまともに観てもらえないでしょう。

 昔は、賢くない人が賢くないことをやったり賢くないことを言って、賢い人たちに嘲笑され、賢くない子供達に受けて、本当にズブの素人でも人気者になれる夢のある場所がニコ生やYoutubeだったんですが、今は大分事情が異なります。そういう路線は、地上波のテレビに出られなくなった芸人や文化人、言論畑の人達の独壇場になりつつあるんです。

 そんな中で、素人がYoutube等の配信サイトで成功してスターになるためには、歌、車、カメラ、アニメ、ゲーム、歴史、映画、美術、絵画、仏像、小説でもラノベでも、数学でも物理でも学校のお勉強方法でも、とにかく何でもいいのですが、特定の専門分野に深い見識を持ち、その道のプロも唸らせるぐらいにキッチリ理路整然と語ることが出来るような人材にならないと、これから先、成功するのはますます難しくなってくるでしょう。例えば国民的RPGであるドラクエが大好きで異常に詳しい、というのも、Youtuberにとっては武器になる、今はそういう時代です。ですがそういう武器が一切無い、ちょっと副業としてお小遣い稼ぎしたい程度の気持ちなら、配信者の動画の切り抜きを作成するとか、著作権を無視して公式が上げたゲームのPVやら、週刊連載漫画の絵やらの情報を要約して動画にして拡散させたり、あるいは炎上系Youtuberみたいに、人に嫌われるような後ろ暗いハイリスクローリターンな商売をしたり、いつ企業や出版社から著作権侵害他の申し立てを受けて収益化が停止、剥奪、最悪訴えられても文句いえないような、危ない綱渡りをするぐらいしか出来ないのが、今のYoutube他の動画界隈です。何の武器も持たない持たざる者がYoutubeでスターになる、という夢が見られる時代は、もう終わってますし、そもそもそんな時代なんて最初からなかったかもしれません。今、日本一のYoutuberであるヒカキンさんも、元々はボイスパフォーマーで、今日の地位を築く前は、ボイスパフォーマンス動画をYoutubeに延々上げ続けていた人で、明確な武器を持っていた人ですし、持たざる者、ではなかったんですよ。結局、世の中何の才能も無い人は、何をやっても駄目なんです。才能がない人間の努力ほど、時間を無駄にするものはありません」

「そうだったんですか。なんだか、非常に厳しい現実があるのですね」


 うに童から自分が知りたい情報を引き出せたことに満足したのか、フラルはそれ以上会話を続けようとはしなかったので、今度は某がうに童に仕掛けることにした。


「うに童、今日は突然人が変わったように色々厳しいな。というか、さっきから聞いてれば、やたら、賢くない、だの、ド素人、だの、糞雑魚ナメクジウジ虫銀蠅、だの、暴言を吐き散らかして、お口も悪いぞ。ひょっとして、貴様、多重人格者か何かか」


「流石に糞雑魚ナメクジウジ虫銀蠅なんてひどいことは言ってませんよ、話を盛らないで下さい、ハーラル様。2人にとって、昨日までのあわふくうには、ただのどこにでもいる、顔も、声も、性格も、凄く素敵なキュートな、世界一の個人勢天才Vtuber、でした。ですが、今日からのあわふくうには、プロデューサーとしてお二人をプロデュースする立場です。今は、現役個人勢世界一のVtuber兼、敏腕Vtuberプロデューサーとして、ネット界隈を取り巻く厳しい現状を説明する立場で話しているんですよ。まずはそれを理解して下さいね、ハーラル様。そして理解したらうにと結婚して下さい、フラル様の新しいママになりたいんです」


「理解しました、ママ」


「ママ、とか言うな、娘よ。一応理解はしたが、結婚はしないし、フラルに新しいママは要らない。Vtuberプロデューサーというのは、何だか意味がわからんが、まあいいだろう。で、某達はこれからどういう研修を受けるんだ、申してみよ」


 某がさらに喋るように促すと、口から先に産まれてきたと思しきうに童は、再び饒舌に捲し立て始めた。


 まさにお口が止まらない、超絶マシンガントークをするお喋り糞女。これが世界一のVtuber、とやらの話術か。感心すると同時に、某は恐ろしさも感じていた。なるほど、人間界にも、言葉で人の心を幻惑させる、魔王と呼べる存在がいたのか。世界の歴史上、美しく流暢な強い言葉で人を操ろうとした政治家が、真に英雄扱いを受けた事例は極めて少ない。悪魔は皆饒舌で、天才的に口が上手い。弁護士や組織の上に立つ人間、管理職にはサイコパスが多いという。このうに童も、本人は否定するだろうが、サイコパスの可能性が高い。サイコパスの悪魔は口が上手い。だから皆、悪魔を悪魔であると見抜くことが出来ず、悪魔の言葉に踊らされ、心を気持ちよくされ、騙されてしまうのだ。


 無知の知を産み出した偉大なる雄弁家ソクラテスも、最後はその饒舌さが災いし、人心を惑わせた、として処刑された。言葉で人の心を変えようとする者に、真に誠実なる者は案外少ない。真に誠実なる者は、皆言葉ではなく、行動を重んじるものだ。大事なのは、その者が何を言ったかではなく、どのような生き方をしてきたか、どのような行動をしたか、日ごろの行い、生活態度である。昔アメリカのクリントン大統領がホワイトハウス内で女性と不適切な関係をして物議を醸したが、政治家に限らず、どこの世界も、最後は人柄が一番大事なのは変わらない。アメリカ人にもっとも尊敬されている大統領カーターは、ソ連のアフガニスタン侵攻や、その直後のイランイラク戦争と、時代の流れや不運が重なり、政治家としては能力を発揮できなかったが、代わりにその圧倒的な人間力で人道的活動を行い続け、ノーベル平和賞を受賞し、世界平和に貢献した偉人でもある。


 口は災いの元と言われる所以だが、ことVtuberにという職業では、逆にその話術が強みになるのであろう。口先だけはいっちょ前だが心底ロクデナシの糞雑魚ナメクジいきりバッタ、あわふくうに、という自称女性Vtuberプロデューサー。中々に興味をそそられる存在だ。



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