リアとお絵かき の2
毎日のお絵描きがひと月以上も続くころには、ふたりともかなり上達した。
最初のころは自分が気になった個所だけ大きくなったり線が入り組んだ箇所が大きくなったりと、「言いたい事は良く分かる!」な絵が多かった。
それはそれで味のある絵だったが、最近は「そうか全部描かなくっても良いんだ」ということに気づき、省略するところは省略して全体のバランスの取れた絵が描けるようになっている。
実は二人ともなかなか絵の才能があるのではなかろうか?
そんな二人は、単体の絵から風景画に移行しようとしていた。
近くの木、その先にある畑、遠くの山の組み合わせである。
遠近法のテクニックを知っていればそれほど難しくないが、そうでなければ単なる縦並びの絵になってしまう。
取り敢えず描いてみた二人は、揃って首をひねった。
「何かちがう」
何が違うのか良く分からない。
炭売りの店で見た風景画も、ひと月以上たって記憶が薄れてきていた。
あの絵は確かに見たままの景色がそのまま描かれていた。
地面に描いた縦並びの絵とは全く違っていたと思う。
「もういちど、あのえを見たいなぁ」
そのチャンスはすぐにやってきた。
ムウンの雑貨を卸す日が来たのである。
「リベル、明日また街に行くぞ」
「お父さん、リアもいっしょに行っていい?」
「まあリアの家がいいといえば大丈夫だが、どうした?」
「リアにえを見せたいんだ」
リベルは、最近ずっとリアと地面にお絵描きしていること、景色が上手く描けないこと、炭売りの店に貼ってあった風景の絵をリアにも見せたいことを説明した。
「ふむ、それなら今から隣に訊きに行くか」
許可はすぐに下りた。
むしろリアの両親からは連れていくことを逆にお願いされた程である。
何しろ、前回リベルが連れて行ってもらった際には、何故リベルは行ったのに自分は連れて行ってくれないんだとしばらく荒れていたから。
リアの家は契約している商人が定期的に家まで仕入れに来て、必要なものもその時に買えるので、ほとんど街に行く機会はない。
連れて行ってくれるというのならば是非といったところである。
当然リアも大喜びだ。
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街までの道中、そして「今日は二人で手伝いかい?」と門衛との再会、買い物に食事と、諸々楽しく過ごすリベルとリア。
なお、広場には飲食スペースが出来ていた。
さすができる商人たちである。
そして。
「すごい。じょうずな絵だね」
「うん、ぼくたちの絵となにがちがうんだろう」
その絵の中には、近くのものも遠くのものも一緒に描かれている。
それが、不思議なことにとても自然に感じ取れるのだ。
「そんなにその絵が気に入ったのかい?」
炭売りの店主がふたりに話しかける。
「うん、ずっと描いているけど、ぜんぜんこんなじょうずに描けないんだ」
「そうか・・・」
店主は少し考え、
「どうだいゴウンさん、また炭と紙のセットを買ってってくれたらあの絵を一枚付けるよ?」
「そりゃあありがたいけど、いいのかい?」
「ああ、どうやらこの先もお得意様になってくれそうだからね。それにそろそろ違う絵を貼ろうかとも思っていたからさ」
ゴウンは前回買ったお絵かきセットをリベルが全く使っていないことを知っていたが、その前の練習として庭の土に絵を描いている事も聞いている。
それ故に、ある程度上達したら一気に使い始めるだろうことも勿論分かっていた。
なので、
「じゃあ今日も2セット買っていくよ」
「まいどあり。良かったな二人とも。上手な絵が描けたら持ってきて見せてくれよ」
「うん、ありがとう、お父さん、おじさん」
「2セット買ってくれたから絵は2枚とも付けるよ。皴にならないように紙の束といっしょに入れておくから」
こうして、リベルは風景画と人物画のお手本を手に入れた。
絵のことで頭がいっぱいになったリベルは今回も家に着くまで諸々上の空、その横でリアもまったく同じ状態である。
前回見た光景の再現に、またやってしまったかと今回も苦笑いのゴウンだった。