撫でてあげた
セリカの治療をした後、俺達は時間に余裕があるってんで、今日はもう一つの依頼をこなす事にした。その内容は薬草、キノコ、魚の収集だ。
近場の森にやって来た俺達は、多少だがさほど驚異的ではない魔物の相手をしつつ収集に勤しんでいた。その横でセリカが喋る。
「何でこういう収集依頼ってあるんだろう。魔物の出ない地域でも取れるだろうに」
「養殖が嫌いな人や人の手では育てづらい物があるからだろ」
セリカの言う通り、薬草は街でも取れる。何だったら草花や魚の養殖場だってある。
だがそれは育成が簡単で数が簡単に増やせる物だけだ。それに自然の物しか使わないこだわりを持った人だっている。
「さっき氷晶樹のジェルを使っただろ?」
「うん」
「その氷晶樹も簡単には育てれないし、用意するもの難しい」
「そんな貴重な物、よかったの?」
「また作ればいいだけだしな」
そんなやりとりをしつつ、目的の物を二人で探す。……そういえばシオンはどこ行った?
「コーディくーん」
「シオン、首尾はどう……」
シオンの呼ぶ声を聞いて振り返ると、両手で抱えられる程の薬草と調味料になる草を持っていた。
「多ッ⁉ どうやってこれだけを?」
「私、こういうの探すの得意だっての忘れちゃったの?」
「ああ! そういえばそうだった!」
村で過ごしていた頃、シオンは採取が得意で大人顔負けだったな。
「あ、セリカちゃん。それ似てるけど、毒草だよ」
「え? そうなの?」
「うん、根本部分が赤いでしょ? それは薬草モドキで薬草の治癒成分が腐るとそうなっちゃうんだよ」
「へぇ~、じゃあこれは捨てなきゃダメ?」
「ううん、熱湯に弱いからちゃんと湯がけば食べれるよ。……味は保証できないけど」
「……美味しくないんだね」
シオンは本当に採取には右に出る物は無いな。
「凄いな」
「コーディくんは得意じゃないの?」
「いやー、どちらかというと討伐をメインにやっていたからそういうのには疎くて……」
「これからは私が色々と教えてあげるよ!」
「うん、よろしく」
息まいているシオンに俺は頷いて答えた。
「それじゃ、出してくるね」
「ああ、頼んだ」
ギルドに戻り提出をセリカに任せて、俺達は外で待つ事になった。
「シオン、お手柄だったな」
「撫でで」
「え?」
「撫でで」
頭を出してそれだけしか言わないシオンに俺が予想した事を聞く。
「もしかして……妬いた?」
風呂の件、やけどの件、思えばセリカに付きっきりだったからな。
「何で察しはいいのに、気づくのは遅いのかな?」
「分かった分かった」
俺は彼女のリクエストに応えるべく頭に手を置く。
「ん」
そのままゆっくりと子供をあやす様に左右に撫でる。
「よくできました……っと」
「えへへ……」
「サービスしようか?」
妬かせたこともあるしな。
「うん!」
シオンは頭を出したままで元気よく答えると、こうやって撫でている内に村で過ごしていた頃の思い出が色づき出し、俺達は過去に浸りだす。
「昔、よくこうやったよな」
「うん」
「何かあるたびに褒めて欲しくて頭を出して……」
「コーディくんの手、すごく安心するから」
「それもよく言っていたよな」
「何だかよかった。ここも変わってなくて」
「そう言ってくれて嬉しいな」
折角だし、顎もやってやろう。そのまま手を頭部からゆっくりと頬、顎へと進めて行く。
「あっ……」
今嬌声だした? ……まあいいか。せっかくだから顔も揉んでやるか。
柔らかい肌をほどよい強さで揉みしだいていく。
「んん……」
目を瞑って喉を鳴らしているという事は嬉しいって事だな。
「何してるの」
シオン以外の声が聞こえ、俺達が横を向くと呆れ顔のセリカが立っていた。
「ああ、いやこれは……」
「へへ、撫でてもらってたんだ」
「へー、羨ましいな」
「でしょ? これも幼馴染特権だからね」
シオンはセリカに自慢気に言って再び、俺の方を向く。
「ん」
シオンが続きと言わんばかりに顔を出してくる。
「帰るぞ」
「え?」
「充分したし、次の機会にな?」
「あ、終わりなんだ……うん……」
落ち込んでいるみたいだが今回はここまで、機会があったらまたしてやってあげようっと。