リベル教会に行く の3
「この世界には、二柱の神様がいらっしゃいます。どちらも女神さまで、お名前を『マイヤ・マイヤ様』『ノーラ・ノーラ様』とおっしゃいます。」
あちこちで、「マイヤ・マイヤさま」「ノーラ・ノーラさま」と名前を呟く子供たちの声が上がる。
子供たちの反応に、神父は満足そうに頷く。
「マイヤ・マイヤ様は、この世界をお創りになった創造の女神様です。皆さん、前にご神像がありますね。このご神像はマイヤ・マイヤ様とノーラ・ノーラ様を模ったもので、皆さんから見て左側がマイヤ・マイヤ様でいらっしゃいます」
子供たちの視線が左側の像に集まる。
アウトラインからディテールまで教会公式のモデルに沿った造形で、マイヤ・マイヤの特徴をかなり捉えていると言っていい。表情は何だか凛々しいけど。
「きれーい」「かっこいい」「すごーい」・・・
率直な感想があちこちから零れる。
そしてリベルは・・・「帰ったらリアに描いてあげよう」
――リベルの描くマイヤ・マイヤ様とノーラ・ノーラ様・・・ああっ!楽しみすぎるっ!!
「!!」
神父がハッと顔を上げる。一瞬急上昇したエイミースの神気に気づいたのだ。
だが、他に気付いた者はおらず先程と変わらない周囲の様子に、気のせいだったかと気を取り直して話を続ける。
「かつて、ここには一切がありませんでした。そう、大地も、空も、川や海も何もかも。何もないそこに、或る時マイヤ・マイヤ様が顕現されこう仰ったのです。『ここは生命の揺り籠、循環の間。さあ、相応しい姿を現しなさい』」
両手を高く掲げ、ノリノリの神父。前のめりになる子供たち。
ちなみに実際のマイヤ・マイヤのセリフは「んーー、このあたりでいいかしら?えいっ」である。
「すると、あたり一面白い光に包まれ、そこに大地が現れました。次に大地を空が覆いました。空に輝く太陽が大地を照らし、温めました。すると大地を祝福するように空に虹が現れたのです。虹は七色の如雨露に姿を変え、大地を水で潤しました。これが初めての雨です」
「雨は7日間降り続けました。山に降る雨は低きに流れ、川を作りました。川は低きへと連なり、海を作りました。そして水は大地の深くまでも届き、世界に生命を育む準備が整いました。そう、こうして私たちの住むこの世界が出来上がったのです」
歓声を上げる子供たち。
その子供たちをにこやかに見回し、歓声が落ち着いたころに神父は話を続ける。
「『数多の生命たちよ、この地こそが貴方たちの揺り籠。さあ、その姿を現しなさい』マイヤ・マイヤ様の凛としたお声に、この世界が命に包まれます。草木が生え、花が咲き実が実り、虫たちが集まりました。空には鳥が飛び交い、大地には動物たちが走り回ります」
「次にマイヤ・マイヤはこう仰いました。『私の声を聞くものよ、その姿を現しなさい』そして様々な種類の人間たちが姿を現しました。マイヤ・マイヤ様に近い姿をしたもの、耳の長いもの、背が低く力が強いもの、体の一部に動物の特徴をもったもの・・・」
「そうしてマイヤ・マイヤ様は人間たちに語り掛けます。『私の子らよ、貴方たちが他の生命たちを導くのです。貴方たちのことは、女神ノーラ・ノーラが導くでしょう』そして、ノーラ・ノーラ様が顕現されたのです」
実際は・・・
「えーっと、テンプレートから選べばいいのね。これとこれとこれと・・・あ、これかわいい。この子もいいわね。あとは・・・」と表示したテンプレートをポチポチと。
最後のセリフは「じゃあノーラちゃん、ママ帰るからあとよろしくねー」である。
このあたりの経緯は、のちにノーラ・ノーラがため息交じりに人々に伝えた。
まだ創世期の只中で、神が人の近くにいた頃のことだ。
それをノーラ・ノーラと教会が手を取り合って脚色し、そちらが創世神話として現在まで伝わっている。
苦労したのだ。
――ノーラ・ノーラ様・・・大丈夫、今でもノーラ・ノーラ様脚本のほうが正史としてちゃんと伝わってますよ。
このあたりの話を苦労話として聞いていたエイミース。
その話をした時のノーラ・ノーラの疲れたような表情を思い出し、上司に対する労りと同情があふれ、神気となって周囲を包む。
「あれ?何だかあたたかい」「いいにおいがする?」「ちょっと明るくなった?」
ざわつく子供たち、そしてその親たち。
神父も当然気づく。今度は気のせいではない神聖な気配。
「まるで女神様からのお祝いのようですね。皆さん、6歳おめでとうございます。今日のお話はこれで終了です」
内心冷汗だらだらの神父。
何の前触れもなく神の祝福があったなど、世間に広まったら絶対大変な騒ぎとなる。
それはまずいと、うやむやのうちに閉会とした。
本当はこのあとノーラ・ノーラの像の紹介とノーラ・ノーラに関する話があり、最後にマイヤ・マイヤとノーラ・ノーラへの礼拝があるのだが、混乱を防ぐため今回はカットとなった。
この一連の現象は本部に報告しなければならない案件だろう。
現象としては神気を感じたのみなので、さてどう報告したものやらと頭を悩ます神父だった。
「お父さん、お話面白かったね」
「そうだなリベル。でもこんな終わり方だったかな?」
「そうね。最近はこんな感じなのかしら?」
自分の6歳の時とどことなく違いを感じるゴウンとムウン。だが記憶自体が朧げで途中で打ち切られたとは気づかない。
そして自分のせいで打ち切りになったことを、エイミースは気づいていない。
自分の紹介がカットされたことに、そして自分への祈りが行われたかったことにノーラ・ノーラが気づいたら・・・
どうなるのかは神のみぞ知る、であろう。
その後、今度こそはと待ち構えていた串焼き屋台で食事を済ませ、帰宅の途に就く親子であった。
屋台の親父、リベンジ成功!
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