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リベル教会に行く の2

今日教会に集まった子供たちは30人ほど。

既に参加受付は終了し、名簿には子供たち全員の名前が書かれている。

神父はそこに書かれたある名前を見て、ふと昔の出来事を思い出した。


「そうか、もう6年も経ったんですねえ」

しみじみとつぶやく。


リベル。

古代語で「自由」という意味だ。


昔から、どの街でも教会で子供に付ける名前を相談する親が多かった。

まるで教会の役割と認識されているかのように。

そのため、すべての教会には聖書とともに名づけ辞典が配備されるようになった。

結果、名づけの相談は教会における事実上の一業務となったのである。


それは、ここエクレールの街でも同様であった。

神父は、まず相談に来た親から子供の特徴や親の期待など色々と話を聞く。

そして、名づけ辞典から希望に合いそうな名前を探すのだ。

それが名前の相談を受けた際のいつものルーチン。


だが、その日は違った。その日だけは違った。

その日、名前の相談に来たのはその子の父親。

いつものように、特徴や期待などを聞き、さて名前を探そうかと辞典に手を伸ばしたその時、それまで一切話に出なかった「自由」というキーワードが脳裏に浮かんだ。

と同時に脳裏を埋め尽くす、あまり得意ではなかったはずの古代語で自由を意味する「リベル」という名前。まるで天啓のように。神託のように。


そこからはもう一直線であった。

神父は辞典を開くことなく、リベルという名前とその由来を訥々と説明し、その名を勧めたのである。


神父がリベルという名前を誰かに勧めたのは、後にも先にもその一度だけ。

その後も名前の相談は数多くあったが、なぜか候補として挙げようと思ったことは一度もない。


その時の父親が子供にリベルと名付けたかは知らないが、今日見た名簿にその名前があった。年齢的にもまず本人で間違いないだろう。

あとでどの子がリベルか見てみようと心に決め、神父は事務室を出て子供たちのもとに向かった。


教会の扉をくぐり礼拝堂に入ると、正面最奥にマイヤ・マイヤとノーラ・ノーラの立像が並び、訪れた礼拝者を見下ろす。

神父が講話を行う際は、参加者は並べられた椅子に座り、神像の前に立つ神父の話を聞く。

今日は、前の席に子供たち、後ろの席にその親たちが座っている。


当然天使のための席はない。想定外なので。

今日のエイミースは子供席の横に陣取り、リベルと神父の両方を視界に収めている。

これがもし子供の入学式を撮影するお父さんだったら間違いなく教師の制止を受ける、そんな位置取りである。


『何か・・・空気が違う?』

子供たちの前に立った神父は、何か違和感を感じてゆっくりあたりを見まわす。

目に入るのは普段と変わらない礼拝堂、だが何か・・・雨上がりの澄んだ空気を吸い込んだ時のような清々しさを感じた。


もちろんエイミースがいるためである。

教会という神に近いこの空間で、纏う神気がうっすらと活性化しているのだ。

といっても今はまだごくわずかな違いしかなく、この段階で気づくことができる者はほとんどいない。

そこに気付くことができたのだから、神職としての能力や適性が高いと言えるかもしれない。


まあ、過去にシリースの強引な「誘導」を受けた影響かもしれないが。



そして神父は話し始めた。


「みなさん」


それまでざわついていた子供たちが、口を閉じて神父に注目する。

落ち着きがない子供も、何だか静かにしなければいけない気になる、そんな不思議な力のある声。

これも実は、神父が身につけなければならない技術だったりする。

訓練と実践で身に着けるのだ。


「6歳になった皆さん、ようこそ教会へ。今日生まれて初めて教会に来たという子も多いと思います。皆さんは、教会とは何をする場所か知っていますか?」


神父は微笑み、子供たちを見回す。

別に誰かに答えさせようとしているわけではない。溜めと引きである。


子供たちの意識と注目が集まったところで話を続ける。

「教会は、神様にお祈りし、神様の声を聞くところです。今日はその神様のお話と、この世界がどのようにしてできたのかのお話をします」



神様、最後までエイミースが気づかれずにすみますように・・・


下の☆☆☆☆☆で評価してくれたら嬉しいです。

神様、誰か評価してくれますように・・・

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