再び教会に行くまでに何があったか
ここ最近、ずっとリアはご機嫌だ。
いつもの商人が、リベルとその家族に宛てたある手紙を届けた日から。
その手紙がこれ。
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エクレール領都教会より
お気づきかもしれませんが、先日リベルさんが参加された6歳の礼拝は、とある問題により中断されたことにより、女神様へのお祈りがまだ行われておりません。
つきましては、前回参加された子供たちの健やかな成長のため、あらためてお祈りの機会を設けることといたしました。
街中に住む子供たちには、それぞれの機会に教会にてお祈りするよう通達しておりますが、遠方のリベルさんにつきましてはそうもいかないかと思います。
教会の予定によりますと、次回の礼拝に血縁者であるリアさんが参加されるとのこと。
血縁者とご一緒にお祈りすることで、女神様もよりお喜びになられるでしょう。
教会としましてはリアさんと一緒にお祈りされることをお勧めいたします。
準備等がありますので、もし次回の参加が難しいようでしたら、この手紙を運んでいただいた方にその旨をお伝えください。
あなたたちに女神様のご加護があらんことを。
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手紙を読んだゴウンとムウン。
当日リベルに予定はなく、他に断る理由もない。
なので、リアと一緒にリベルはもう一度教会に行くこととなった。
言ってみれば、地味に断りづらい文面と条件の手紙を作成した教会の作戦勝ち。
文面としては勧めているだけ。だがその場での決断を要求する。そのやり口は、まるで・・・
まあ何はともあれ、リベルと一緒に礼拝に行けることは、リアにとってこの上なく嬉しいことだから、機嫌がいいのは当然だろう。
「お母さん、教会は新しい服で行くの?」
「ああそうだよ。ムウンにお願いしてあるからね」
「うわあ、楽しみー。どんな服になるのかな」
「そうだね。ムウンが作るんだから、きっと素敵な服になるだろうよ。楽しみだね」
「うん」
「それにね、街へは何度か行ったけど、お母さんと一緒は初めてだから、すっごく嬉しい」
「そうか、そうだね。じゃあリアには街を案内してもらおうかな」
「うん、任せといて。あ、でも教会の場所は分からないよ。どうしよう」
「前回行ったリベルがいるんだから、大丈夫じゃないか?」
「あ、そうか。そうだね。じゃあ教会だけリベルにお願いしよう」
あくまで案内のメインは自分が引き受けると意気込む娘と、その姿にほっこりする母親。
そんな幸せな日々を重ね、教会に行く日は徐々に近づく。
さて、エイミースである。
リベルとともに家に戻ると、リベルは早速神像の絵を描き始める。
それを後ろから覗き込むエイミース。その表情はまるで、そう、自分に切り分けられるケーキをじっと見つめる子供のそれ。期待でキラキラしている。
マイヤ・マイヤの絵を描き終え、次はノーラ・ノーラ。
出来上がった2枚の絵に、興奮MAXのエイミースからあふれ出る神気!
神気の一部は目に見える光となったが、まだ周囲が明るかったおかげで騒動にはならなかった。
これが夜中だったら、間違いなく謎の発光事件となっていただろう。
だが、エイミースの幸せはそこまでだった。
彼女の挫折と絶望は、その絵を見てふと引っ掛かりを覚えたところから。
自分は一体どこに引っ掛かりを感じたのだろうと、今日一日を脳内で逆再生していき・・・とうとう気づいてしまった。
――マイヤ・マイヤ様とノーラ・ノーラ様への祈りが行われていない!
すわ教会の不手際かと神父への怒りに燃え上がったが、その当時の様子を振り返ると違和感を感じる。
そして。
――あ、これって・・・私のせいだ。
そう、とうとう気づいてしまったのだ。
自分のせいで祈りを行う前に会が打ち切られてしまったことに!
自分のせいでノーラ・ノーラ様の喜びを奪ってしまったことに!
エイミースはヘコんだ。それはもうヘコんだ。ひたすらヘコみ続けた。
両親に絵を見せるリベル、そしてリアに絵を見せるリベル。
そこで繰り広げられた素敵シーン、そして全開のリベルの笑顔!
普段なら見悶えていただろうそれらを前にしても、一切のリアクションは無い。
その目はまるで死んだ魚のごとく・・・
そして、ハイライトの消えた目でただリベルの後ろをついて歩く、そんな背後霊ミースな日々は続いた。
彼女はもう駄目かもしれない。もし彼女を知るものが見たらそう感じたかもしれない、そんな時・・・
その手紙が届いたのである。
彼女は復活した。
分かりやすく復活した。
おめでとう!
そんな、ある天使の挫折と復活の物語もはさみつつも、ついにリベルとリアが教会に行く日がやってきた。
「リベル―!準備できた?」
「おはようリア。お待たせ」
前回と同じ余所行きの服を着て家から出てきたリベル。
「おはようリベル!今日は私も新しい服よ!・・・どう?」
「うん、とっても似合ってるよリア」
「えへへ・・・」
リベルの素直な感想に、急に照れくさくなり何も言えないリア。
小さくても女の子である。
「さあ、今日は俺たちと一緒に教会に行くからな。ゴウンもムウンもいないが大丈夫だよな、リベル」
「大丈夫です」
「何言ってるんだい、あんたよりもリベルのほうがよっぽどしっかりしてるよ!あたしはむしろあんたのほうが心配だよ!」
「おいおい、そりゃあないだろう」
笑い声に包まれて、一行は街へと向かう。
果たして、リベルは今回こそ無事に祈りを捧げることができるだろうか。
そして、復活を果たしたエイミースの進退や如何に!?
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