まずは勇者を探そう の3
コンビニ前。
天照さま情報によると、ここもまずまずの場所らしい。
夜中に空腹を覚えた若者が買い物を終え、気が緩んだ瞬間が狙い目なんだそうだ。
確かに真夜中は誰しも世界とのつながりが弱まる。
そんな時に屋外で気を緩めたりしたら世界から滑落しても不思議はない。
交差点と同じく事故による転移も起きるが、直接本人に干渉して自分の世界に引っ張り込むことも出来そうだ。
当然私はそんな強引な手段は用いないが。
「来た」
どことなく気弱そうな少年がコンビニに入っていく。
しばらく弁当の前で視線を泳がせ、何も手に取らずにパンコーナーに移動。
そこでもさんざん悩み、やはり何も手に取らずスナックコーナーに。そしてスイーツコーナー。
あ、そういえばマイヤ・マイヤさまにスイーツ頼まれてたんだった。まあ後でいいや。
などと考えているうちに、店内を3周くらいした彼はようやく買うものが決まったらしい。
結局最初に見ていた弁当を手に取りレジに向かう。
あの3周はいったい・・・
コンビニ店員に一切顔を向けず目を合わさず支払いを済ませる。
さてこちらも動き出そうかと一歩踏み出した瞬間、出口の前で90度進路を変えた少年は、雑誌コーナーで立ち読みを始める。おいコラ。
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私は待った。
終始無表情な少年をじっと見つめながら待った。
面白いか?なら目元だけでも笑おうよ。
悲しい話なのか?なら口元だけでも固めたりとかさ。
無表情はないだろう。魂ごと無表情って何?つまらないの?
なら読むのをやめようよ・・・
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もう1時間経ったよ。店員も睨むのをやめたよ。
弁当冷めるよ?あれ、そういえば温めてない。
しまった計画的か・・・
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結局彼はそのあとさらにもう1時間立ち読みを続けた。
ようやく少年が店から出てきたが、待ち疲れて気が緩んでいた私は一瞬そのことに気づかなかった。
少年に意識が向いた時には状況が変わっており、私は出遅れてしまったことに気づく。
目の前ではガラの悪そうな数人の男女が集まり、少年を囲んでいた。
怯えた顔をする少年。そのまま肩を小突かれ暗がりに連れ込まれそうになる。
いけない、助けなきゃ。いやでも干渉になる。
この世界の神でもないのに手は出せない。でもどうしよう・・・
私は数舜悩んだがすぐ決意し、そして彼らのもとに向かおうとして・・・
「消えた・・・」
目の前で消えた。
ガラの悪い連中ごと消えてしまった。
きっと今頃は見たことのない草原か森の中で周囲を見回しているに違いない。
そして狼っぽい魔物に襲われそうになって逃げ出しているんだろう。
もしかしたらガラの悪い男に突き飛ばされ囮にされるかもしれない。
そこで何かの力に目覚めることができれば少年の物語が始まるんだろう。
がんばれ少年。
そちらの世界ではたぶん立ち読みは許されないぞ。
本は買ってから読もうな。
あと優柔不断もほどほどにな。
さあ、次だ次。