泊まろう
シオンと共に来たのはよくある宿屋。
俺もしばらくはここでお世話になるから手伝いをしないとな。
「私達の部屋は207番、間違えないでね」
「流石に間違えないって」
「ちなみに、風呂有ルームサービス無しだよ」
つまり、住はあるけど衣食は個人でどうにかしろって事か。
三人で部屋に入ると、セリカは荷物を乱雑に投げベッドに横になる。
「ベッド割りはどうする?」
セリカが聞いてくるが、部屋主である二人が使う権利があるだろうな。
「俺は別に床でも構わない」
「えー、私はコーディと一緒がいいな」
「セリカちゃん、こういうのは幼馴染に権利があるんだよ」
シオンはまだしもセリカは初対面の男と一緒に寝ようとするなんて不用心すぎないか?
「駄目駄目、俺は住まわせてもらってる身だからそんな事は出来ない」
「でもシーツや毛布を借りようとするとお金がかかるし……」
「出世払いは受け付けて無いよ。私達もカツカツだしね」
シオンとセリカが露骨に逃げ道を塞いできたな……。
「……分かった。シオン、久しぶりに寝ようか」
「え」
「やった!」
唖然とするセリカにガッツポーズをとつシオン。
……セリカ本当に初対面だよな? どうしてここまで俺に執着するんだ?
少し様子を伺うか……。
「風呂入ってくる」
「私もいいかな⁉」
セリカが予想通り声を掛けてくる。
「いいよ」
「ホント⁉ っしゃー!」
「待って待って! 私も!」
さらにシオンも同調するが……すまない、今はセリカに用があるんだ。
「シオンは後で添い寝してやるからダメ」
「そ……そんなぁ、私幼馴染だよ……」
項垂れている彼女を放置して俺達は風呂場に向かった。
昔は風呂というものは存在していなかったが、魔法陣の存在がそれを生み出した。
やり方はシンプル、湯船にある空気中の水分を収集して水にする魔法陣を起動させ水で浸す。
次に熱を集めて下部を熱する魔法陣を起動させれば完成だ。
ただ欠点があるなら湯船の周りの気温が落ちる上、空気が乾燥してしまう所だけどな。
先人の恩恵で英気を養えると思いつつ腰にタオルを巻いただけの俺は風呂を完成させた。
「お待たせ」
「ああ、こっちも出来……」
振り返るとセリカはバスタオルで体を隠している姿でいた。
……結構あるな。バスト。
「……私に見惚れた?」
「……うん」
ここは正直に答えておこう。
「何だったらタオルを取っても……」
それ以上はいけない。
「いやそれより聞きたい事がある」
「何?」
「とりあえずは、湯船に浸かりながらでもどうだ?」
「そうだね」
俺の言葉に従ってセリカと俺は二人並んで入る。
こうやって同年代の異性と入るのは、セリカが二人目だな。
「どうして俺に拘ってるんだ?」
「へ?」
「だって一緒に寝たいだとか、お風呂に入りたいだとか。俺達、初対面だろ?」
「なんだろ? 雰囲気がお父さんと似てるからかな?」
「もしかしてお父さんっ子?」
「あはは、よく言われてた。それに私の武術もお父さんが教えてくれたし」
「だから武闘家に?」
「そんな所かな」
「そうなのか。折角だしお父さんを超える勢いで頑張りな」
「モチロン!」
何だ家族と似ていたからか。……それでもここまでの関係に行くのはおかしいと思うけれど……。
「じゃあこっちからも質問。コーディってこういうの慣れているの?」
「シオンで鍛えられたからかな?」
「え⁉ ……参考までに聞くけどいつまで一緒だったの?」
「俺今18だから……四年前が最後だな」
「ウソでしょ……」
セリカがまたしてもショックを受けているが、そういうものじゃないのか?
その後、風呂を出た俺はシオンに睨まれながら眠りに着いたのだった。