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教会での出来事

その日、ジェーン王国内すべての教会を取り仕切るジェーン王国教会本部は、大騒ぎとなっていた。

エクレール領都の教会より、同教会内にて神の祝福が下ったとの報告が届いたためである。

女神たちより「あとは見守るのみ」との言葉を賜って以来、そのような事象は他国も含めて報告されておらず、もし事実ならば大変なことである。


ただ、報告書の内容があまりに要領を得ない。

これは報告が悪いと言う訳ではなく、明確な現象というより感覚的なものに近い現象であったことが原因のようである。

であるならば直接その司祭に話を聞く必要があると、本部付の司祭の中から神の現象に詳しい者が選ばれ、急ぎエクレール領都に向かった。



そして数日後、エクレール領都の教会にて。


「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました」

「早速お話をお聞かせいただけますか」

「ええ。奥の事務室へどうぞ」



「それでは、今回の事象について詳しくお聞かせいただけますか」

「はい。報告いたしました通り、今月の6歳の礼拝でのことでした。最初に気付いたのは、r礼拝堂の教壇に立った時でした」


その時のことを思い出しながら、領都の司祭は話し始める。


「ふと違和感を感じたのです。いつも通りの礼拝堂のはずなのですが、空気が清廉と言いますか清々しいと言いますか・・・、神聖さを感じたのです。」

「空気、ですか」

「はい。その時はそれだけでした。ですので、おそらく気のせいであろうと判断し、普段通りに話を始めたのです。そして、次に『異変』を感じたのはご神像の説明を行った直後でした・・・。もし神の奇跡であるならば、『異変』と呼ぶのは相応しくないかもしれませんが・・・」


「今の時点では『異変』で構わないかと思います。どうかお気になさらず」

本部の司祭は、この飾らない純朴な物言いに領都の司祭の真面目さと話の信ぴょう性の高さを感じ取りつつ、続きを促す。


「『左のご神像がマイヤ・マイヤ様である』と話したところで、子供たちから感嘆の声が上がりました。その時です。周囲が一瞬光に包まれたような感覚、そして『歓喜や期待』のような意識を感じたのです」


リベルの描くマイヤ・マイヤとノーラ・ノーラの絵への期待に、エイミースが爆発しそうになった瞬間である。


「ただそれもほんの一瞬で、私以外に感じた者はいなかったようです。参加者の様子に変化はありませんでした」

「確か、それでその時もそのまま続けられた、との報告でしたね」

「はい。不思議には感じましたが、一瞬であったこともあり、やはり気のせいであろうと。しかし、決定的なことがそのあと起きたのです」


本部の司祭は、ゆっくり頷くことで話の続きを促す。


「マイヤ・マイヤ様が天地創造を終え、ノーラ・ノーラ様が顕現された瞬間まで話し終えた時でした。部屋全体が神聖な空気に満ち、暖かな光と香りに包まれたのです。その時に感じたのは『労りと安心』でした」

「おお・・・」


言うまでもなく、ノーラ・ノーラから聞いた『真☆天地創造』の苦労話を偲んでのものである。


「この現象については、参加者全員が気付きました。そのため、この事が広まりデマや混乱が起きるのを防ぐべく、ここで会を打ち切ったのです」

「なるほど。本来であればノーラ・ノーラ様のお話と参加者による祈りとなる流れですね。そこで、よりはっきりした事象が発生していた可能性は確かに高いでしょう。私も良い判断だったと思います」


「以上が今回発生した事象のすべてです。いかがでしょうか?」

「そうですね、今のところは判断が付かないというのが正直なところです。何かこの件に関連しそうな前兆や、いつもと違うと感じた点はありませんか?」


「そうですね・・・・・・」

数日前くらいまで記憶をさかのぼり、あることに思い至る。

「今回参加した子供の中に、ひとり気になる子がいます」


「気になる子・・・ですか」

「はい。その子の名前はリベル」

「リベル・・・古代語の『自由』を意味する言葉ですね」

「はい。6年前にこの子の父親の相談を受けて私が勧めた名前です。しかし、お恥ずかしい話ですが私は古代語には然程明るくなく、リベルという単語が古代語であり自由を意味すると言う事を知らなかったはずなのです」


「それは・・・不思議、ですね」

「にもかかわらず、その時の私はその名前しかないと心の底から思い、知識として持っていないはずのその単語の由来などを話して聞かせたのです」


「・・・」

「今考えても不思議な出来事でした。しかも、名簿にその名前を見るまで、その事を完全に忘れて・・・いや、忘れたわけじゃない・・・そう、気に留める事が無かったというか、意識から外れていたのです」


本部の司祭は目を閉じて天を仰ぐ。

話を聞く限り、到底今回の一件に無関係とは思えなかった。


「その子供に会ってみたいですね。手配をお願いできますか?」

「そうですね・・・確かその子の従妹が次回の6歳の会に参加する予定になっています。前回中断した続きを一緒にと言う事で呼ぶ、というのはいかがでしょう?」

「ふむ、そうですね、それなら大事(おおごと)にせず自然に呼ぶことができそうですね。ではそれでお願いします」



こうして、リベルもエイミースも知らないうちに、リベルの6歳の礼拝への再参加が決まったのであった。

このことがリベルの運命にどう変化を及ぼすのか、まだ誰も知らない。

「領都の司祭」が前回の神父さんです。位としては「司祭」なので、教会内ではそう呼ばれます。

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