リアとお絵かき の1
買ってもらったお絵かきセットがうれしくてたまらないリベル。
早速絵を描こうと思ったそのとき、
「どうやって描いたらいいんだろう」
「なにを描いたらいいんだろう」
何しろ、絵を見たのは昨日が初めてで、絵という概念そのものがなかったのだ。
絵本やアニメを見て育った日本の3歳児ほどの知識すら持っているはずもない。
ここにはおなかをすかせた子供たちに自分の頭を分け与えるヒーローはいないのだ。
目で見たものをどうやって絵にしたらいいのか?
それは3次元を2次元で表現する手法。5歳のリベルが途方に暮れるのも当然である。
リベルは昨日炭売りの店で穴が開くほど眺めた絵を思い出していた。
それがリベルの知っている唯一のお手本だから。
「・・・!」
野山を描いた風景画、あれなら外を見ながら同じように描けるかも。
でもいきなり炭を使って紙に書くのは嫌だった。あれは宝物だから。
そしてリベルは思いついた・・・以前木の棒で庭の土に線を引いて遊んだことを。
「にわに描こう!」
そんなリベルの百面相を、リアは横で不思議そうに見ていた。
なんとなく、今は話しかけないほうがいいかな?などと思いながら。
そしてリベルが唐突に、
「リア、そとでえを描こう!」
「・・・え?ってなに?」
当然リアも絵を知らない。
リベルもどう説明したらいいのかわからないから、そのまま庭に連れ出す。
そして立ったまま地面を引っ掻くのに丁度いい長さの棒を拾い、さて何を描こうかとあたりを見まわした。
絵を描くなら、目に見える情報が少ないもののほうが簡単だ。
お絵描き初心者リベルの目に留まったのは・・・
遠くの山!!
なんと輪郭だけなら線一本で表現可能である。実に初心者向け!
早速地面に、空との境目である山の輪郭を写し始めた。
遠くと地面を交互に見ながら、ちょっとずれたところは足で消して描き直したりして。
そんなリベルとその視線の先と地面の線を見比べてリアは気づいた。
「これ、あの山ね!」
「そう!山のえを描いてるんだ!」
リベルはとても嬉しくなった。
自分の描いた絵が分かってもらえることがこんなに嬉しいなんて!!
自分の作ったサラダが「おいしい」って言ってもらえた時と同じくらい、いや、それよりもずっと嬉しかった。
サラダの時と違い誰からの指示もなく自分で一から描いたのだから、それも当然だろう。
「リベル、すごーい!!」
素直な賞賛に顔を真っ赤にしたリベルが、
「リアもいっしょに描こう」
「うんっ!」
その日一日、ふたりで色んなものを描いた。
落ちている石、小さな花、空に浮かぶ雲・・・
輪郭だけで表現できるもの単体を描き、お互いに見せ合い当てあい、日が暮れるまで一緒に楽しく絵を描き続けた。
そしてお絵描きは天気のいい日の日課となる。
紙と炭の出番はまだもう少し先のこと。