奴隷を見てみよう
俺達三人がやって来たのは、街の西側にある小さな道具屋。……から離れた路地裏。
俺はセリカの顔に包帯を巻いていると、セリカが聞く。
「うう、苦しい」
「少しの間だから我慢しろ」
「こっちは準備出来たよ」
手を止めずに振り返ると、目を隠す仮面を付けたシオンが立っており俺もその姿の感想を述べる。
「おお、似合ってる」
「そうかな? 仮面に似合ってるっていうのもおかしいと思うけれど……」
「よし出来た」
セリカの顔に包帯を巻きあげ、俺も目を覆う仮面を付けた。
「身バレ対策とはいえ、これで大丈夫かな?」
不安げなシオンに俺が答える。
「包帯だったら向こうも外せとは言ってこないだろ」
「だったらみんな包帯でもよかったんじゃないの?」
「それはそれで不自然だろ。相手に○○の仮面の人って印象付けさせれば、感づかれる確率は低くなる。だから、俺とシオンの仮面も違うやつにしたかったんだが……」
「私、コーディくんとお揃いが良かったから……」
その横で俺はミューの台詞を思い返していた。
『奴隷にされた友人の名前はアリシアナ・ノール。赤の短髪で歳は貴方達と同じです。入場方法など詳しい事は渡した手紙にありますので、必ず読んで下さい』
「うし、行くか」
こうして俺は二人を引き連れて、件の道具屋へ向かった。
「いらっしゃい」
ドアを開けて俺達を迎えたのは、カウンターで頬杖を突く不愛想な店主。
それには何も答えず、俺は商品棚に置かれている置物ほどの小ささをした肉体美が特徴的な男体像を見つめながら一言。
「店主」
「何だ」
「最近儲かっているか?」
「客に教える訳が無いだろう」
「子供は元気か? 確か、男2人、女1人だっけか?」
「ああ、特に何も無い」
「話は変わるが、飛び切りの酒は提供していないのか?」
「……銘柄と度数、本数は何本だ?」
「ミセスアンデッドの68。本数は3で」
これは一見、支離滅裂な会話に聞こえるが、紹介状に載っていた暗号だ。ここで一連のやり取りを間違えずに出来ればこの男、店主が闇市へ案内してくれるはずだが……。
「……会員証、ないしは紹介状を」
店主は先程の不愛想な態度が消え、紳士的にお辞儀をすると入場券代わりの代物を要求してくる。
「ある」
「……」
招待状を渡すとそれを開いて睨んでいる。本物かどうか吟味しているのだろうか? ちなみに先程話した本数と言うのは入場する人数の事だ。
「承りました」
店主は俺達をカウンター裏に連れていく、カウンターの裏には錠前が付いた床板がありそこを開けると地下への階段が繋がっていた。
「おお……」
「こちらへ」
言われるがままに階段を降りて、木と金属の重いドアを開けるとそこは闇市だった。
棚には普通の店では見ないであろう商品、毒々しい液体が揺らめく薬瓶、禍々しい気を放つ剣、希少生物であろう皮、檻の中には生け捕りにされた希少動物。……そして人間。
「ローラン様、本日は何をお求めで?」
ローランとは招待状に書かれていた人物の事だ、つまり今の俺達はローランという人物が二人を侍らせて闇市に来たという訳だ。この際だし、少しキャラを変えるか。
「ふむ……奴隷を見せてもらえるかな?」
「ほぉ、何故に」
「流石にそれは……こうやって身分を隠して来ているのですから」
「ハハハ、それもそうですな」
店主は笑いながら、奴隷が並んでいる檻の前にまで俺達を連れてきた。
ふとセリカが俺の裾を軽く引いて、耳打ちをする。
「コ……ローラン様、この人じゃないかな?」
セリカが指差す檻には赤髪の少女が入れてられており、俺はそれを見て問題の人か確認する。
「いや、髪が少し長い……」
「もう名前を聞いちゃう?」
「……確実に怪しまれるから不採用」
小声でやりとりをしていたがシオンには分かったらしく、彼女が質問をする。
「店主さん、オススメの娘っていますか?」
「それでしたら彼女とかどうでしょう」
店主が紹介した奴隷は赤髪に短髪の少女。
「名前は何て?」
「アリシアナ・ノール。まあ気に入らなかったら改名も出来ますよ」