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宿屋に戻って

 今日の依頼二つをこなして拠点である宿屋に戻った俺達。

「ただいまー」

 セリカが誰もいない部屋に入りながら挨拶し、俺とシオンもその後について入る。

「つっかれたー!」

 セリカは自分の鞄を放り投げベッドに横になる。

「さてと……」

 俺は席に座り、小さな布袋の口を開くとそれを逆さにする、すると中から金、銀、銅貨の色とりどりの硬貨がテーブル上に散らばる。

「二つの依頼をこなして、八百ゼンか……」

 ここの宿屋がルームサービス無しで一部屋、百ゼン。それに加えて食費に武器防具の整備、道具の用意……。あまり無駄遣い出来ないな。

「食材を自分で用意するのも立派な節約だよ」

「わっ!」

 後ろからシオンに声を掛けられた上、心を読まれて驚きつつも振り返る。

「分かったのか?」

「幼馴染だからね。……そんなコーディくんには……」

 シオンがウキウキした様子で鞄から肉塊を取り出した。

「これ!」

「これは……アクシツボアの肉か?」

「そう、採取の最中に狩ったんだよ」

 アクシツボアは豚が魔物化した存在と言われている程に、豚に似た体形をしており栗色毛に牙が生えた魔物だ。

 食べれる部分も多く、皮も牙も用途があるからか、貧乏戦士の主食なんて言われてる。

 豚肉なんて高級品手出しできないからな、俺も駆け出しの頃は狩って食べていたな。

「アイツのタックル強いし、大変だったろ?」

「ううん、アクシツボアは歌に反応する所があるからおびき寄せてタックルしてきた所を木の幹に頭を打ち付けさせて倒したから」

「え? そうだったのか?」

 歌で反応? 初めて聞いたぞ、そんなの。

「待って、コーディくん。今までどうやって狩ってたの?」

「いや、迫って来た所を居合でズバッと……」

「……逆に凄いと思うよ、それ」

 もっと早く知っておけば、無駄に神経使わなくても良かったのか……。

「セリカちゃん、アクシツボアの肉があるけど、今日は何がいい?」

「ステーキサンド!」

 嬉しそうなセリカは一言、力強く答えシオンも返す。

「分かった、ちょっと待っててね」

「俺も手伝うよ」

 このまま何もしないのは俺が納得しないからな。

「本当? ありがとう、それじゃ台所紹介するよ」




「ここだよ」

 シオン一緒に来たのは、屋外の共有キッチン。

 と言っても今は人がいないからか、実質貸し切り状態だけどな。

「台所は共有か」

「雨の日は使えなくなるのが欠点だけどね」

 だとしてもこういう場があるのはすごく嬉しい。

「それで、料理の腕は?」

「問題無し、人に出せる物なのは約束するよ」

 俺は釜戸に薪を、シオンは調理台に肉を乗せて腕まくりしてアピールをする。

「いつもしてるのか?」

「うん、節約したいからね」

「それにね、私達ある目的があってお金貯めてる所だからさ」

「目的? ギルドを持つとか?」

「う~ん、少しズレているかな」

 俺が釜戸に薪に入れて火を付けている後ろでシオンが包丁を片手に語る。

「家を買う!」

「家か……」

 それもスケールがあるな……。

 そう考えていたら、シオンは包丁で肉を切りながら話しかけてきた。

「それじゃ、次はコーディくんが秘密を教える番だよ」

「……後からそれを言うのはズルくないか?」

 何を話すかな……。

「それじゃあ、俺が金剛爪牙で印象に残った依頼を……」

「そっちじゃなくて」

 何を? そう聞く前にシオンは作業の手を止めて話す。

「前のパーティで何かあったの?」

「……」

 黙り込んでしまう、シオンの軽蔑は見たくない、その思いが俺の口を封じ込める。

「私、コーディくんの幼馴染だよ? それにお揃いがいいし」

「お揃いと関係があるのか?」

「コーディくんの痛みもお揃い!」

 シオンが屈託のない笑顔で話す姿に俺は口が自然に動いていた。

 ホープダイヤモンドのせいで解雇された事、その際にメンバーから嫌われていた事、このままいたら二人を不幸にしてしまうのではないか、それらが独りでに出ていた。

 火も着いて、釜戸の上に鉄板を置きながら話す。

「それでさ、噂話を信じていない訳じゃない。けれど、ホープダイヤモンドの問題が解決するまで一緒にいるべきじゃないと思うんだが……」

 ダンッ!

 唐突な大きな音で俺は一瞬すくんでしまい、その音源を見るとシオンが包丁をまな板に叩きつけていた。

「何それ……」

 シオンの声色が低くなった?

「ねぎらいも励ましも無くて追放⁉ 性格悪い人が多いよ! そのパーティ!」

 そ、そこまで怒ってくれるのか……。と言っても……。

「と言っても、俺にも責任があるからな……。でしょ?」

「ここまで来ると怖いな」

 どうやらシオンに隠し事は無理みたいだ。俺の考えを一瞬で見破った上、口に出したんだからな。

「だってコーディくんがそのパーティをSランクにまで上げたのは、他の誰でもないコーディくんだよ! そんなの恩を仇で返す仕打ちだよ!」

「いや、皆のおかげじゃないか? それに、嫌われるのには俺に否があるとしか」

「そんな悪質パーティなんて離れて当然! 決めた!」

 シオンは包丁を手放し、俺に向かってくると抱き付いて来た。

「私が絶対にコーディくんを守るから!」

「そ、そこまで……」

「私は喜びも悲しみも怒りも痛みも全部お揃いにしたいの! だって……」

 抱きしめたままシオンは俺に思わぬ言葉を放った。

「コーディくんの事が好きだから!」

 シオンの告白に俺は自分でも顔が赤くなっていくのが分かって行った。ここから先の言葉を出そうにも俺の中では、本当に彼女で良いのか? 俺にも彼女にも他に人がいるのでないのかと考えが渦巻き出し、辛うじて出せた言葉は。

「俺は……」

「答えはまだ先でもいいよ。けれど私の言葉を忘れないでね」

 俺の腹に顔を埋めながらそう言って離れると、普段の態度に戻り笑顔で話しだす。

「さっ、夕飯作っちゃお。火の用意は出来てる?」

「ああ……」

 火も着いたし火力も申し分なし、いつでもステーキを作れる。

「バッチリだ! そっちも用意は?」

「いいよ。始めよう!」

「おう」

 さっきまでの空気が噓のように消えて、俺達は普段通りの態度で夕飯作りを始めるのだった。

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