お兄ちゃんになる
「ねぇリベル、ちょっと聞いてくれる?」
「なに?おかーさん」
「リベル、あなた、お兄ちゃんになるのよ」
「???」
よく分からないといった表情のリベル。
そんなリベルに、ムウンは微笑みながら
「このおなかの中に赤ちゃんがいるの。あなたの妹か弟よ」
「!!」
ムウンの言葉にリベルは驚く。というか意味がわからない。
今まで自分の家と隣の家が世界のすべてだったリベルは、当然妊婦を見たこともない。
それにこどもがどうやって生まれてくるかなんて疑問に思ったこともなかったから。
「おなかの中に小さな赤ちゃんがいるの。だんだん大きくなって、『もうおなかから出ても大丈夫』ってなったら生まれてくるの。ねぇリベル、あなたもそうやって生まれてきたのよ」
ムウンの話をじっと聞くリベル。
よく分からないけれど、兄弟ができることはなんとなく理解できたようだ。
「赤ちゃんはいつ生まれてくるの?」
「そうねぇ、もうすぐ夏が来て、そのあと秋になって、だんだん寒くなって冬になったら生まれてくると思うわ」
「そっかー、たのしみーー」
リベル、満面の笑み。
「そうね、私もとっても楽しみ。だんだんお腹が大きくなって動きづらくなると思うから、そうしたらリベルもお手伝いお願いね」
「うん、もっと色々お手伝いする!」
「ありがとう、あなたはきっといいお兄ちゃんになるわね、リベル」
――兄弟が増えるって、子供にとっても一大イベントよね。リベルのことだから、きっといいお兄ちゃんになるに決まっているわ。そのためにも無事生まれてくるよう私も気をつけて見守らないと!!
何かあればすぐに助けられるよう気を引き締めるエイミース。
すぐそばで天使が24時間守るのだから、小さな命が無事に誕生するのは、もう約束されたようなものだろう。
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そして時は過ぎ
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「おぎゃあ、おぎゃっ、おぎゃあ・・・」
さらに
「へみゃあ、へあっ、ほにゃあ・・・」
「おうおう、やっぱり双子だったよ」
今回もリベルの時と同じ産婆さんだ。
お腹の大きさから双子を予想していた、さすがの大ベテランである。
手早く2人を取り上げてキレイに整え、おくるみで包む。
「ほらご覧、ムウン。男の子と女の子だよ。予想よりちょっと早く出てきたけど、どっちもとても元気だ」
「ええ、ほんとうに。ふたりともちゃんと生まれてきてくれてありがとう」
ベッドに横たわったまま微笑むムウン。
疲れきった、でもやりきった満足げな、そしてとても嬉しげな、そんな笑顔。
母親の顔。
「赤ちゃん生まれた?もう入っていい?」
ドアの外からリベルの声が聞こえる。
「いらっしゃいリベル。赤ちゃんにお兄ちゃんの顔を見せてあげて」
おそるおそる部屋に入るリベル。
「あなたの弟と妹よ。きょうからリベルはお兄ちゃんね」
「すっごく小さい・・・すごい・・・」
生まれたばかりの赤ちゃんを前に食い入るように見つめるリベル。
とそこに、
「すまない、遅くなった!」
「そんな汚い格好で入ってくるんじゃないよ!!汚れ落として着替えてきなっ!!」
ドアを開けた瞬間に産婆に叩き出されるゴウン。
予定日はもう少し先だったので、いつもどおり狩りに出かけていたが、知らせを受けて大急ぎで切り上げてきた。
そんなドタバタも気づかない様子で双子を見続けるリベル。
そして
「ようこそ赤ちゃん。ぼくはリベル、おにいちゃんだよ」
ほんの少し、リベルに芽生えた兄の自覚。
こうして、リベルはこの日、お兄ちゃんになった。