追放された
「申し訳ないが、君にはここを辞めてもらう」
「え?」
夕方、パーティメンバーが俺が泊っている宿屋の一室に来ていた。
しかし、第一声に放たれたのは解雇宣言だったのだ。
言い出したのは俺のパーティのリーダー、騎士のライル。
「な、何でだよ!」
「気にしていないなんて言わせないぞ」
「これか……?」
俺は思い当たるそれを出して見つめる。
「ああ。それのせいで僕達のパーティは滅茶苦茶だ!」
「けれど、どうしたらいいんだ⁉」
「まずは自分の出来る事を考えろ。いつも言ってるだろ!」
「それで解雇か……」
これごと俺を追放しようって事か……。
「大体……」
ライルが言いかけた瞬間、他の人も続けて話しだす。
「天命にさえも突き放された人とは居たくはありませんから。……憐れな人」
魔導士のミレイユの憐れみ……。
「オレも荷物持ちはそろそろいらないと思ってたんだよなー」
シーフのオスカーの嘲笑……。
「私よりも弱そうだし。田舎にでも帰って農業に精を出してみたら?」
武闘家のヘレンの軽蔑……。
「俺はな! 働かない奴が大嫌いなんだよ!」
戦士のガストンの罵倒が飛ばされるが、俺は僅かにも抵抗をする。
「それは皆が戦線に出させてくれなかったからだろ!」
「出したらどうなるか分かるだろう?」
俺の反論にもライルが淡々と答え、続けて話す。
「本当はこんな事を言いたくは無かったんだけど。こうでもしないと理解出来ないと思ってね」
最後にライルからの一言。
「疫病神なんだよ! お前は!」
止めの怒鳴りで俺は嫌われいる事を悟った。
結果が無くても努力姿だけで評価されるのは、どの界隈でも無いんだな。
「分かった」
俺は深々と頭を下げて一言。
「お世話になりました」
「それと今まで使ってきた物は全部置いて行ってもらう」
「え?」
「当たり前だろう? 誰のおかげでここまでやって来れた? それが君に出来る最後の善行だからさ」
そう……だよな。
「分かった」
「明日の朝には出て行ってもらうからな」
ライルは俺の肩を軽く叩くと部屋から出て行く。それに続くように他のメンバーもついていく。
「ただただ憐れで可哀想な人……」
「自分を剣士だと思い込んでいる俗物君♪」
「女にも勝てないゴブリン以下の類人猿!」
「次は働けよごくつぶしヤロー」
皆好き勝手に蔑称を吐き捨てて出て行く。
「……」
ドアが閉まったと思うと再び、開かれてそこからオスカーが顔を出す。
「ちなみに今の蔑称、オレが全部考えた」
それだけ言うとドアを閉めて、オスカーはドア越しからでも分かる笑い声を上げながら去って行った。
「……」
言葉が浮かばずに俺は黙って荷物の整理を始める。
そしてその日、俺は夕飯も取らずにベッドに横になった。
「ん……」
気が付くと窓から朝日が差し込んでいた。
知らない内に眠っていたのか……。
テーブルの上には昨日の内にまとめておいた俺の荷物が入った鞄に加え、パーティの脱退通知書が置かれている。
律儀に書き込む内容は殆ど書かれており、後は俺の名前を書くだけだ。
「……」
だがあれが原因だとするなら俺が責められるのは当然の事かもしれない。
そう思うと、これに名前を書くのに不思議と抵抗は無かった。
『コーネリア・ランドル』
通知書を鞄に詰めて手にすると部屋を出る。
朝も早い、叩き起こすわけにもいかないし何も言わないでいいだろう。
こうして俺はSクラスパーティ『金剛爪牙』を抜けたのだった。
「クソッ……」
広場を歩きながら俺はポケットから一個のクリスタルを出す。
傷どころか曇り一つ無い、水浅葱に光る六角形のそれが大半の人には美しい宝石にしか見えないが、俺はそれがひたすらに恨めしく思えた。
「全部これのせいだ……」
思えば半月前、通りを歩いていたら露天商の人からタリスマンと称して無理矢理押し付けられたのが、全ての始まりだったな……。
これを受け取った日から俺の運が悉く落ちて行ったのだ。
例えば、宿屋に止まったと思ったらアンデットの巣窟だったとか、一日にスリに三回もあったとか、戦闘中に何も無い所で転ぶ、数え切れない程の不運に巻き込まれて何度も死にかけた。
ハッキリ言って全員が生き残っているのが奇跡なぐらいだ。
手放しても気が付けば手元に戻って来ているし、呪いの類だと確信して祓ってもらおうにも、教会もこれは無害だと言って相手にしてくれない。
そして昨日、俺は仲間達からも愛想を尽かされ追放されたという訳だ。
パーティを解雇されたという事はまず最初にギルドにその件を伝えなければいけない。
俺は迷わずギルドへ向かった。
ギルドではパーティの結成解散、加盟脱退、依頼の達成など、冒険者には必要不可欠な施設だ。
ギルドへのドアを開けると俺は迷わず受付前にまで来て、鞄から縁を切る為の紙を出す。
「本日はどうされましたか?」
聞いて来た受付嬢に渡すと驚いた顔を見せる。
「金剛爪牙……ってあの⁉」
「ええまあ……」
俺はしどろもどろになるが、干渉を避けたかったのか受付嬢は話を切り替えた。
「……ああ! 確かに承りました! 今後はどうされますか? 別のパーティに入る事も、自分が作る事も出来ますが……」
そうは言われてもまだそこまでのプランは考えていないからな……。とりあえず決めてないと言っておこう。
「そうですね……」
「あれ? コーディくん?」
かつて聞いたその声に俺は振り返った。