初めての街 の1
「リベル、今日は街へ行くぞ」
「街?」
「ああ、ムウンの作った小物を卸すのと、買い物だ。リベルは街、初めてだろう?」
「うん、街行きたい!お父さん」
「よし、着替えて支度したら出かけよう」
生まれて初めて街に行くことになったリベル。
「お母さんお母さん、ぼく今日お父さんといっしょにまちに行くんだって!」
「そう、よかったわねリベル。じゃあお出かけ用の服に着替えましょう」
ムウンはそう言うと、リベルが見たことのない服を取り出した。
「ふわぁぁ。このふくどうしたの?」
「お出かけ用につくったリベルの服よ。せっかく街に行くんだからちゃんとオシャレしないとね」
街に行くことになって急上昇したリベルのテンションが、初めて見るオシャレな服でさらに上がる。
そして。
「これでよしっと。うん、よく似合ってるわよ、リベル」
「うわあ!うわあぁ!うわあぁぁ!」
着替えたリベルはもうテンション爆上がり状態である。
もし姿見があったら天元突破間違いなかっただろう。
――はぁぅぅぅぅ
エイミース、天元突破。
勢いあまって天界に突入しそうな程のテンションだが、もし今このタイミングでうっかり天界に戻ってしまったら、このリベルの姿の記録は中断される。
するとどうなるか・・・
後から記録を見るノーラ・ノーラ。興奮するリベルの姿にテンションMAX!、からの絶望。
この分かりやすい未来を防ぐため、エイミースには是非とも冷静さを取り戻してほしいところである。
「お母さん、ありがとう!」
「気に入ってくれてよかったわ。特別な時に着る服だから大切に着てね」
「うん、ぜったいによごさないよ!やくそくっ!」
リベルの喜びように大満足のムウン。
街に連れていくことが決まってから手間暇かけて作った服だったが、大喜びのリベルの姿に全て報われた思いだった。
「さあ、そろそろ出かけよう」
ムウンから受け取った商品を背負い袋に入れたゴウンは、リベルに声をかける。
「はーーい」
「疲れたら乗ってもいいからな」
「うん」
帰りの荷物を載せるための一人引きの荷車を引き、ふたりは街に向けて出発した。
今まで家の周りが世界のすべてだったリベル。
周りの景色に興味津々である。
「この道ずーっと続いてるね。お父さん。街まで続いてるの?」
「ああ、街まで続いているな。それからその向こうにもずっと続いてるぞ」
「すごーい。どこまでもどこまでも歩いていけるの?」
「行ったことはないが王都に続いているそうだ。その先がどうなっているかは聞いたことがないなあ」
そんな話をしながら1時間ほど歩き進む。
「あとどれくらいで街に着くの?」
「今ちょうど半分くらいだ。どうだ、疲れたか?」
「少しだけ」
「そうか。疲れたら早めに言えよ。街に着いたときに疲れてたら大変だからな」
「うん、もう少ししたら載せてもらう」
「わかった」
リベルの家から街までは約5km、大人の足は1時間とかからないが、今日は特に急ぐ理由もないので、リベルの速さに合わせてゆっくり歩いている。
それでも1時間以上歩き続ければ、さすがに小さなリベルは疲れてくる。
「お父さん、のってもいい?」
「おお、いいぞ。よくがんばったな」
ゴウンはリベルを抱き上げ、荷車に乗せる。
「さあ、出発だ」
リベルの足に合わせる必要がなくなったため、ゴウンは少しスピードを速める。
荷台の上で少し視点が高くなったリベルは、楽しげにあたりを見まわす。
街道の周りには畑や草原が広がり、その向こうには森が見える。
初夏の風が頬に心地よく、空には森に向かって鳥が飛んでいる。
澄んだ空気の中、遠くの山々まできれいに見渡せ、ゆっくり流れる景色にリベルは目を輝かす。
そして。
「街が見えてきたぞ」
前方に壁に囲まれた街が見えてきた。
「さあ、もうすぐだ」
「お父さん、おりていい?」
荷車からだとゴウンの背中で街がよく見えない。
すっかり体力が回復したリベルは、ゴウンの隣で街に向かって元気に歩き出した。
そして遂に、リベルは生まれて初めて街に足を踏み入れる。